賭けの行方 3
崩れていく超巨大建造物の衝撃は、周辺に立っている同様の建造物はもちろん、焼き鳥を奢って貰った辺りなど、普通の地域も巻き込んで次々と崩壊していった。
その音と衝撃は、まるで巨大な爆弾が炸裂したかのようだ。
その様子を、同じような建築物の屋上から眺めている3人の姿があった。
相当の距離があるが、それでも破壊の規模は分かる。死傷者はおそらく数万――いや、数十万にもなるかもしれない。
「おいおい、これはもうシャレにならねえぞ」
ローブを着た短い金髪の男は、道を突き進む爆炎のような土煙。そして巻き込まれて連鎖的に崩壊する他のビル。吹き飛ぶ普通の店、人。それらを鷹の視野のようにハッキリと捉えていた。
「これがあいつの仕業だってのか? 正気の沙汰じゃねえ! これが人間のやる事か!」
爆音とサイレン、それに反響で聞き取りづらいが、非常事態を知らせる放送も流れている。
だがそれとは別に、3人には特別な指示が来ていた。
「直ちに成瀬敬一を始末しろとの事だ。どうやら召喚の秘宝を強奪したらしい」
「あの部屋に立ち入ることは不可能。それは召喚者が持つこの世界の法則。制約と言って良い」
「確かにな。だからこそ、この世界の秩序は保たれていた。良いか悪いかは別としてな。だが例外もある」
「その例外が奴に適用された? 冗談じゃねぇ、ありえねーんだよ」
最初から感情的だった陣内はともかく、緑のサングラスに縞スーツの男――木谷敬と、盾のように巨大な剣を両手に持った田中玉子は、それぞれ冷静に下界の惨状を見ていた。
だがあくまで見た目の問題だ。全員この世界に来て長い。この街にも、それなりに愛着も有れば思い出も多い。
それが一角とはいえ、こうも見事に破壊され多数の死者が出ているのだ。完全に冷静ではいられない。
「俺は行くぞ。理由は知らねえ。だから他の連中がやるならそれでいいと思った。だがこれを見たらもう放置は出来ねえ。成瀬敬一とかいう男は俺が殺る」
「それは賭けの結果を反故にするというのかね?」
3人の背後からそう声を掛けたのは、黒い鎧の男だった。
その名をブラッディ・オブ・ザ・ダークネス。
「大神殿を出るまでに彼を仕留められなければ、迷宮に帰るまでは手を出さない。それが我らの賭けであろう」
「クソが」
ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスの全身は切り刻まれ、左腕も首も無い。
全身には赤と銀の斑模様をした手槍が幾本も刺さっており、何処から見ても普通なら死んでいる。
「こんな人形ごときで我らを翻弄するとはな」
「最初から知っていれば、10秒で始末は付いた」
「そこは我が演出の成果というものだな。どちらにせよ、賭けは我の勝ちである」
「良かろう」
サングラスの男が、指でサングラスを少し上げる。
ごく普通の仕草だが、180の長身と端正な顔立ち。そしてスーツでも隠せない程に鍛えられた肉体が、それを格好の良いものとして演出していた。
それを見る3人には、何の感慨も無かったが。
「だが大変動から間もない今は帰還者が多い。当然、我々教官組も多くが地上に戻っている。逃げ切るなど有り得ない。それにこの騒ぎだ――もう動いているのではないのか? あの方々がな」
「どれほどのスキルを持とうとも、決して勝てない絶対の守護者。同じ10人と言われても、私たちとは何もかもが違う」
「素直に木谷に倒されとけばよかったんだよ。そうすれば、まだ人間として始末してもらえたろうに」
「お前達の死に様はそれで満足か? 人として殺される事に何の意味がある?」
「確かに同じ。死に方に意味も価値もない。今回の賭けはブラッディ・オブ・ザ・ダークネスの勝ちで良い。だけど――」
「あれは死なぬよ。いや、死ねぬのだよ。まあ見ておくがいい。さらばだ、陣内、木谷、田中――」
「フ・ラ・ン・ソ・ワ」
「……さらばだフランソワ。いずれ迷宮で会うだろうな……ククク」
その言葉を残し、ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスは霞のように消え去った。
いや、彼らの言葉通りならただの人形が。
「あの状況から逃げ延びる? はっ! なら次の賭けだ。もし奴が無事に迷宮に逃げ込むようなことがあったら、出会っても1回だけは殺さずにいてやるぜ」
「それは戦った時の負けフラグだな」
「陣内の死亡決定」
「うるせーわ!」
いよいよ第一部最後の章がスタートです。
果たして目的は達成できるのか!? お楽しみにです。
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