埒が明かないな
貫かれたクラゲは翼も落とし地面に伏すが、そこから爪に目のある8本指の巨大な人の左手首が現れる。
柱はまるで無かったかのようにするりと抜けて、地響きを立てながら床に落ちた。
あれはまるで、俺が体を外す時の様だ。
ついでに残ったクラゲ部分の死骸と共に、柱は粉々に砕かれた。二度と使わせる気はないらしい。
同時にその死体も水のように溶けて流れたが、あの柱は同類はもちろん、眷属でも破壊出来ない壁と同じ素材だぞ。
やはり相当なものだな。
しかし出てきた瞬間、待ち構えていたかのように大和と藤井の槍が左右から貫く。
その程度では普通は死なないが、藤井はこういう時、的確に弱点を突く。
巨体からしたらかすり傷でしかない一突きを受け、不気味な手首は後ろに倒れ込む。
「危ねえ!」
その脇から目の無いウナギの様なものが飛び出すと、弧を描いて藤井を襲う。
しかしそれは緑の空気の壁に僅かに軌道を逸らされ、そこを海野のハンマーピックで頭を潰される。
だがその潰れた頭は捨てるように切り離され、代わりに出てきたのはドリルのような先端。
躱す間もなく火花を散らして分厚い全身鎧が削られる。
普段はゼリーの様だが、その気になればそこらの金属よりも硬い。
とはいえその硬さも、横から放たれた壬生のスキルの前では無いに等しい。
ドリルも頭も球形に塵となる。
間一髪だったなと思う一方、ジオーオ・ソバデの残った体からもパラパラとゼリーが本のページをめくるように剥がれて落ちる。
だが終わりはしない。
残った小さな尾から、20メートルを超すクマムシモドキが不自然なほどにゅるりと姿を現した。
間髪入れずに、セーフゾーン全体に放たれる放電。
金属鎧――とはいえ実際には多くのメンバーは金属っぽい物を使っているだけだ。
だが先程助かった海野と藤井の槍には直撃した。
ただ藤井は知っていたかのように槍を手放していたが、海野の全身鎧とハンマーピックには直撃した。
ブスブスと黒い煙を上げながらゆっくりと倒れ込む。
さすがに相手が強いだけあって、あれでも助かったか。集団スキルも結構強いな。
だがそんな甘さをあざ笑うかのような衝撃波が、今度は隙間なく放たれた。
動けなかった海野は直撃を受け、粉々に粉砕され光となって消えた。
壬生は以前と同じように地面を粉砕してやり過ごしたが、事前の放電があって対処が遅れた。
今は粉となった石に埋もれて見えないが、被弾したのが見えた。
こちらは緑川が張った空気の壁手でセーフだったが――、
「連発されたら持たないぜ、これはよ」
目の中に光る紋章は最高潮だ。つまりはこれ以上の事は出来ない。
だが幸い、とにかく俺や奈々、先輩と龍平に小久保夢路と中野円環は助かった。
いざという時に神罰をクロスで撃てるように回り込んでいた風見、児玉、黒瀬川は、奴らが崩した外壁の素材に逃げ込んで何とか助かった。
派手に壊したのが裏目に出たな。
そして大和は衝撃波を巨大な盾で一瞬だけ防ぐと、それが粉砕されると同時にもう壊れた柱の影に移動していた。
見事な判断力だ。ちなみに藤井もくっついているが、あれは全知で分かったわけではないな。
何せ相手の再生と攻撃を切り替えるタイミングが早すぎる。あれでは未来を構成する余裕もないだろう。
これで地上の被害は海野だけだったが、空気の壁の後ろに宮と東雲が降って来た。
正しくは東雲が宮を抱える形だ。
「馬鹿野郎! どうしてオレを庇ったんだよ! 戦闘ならお前の方が上だろうが!」
東雲は数か所に粉砕骨折が見られる。
地球だったら一生元のようには動けないが、こちらなら薬で何とかなる。
実際、さっき自ら斬り落とした宮の足も、徐々にだが戻っている。
だがそれ以上に、体中の骨がボロボロだ。
「今のペースでは、私が本調子に戻るには時間がかかり過ぎる。足は私にとって生命線だからな」
確かに、空気を蹴って稲妻のように不規則に動くのが宮の基本だ。
足が無ければ片足で浮いている事しかできない。
「だがお前ならどんな状況からでも攻撃できるだろう」
「けどお前程には――」
「戦い方の種類が多いのがお前の利点だ。成瀬敬一、これからはお前がクロノスだ。もう私を蘇生させる必要は無い。東雲たちを導いてやってくれ」
「悪いが全員蘇生させて地球に帰すのが俺の役割でね」
「先代のクロノスを――」
「そんな事はもうほとんどの人間が知っているよ。じゃあ、また後でな」
「拒否権は無しか。まあ、勝手にするがいい」
そう言いながら、悪びれた様子もなく、宮はただ淡々と光に包まれて消えた。
ジオーオ・ソバデの方はまだ本調子ではないのか、それとも取り込んだ眷族の力と干渉しているのか、衝撃波が連続していない。
だが次が来るのは確定だ。もう一発くらう訳にはいかない。
「緑川、壁で奴を包め! 夢路!」
「分かるけど、アイツ知っていると思うの――ううん、やるしかないわよね」
床は元々石畳にバリケードを敷いた強固な状態だったが、今ではかなり砕かれ、穴が開き、土がむき出しになっている。
ここならそう簡単には消えない。
緑川の空気の壁の内側に向けて、夢路の火花が弾ける。
だがやはり、ジオーオ・ソバデはその危険性を十分に知っていた。というより、完全に警戒していたのだな、あれは。
特に緑川とセットで使っていたから、ある意味最初から分かっていたのだろう。
炸裂した瞬間、巨大クマムシの体の一部が射出され、火花を包む。それは内部で確かに爆発したが、同時に包んだゼリーが火花を消してしまった。
「やっぱり無理」
「だろうな。どんな風に対処するか見たかったんだよ」
「何か良い手があるの?」
「ああ、おそらく奴の体を構成しているのは、これまでに取り込んだ眷族だろう。あの野郎、眷族を置いて逃げるどころか、取り込みながらここまで来たんだ。あの逃げ回っているように見えたのも、実は回収していたんだよ」
「それじゃあ何度も復活するジオーオ・ソバデと戦っているようなもんじゃねーか。今のままじゃ勝ち目はねーぞ」
「夢もそう思う。これでまだ数体でしょう? 今までの数を考えたら」
「そうだな。まあ普通にやったらダメだろう。先ずはあの眷属の層を削り取らないとな。そんな訳で夢路」
そう言いながら、奈々を降ろして土塊を掴む。
「これにスキルを発動してくれ」
最初はキョトンとしていたが、すぐに気が付いたようだ。さすがだな。
暫しのお時間を頂きありがとうございます。
書ききりましたので、これからは毎日投稿です。
ご意見ご感想やブクマに評価など、何でも頂けると壮絶に喜びます。
餌を与えてください(*´▽`*)






