余計な戦闘は本意じゃないがこれだけはやっておかないとな
美しい部屋にある美しい塔。
その中心部分に、嵌め込まれていた見覚えのある物……。
「これは……時計か?」
新品のようにも見えるが、3つの針と12の数字で時間を計る機械だ。
デジタル全盛になって以来、こういったものを見る機会は相当に減った。だけどまだドラマなんかにも出てくるし、たまに売っているのを見かける。しかし何でこんな物がここにあるんだ?
時間は2時33分17秒を指していた。だけど多分、意味のある数字じゃないな。
もし日にちを示す機能があれば、それはとても重要な証拠になったに違いない。
「少し残念だが、まあ何かにはなるだろう」
塔の中に埋め込まれているようだったが、俺が触れると周辺がポロポロと崩れて取れた。
言うまでもなく、外れたのだろう。
時計を外した瞬間から、塔から力が失われていくのを感じる。
そうか、やはりこいつが……。
なぜこんなものがここにあるのかは分からない。だけどこれは、間違いなく俺達の世界の物だ。何せ、実際に数字が読めたのだからな。
予測だが、こいつがここと俺達の世界を繋ぐキーアイテムだったのだろう。
持って帰って研究すれば、きっと何かわかるかもしれない。
「それをすぐに戻しなさい! この不心得者!」
うわ、生きてたんだ。
振り返らなくても声を聞けばわかる。というか、今さっきまで話していたんだ。これで忘れていたら俺の脳がやばい。
振り返ると、ただでさえ露出の高かった服はもうボロボロ。痴女を通り越してもう何というか……ではあるが、やったのは俺だしな。
それにさすがに痛々しすぎて、そこに関してどうこう言う気はない。
それよりもよく戻って来れたなと思うが、彼女を支えている女性がいる。
見たところ召喚者だろう。日本人だ。
背は150センチの後半。黒髪をポニーテールに結び、見た目には鎧は付けていない。
丈が短くおへそが垣間見える白いシャツに、透けている黄色いブラ。
下は体育で使うようなショートパンツに膝サポーターだ。
美人と可愛いの中間……いや、美人系寄りか。歳は近そうに見えるが、鋭い眼光と身に纏う空気は高校生のそれではない。この世界で見た目の歳を気にしても仕方がないな。
「貴方がいてくださって助かりました。あの男は最低最悪の狼藉者。貴方がたの帰還を妨害に来たのです」
「やっぱり召喚者か。酷い言われようだが、その点は誤解だぞ」
「あの道具はこの世界と貴方がたの世界を繋ぐもの。もしあれが奪われてしまったら、もう貴方がたは帰れません」
「それはこの世界で死んだら、本当に死ぬって事?」
「そうなります」
ポニーテールの少女の質問に淀みなく答えているが……いやいや、そうなりますじゃないだろ……。
「あんたの正体はヨルエナさんに聞くとして、先ずはその時計を床に置け」
「そうするとどうなるんだ?」
「大人しくするのなら、それなりの処遇を約束しよう」
「なら無駄だな。その神官やこの世界の連中は、俺を殺す事しか考えていないよ。何と言っても、元の世界へ追放したはずの人間がこの世界にいるなんてあってはならない事だからな」
「追放?」
少女は少し訝しそうに確認をするが――、
「こちらの不手際があったことは認めましょう。ですが、それにより彼の精神は破壊されてしまいました。今は一刻も早い対処を!」
女神官は平然と嘘を言ってのける。何というか流石と感心すれば良いのか?
「――だ、そうよ」
空気が変わる。彼女の目の奥に水色の光を宿した紋章が見える。
まあ、この状況でどっちを信じると言われたら向こうだろうな。
ならついでだ――、
俺は塔に触れ、それを粉々に砕いた。
同時にアーチの部屋全体に、女神官の言葉にもならない絶叫が響き渡った。
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