スキルは本当にあったんだ
一人ずつ前に出ろと言われても、なかなか皆もじもじして動こうとしない。
もう足にも力が入る。立ち上がろうと思えば問題無いのだが、それでも最初の一人ってのは勇気がいるぞ。
何せいきなりハズレを引いて、即『お帰り下さい』は恥ずかしい。
「じゃあ早速俺のスキルを見てくれ」
そう言って立ち上がったのは、俺達と同じ学校の生徒の一人だった。
運動部だろうか、鍛え上げられた体つきが逞しい。背も180センチを超えている。
顔つきは厳ついが余裕の笑みが見て取れ、今まで挫折なんて味わった事なんて無かったのだろうってイメージを受けた
「3年の栗森先輩よ」
「先輩、知っているんですか?」
「野球部の有名人よ。うちは甲子園とは無縁だけど、絶対に将来はプロになるって言われている人」
「そんなに凄いんだ」
「凄い人で人気はあるんだけど、私はちょっと苦手かな」
はにかんだ笑顔で奈々が補足を入れた。
たしかに、ぼんやりとした奈々と、あの太陽のような男が一緒にいる姿は想像できないな。
そうこうしている間に、栗森先輩が神官風の女性の前に立つ。
壁際に立つフードの連中が知らない言葉を唱え始めると、二人の間に光の膜が現れた。
「貴方のスキルは水操作です。おめでとうございます、さあ、それをお受け取りください」
何がおめでたいのか。それにそれってなんだ? と思っていると、先輩は光る膜の中に手を突っ込んだ。
こちらからだと後ろ姿なので表情は分からない。
だけどそこから何かを取り出すと、くるりと振り返り、手に持っていた金と宝石を組み合わせたような豪華な首飾りのような装飾を高々と掲げて見せた。
その表情は、実に清々しく、また自信に満ち溢れていた。
当然の様に、戻って来た先輩には人の輪が出来ており、質問が殺到した。
そりゃそうだろう。もし誰もいかなければ俺が聞いたよ。
「まあまあ落ち着け。何の事は無い。光の膜が現れると、何か声が聞こえるんだ。なんというか、ゲーム? ってやつの解説みたいなやつだったな」
あ、先輩ゲームとかやらない人なんだ。今時珍しい。
「剛先輩、お疲れ様です!」
「それで、自分がどんなスキルを使えるかや、使い方なんかも頭に入って来たんだよ」
「その宝飾みたいのは何です?」
「綺麗ですね!」
「ああ、ありがとう。これは膜の中に浮いていたんだ」
膜の中に?
見た所、女性と先輩の間は1メートルも無かった。
手を伸ばした時は、もしかしたら乳を揉むのではないかと思ったほどだ。
「これが無いとスキルが使えない。それも説明された」
「頭の中にですか?」
「すごーい」
「仕組みは分からないが、絶対に無くす事は無いそうだ。ただもし壊れてしまった時は、ここまでまた貰いに来ないといけないと言われたな」
「なんだか呪いのアイテムみたいでちょっと怖いですね」
一人がやると、後は早かった。
我も我もと神官の元へ集まったが、テキパキと列を作らせて順番に行った。
物凄く喜んだ者もいるし、絶望の表情を浮かべて壁際までトボトボと歩くと、そのままへたり込んでしまう者もいた。
スキルに強弱や有効性がある事はもう聞いている。あの反応は、そのままそういった事だろう。
でもいいのかね。この後で掌をひっくり返してデスゲームなんてやらされたら、最初の獲物はあいつだぞ。
そんな馬鹿な事を考えている内に、瑞樹先輩の番が来た。
てっきりもっと後にすると思っていた。正直に言えば、龍平が我先に行くと思っていたのだ。
まあ興奮しすぎて逆に遅れたって所か。
かくいう俺は更に後ろ。というかほぼ最後尾だけどな。
ヘタレていた訳じゃない。観察して考えていたら、完全に出遅れてしまっただけだと言い訳をしておこう。