そこには予想もしなかった世界が広がっていた
「うわ、何だこりゃ」
俺がいた場所は、どうやら保存されていた遺跡のようだった。普段は人が立ち入る場所ではなさそうだ。
俺の世界で似た場所を探すのであれば、管理のずさんな地下墓所って所か。
出入り口は祠の様だが見張りはおらず、周辺には木が生い茂っている。
外周はブロック塀のような壁に覆われ、人影は見えない。
なかなか良い場所ではあるが、そんな事より遥かに異質なものが目の前に――いや、周辺にあった。
高さは一体どの位なのか。まるで天に届けと言わんばかりの巨大な立方建築物が乱立している。
高層ビル? まあそんな感じだ。だが色はどれも翡翠色。それに窓もない。
そしてその外には、巨壁が見える。
改めて地図を見ると、ここは町の外れの方だ。
そういえば、昨夜地図を渡すときに「きっと驚きますよ」とか言っていた気がした。
成程確かにこういう事か。そりゃ驚くわ。
それなりに高い建物は見て来たが、多分だがここの建物は数千メートルに達している。
しかも壁は更に高い。そのくせ明るいのがまた不気味。
理由の予想は簡単だ。この街が広大で、尚且つ建物も壁も光を反射している。その為だろう。
だからだろうか、不気味なほど建物の影が無い。
おっと、いけない。あんまりじろじろと観察すると目立ってしまう。
ここから奈々が居るのは中央に近い所か。交通機関があればいいが、あっても字が判らん。金もない。
まあ歩く事は最初から前提だった。スキルを使えば夕方には着くはずだ。
道行く人は結構多い。しかも身なりが皆綺麗だし、何というか、女性の露出が妙に高い。
下乳の見える服や、スカートにもなっていないようなひらひらを付けている人達が多い。
あの神官をずっと痴女神官とか思っていたが、あれはあれでこの世界のTPOをしっかりと守っていた訳か。
中世的な感じはしたが、建物や身なりなどを見ると、むしろ近未来的な感じさえする。
だが所々にある怪しい日本語の看板を見ると、変な形で文化流入があったんだなと少し呆れもするな。
翡翠のような建物の中に混じって商店街などもあり、中には焼き鳥屋なんかもある。ああ、腹の減る匂いだ。
少しは金を貰ってくれば良かったが、目立っても仕方が無い。ここは我慢だな。なんて考えていたのだが、
「よう、あんたも召喚者だろ?」
いきなり声を掛けられて、心臓が飛び出しそうになる。
確かに周りの人間とは服装が違う。黒い髪に黒い瞳も召喚者に多いだろう。というかひたちさんのような金髪に青い目なんて方が少数派だろう。
そして服装は腰に下げた短い剣に革鎧。服は現地の物だが、武装している民間人の時点で目立つのは確定だ。
当然、俺の認識を阻害するようにスキルを使っていたが、やはり召喚者が相手では効果も薄いか。
攻撃系のスキルは容赦なく効くくせに、この差はいったい何なのだろう。
なんて考えたって仕方が無い。挨拶をしないのはもっとヤバい。不審者100パーセントだ。
「ああ、そうだ。アンタも――その様だな」
話しかけてきた相手は俺と同じくらい……大体高校生くらいだろうか?
短めの髪を立て、何やら特徴的な髪形だ。
色は金髪……だが根元が黒い。ピーンと来た。これは染めだな。
そういや数か月が経過したはずだが、あんまり伸びた実感がない。こんな世界で髪を切る羽目になったら暫く大変だろう。
いや、そんな事はどうでも良い。
見た目はともかく、立ち振る舞いからベテランの貫録を感じる。この世界で召喚者の外見年齢など、何の意味もないってことは学習済みだ。
服装は周りの人間と変わらない。少し異国風のローブといった感じ。女性に比べて、男の服の露出度は無茶苦茶低いな。
武器の類は持っていないが、さてそんな事に何の意味があるのか……。
「まあお互い見れば分かるよな」
いや、実は全く分からない。
「あんたも」と言われなければ、現地人と見分けがつかなかっただろう。
そもそも興味すら無かったしな。
「スキルを使っているって事は、何かの任務中か?」
「あ、いや。そういう訳じゃないんだが……まあ練習だよ」
「なるほど、まだまだ新人か。それで金が無い訳だな。分かるぞ。俺も最初そんなだった。よし、焼き鳥を奢ってやろう。気にすんな、将来稼いだら後輩に奢ってやればいいさ」
そんなに物欲しそうに見えていたのか。
いやそんな事より、何て素晴らしい先輩なんだろう。
当然、ご相伴に与る事にしたのは言うまでもない。
これより新章。地上のお話です。
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