龍平と戦うために戻って来たわけじゃないんだ
目の前にいる女の子はこちらを殺す気マンマンだ。
以前の二人は俺を殺すというより、俺を帰そうとしていたようなところがあった。実際にそう信じていたのだろう。俺は全く信じていなかったがな。
そういった意味では、あの二人は人間味があったな。一方の俺は、彼の言うように化け物だった。
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
またかよ!
何処にも逃げ場がない。攻撃方法も分からない。
だけどこいつはセポナには一切攻撃をしていない。無関係な相手を巻き込まないのは感心だが、同時にこの攻撃はセポナを巻き込むような広範囲でもないって事だ。
ならやるしかないな。
剣を胸元に構えて突進する。小回りの利く片手剣だ。この状況ならどんな攻撃にも対応できる。
もう時間がないのは確実だ。多少のリスクは飲んででも、ここは仕掛けるしかない。スキルが発動して近くに移動出来ればそれはそれでラッキーだ。
なのに拍子抜けするほどあっさりと、彼女の目の前まで移動出来た。
驚愕に見開かれた黒い瞳。その奥に光る紋章。間違いなくスキルを使っている。
どうやって突破した? だが考えるのは後だ!
俺は全力で、上から下へと剣を振り下ろした。
――ガッ!
それはブラが透けるほどに薄いシャツとは思えない硬さと音。
だがそれがどうした! 刃が通るならこのまま押し切る!
鋼の様なシャツを斬り裂き、ブラを斬り裂き、左のさほど大きくない乳房を縦に斬り裂く。だが――。
バキン! という金属音と共にダークネスさんから貰った短剣の先端は折れて弾け飛んだ。
強度が足りなかったか。
だけど彼女はガクンと崩れ落ちた、目に生気もない。だけど死んではいない。皮膚下の筋肉を切っただけで、内臓には届いていない。
痛みと出血によるショックって所だろう。もう抵抗は出来ない。
迷わず構えなおす。先端は折れてしまったが、首を斬るくらい造作もない。
人殺し――誰かが言った気がした。多分もう一人の俺だ。正気の俺。人である俺。
だけどそれがどうした。これが初めてじゃない。痛みによるショックなど、すぐに覚める。今やるしかないんだよ。
だからさようなら、人間の俺。
その瞬間に感じた空気。あえて言うなら殺気だろうか。だけどそんなに生易しいものではなく、いきなり心臓を貫かれたような錯覚さえおきた。だけど同時に懐かしさを感じられたんだ。
「敬一いぃぃ!」
壁を破壊して現れた人物は、土煙の中、迷わず俺に拳を叩きつけた。
スキルのアナウンスを待つまでもない。避けなければ確実な死だ。
咄嗟に剣でガードする。刃を立てて。そいつが素手である事が見えたから。
そしてそれ以上に、知っていたのだから。
凄まじい衝撃音と共に、剣の残った部分が粉々に砕け散る。
躊躇に期待して刃で受けたのだが、一切止まらず振り抜きやがった。
「あーあ、半分以下の長さになっちまったぞ。一応、借りものだったのにな」
俺は極力、冷静に声を掛けた――つもりだった。
だけど、自分でも動揺が分かる。声が震えていたのを自覚する。
だってそうだろう? 目の前に居たのは龍平……親友の西山龍平だったのだ。
だけどその目は殺意に彩られ、全身からはオーラのようなものを漂わせている。
剣の刃と真っ向から打ち合った拳には傷一つ付いていない。
忘れてなどいない。こいつのスキルは肉体強化だ。だからといって、この剣を正面から砕いて無傷とか、ちょっとチートが過ぎるのではないだろうか。
「だけど会えて嬉しいよ、龍平。話したい事……いや、そうじゃないな。話さなきゃならない事が――」
「死ねぇー!」
死ね、だと!?
避けられない。早すぎる。
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
当然だろう。無理だ。
一瞬だけ見えた右ストレート。咄嗟にガードしようとしたが、反応など出来る速さでは無かった。
龍平の拳は容赦なく俺の顔面に当たり、顎から上を吹き飛ばしていた。
……だけどまあ、俺も結構図太くなったものだ。逞しくなったと言ってもいいか。
目の前にまだ龍平が立っているのを感じる。
あいつは今どう思い、何を感じているんだろう。
光に包まれて消えない俺を訝しんでいるか?
それとも、あの女神官に何か聞いていて、こんなものだと納得しているのか?
まあどちらにしろ――、
そんな時、部屋全体にサイレンが鳴った。
いや、これは違う。建物内全て……もしくはこの都市全てかもしれない。
『人間の姿をした怪物が大神殿を襲撃。召喚及び送還の儀に使う秘宝を奪い取り、塔を破壊しました。このままでは新たに召喚する事は勿論、今この世界にいる召喚者の方々が帰る事も出来ません。一刻も早く怪物を打倒し、秘宝を取り返してください。繰り返します――』
いつも応援ありがとうございます。
ご意見ご感想やブクマに評価など、何でも頂けると次の糧になります。
よろしければ、是非餌を与えてください(*´▽`*)






