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やっぱりこうなるのか

「それはアイツの性格的におかしいんじゃね? そこまで賭ける奴かね。そこまでするなら素直にこの近辺から逃げそうな気がするがねえ」


長く奴と戦い続けて来た緑川(みどりかわ)としては納得いかない様子ではある。


「俺もそうは思っていたんだけどな。実際に今回の大変動は、他の可能性が考えられない」


「最後の賭けって奴かしら」


「まあ絶対にまだ手段は残しているだろうけどな。状況的に、これが奴にとっての切り札だったのだと思う。何せ規模が違う。眷族を元の数に戻すには、それこそ危険を覚悟で迷宮(ダンジョン)で行動するか、全く別の地域へ移動するかだ」


むしろそれを前提に、必殺の策として用意したと考えれば逆に納得できる。

アイツは遠く離れた地上の眷族と合流し、俺たちの届かない世界へと旅をする。

以前にも考えた最悪のパターンだ。

だけど今回の事を考えるとそれは無いな。

意図的な大変動。黒竜は倒してしまったので聞けなかったが、おそらく完全に反則だ。

というか、ものすごい迷惑行為だろう。さすがに他のセーフゾーンの主も、重い腰を上げる可能性が高い。

だがそこまでするくらい、大変動に巻き込むことはこの世界では最強の攻撃だと言って良い。

今回は本当に運が良かった。

のんびりセーフゾーンなんて探していたら、間違いなく間に合わなかった。

黒竜万歳だよ。こいつがここにいなければ全滅は確定。ジオーオ・ソバデはほとぼりが冷めるまで地上で潜み暮らすだろう。

その場所も分かっている。クロノス時代に見た廃墟だな。俺たちが全滅したならそこが一番良いだろう。


セーフゾーンの主たちも、さすがに異物になってまで追い続けることはしない。

双子のような分身を派遣する可能性もあるが、地上に出たら異物となる事に変わりは無い。

そして異物同士なら、本体と分身では勝負にもなりゃしない。


一時的に世界は平和になるが、迷宮(ダンジョン)が異物である奴にとって安住の地ではない以上、必ず地上の人間を襲い始める。

世界を滅ぼす怪物(モンスター)再びだ。


だがそうはならなかった。

奴にとって最も大規模な攻撃も、俺たちは回避できた。

そして大変動によって、奴に同類にされた迷宮(ダンジョン)怪物(モンスター)も、眷族になった奴らも復活した。

ジオーオ・ソバデは、もう地上に行くしかない。


「決着の時だな」


「勝算……いや、こんな事は聞くだけ野暮だな。奴を倒す。ただそれだけだ」


「こっちの全知では、まだ戦えないって状態だけど」


「また構築できるようになっただけで十分だ。というか、さっさと前を隠せ」


先だっての戦いでビキニアーマーを壊されて以来、前は出しっぱなしだ。隠そうともしない。


「でもこういうのが好きなわけでしょ? なら勝率を上げるためにもこれで良いんじゃない?」


奈々(なな)から殺気を感じるので良くはないな。


大和(だいわ)、予備になるような鎧はあるか?」


「先ほどの鎧と同じで良いのなら10セットはあるな。ほら、使うと良い」


と言ってブラ部分のアーマーを放り投げたが、薄い谷間から取り出したな。

スキルじゃないから収納アイテムだろうが、風見(かざみ)といい大和(だいわ)といい、なんとも変な所に装備しているものだ。

というか、見た目のシュールさもアレだが結構持っているんだな。

そういえばあの強敵との戦闘でも何度も武器や盾を壊されていた。

最前線だった事もあるが、だからこそ最前線を張れたとも言えるのか。


「よし、そろそろ休憩は終わりだ。十分な状態でない事は承知している。だけどこれ以上の時間を与えるわけにもいかない。悪いが、最期の力を振り絞ってくれ」


「振り絞らなくても、まだ十分な余裕はあるわよ」


「こちらも問題は無い。むしろ今までにない程に気力が充実している。任せてもらおう」


「最早そのような挨拶は無用だ。戦えない者はとうに脱落している。ここにいるのは、まだ戦える者だけだ」


「そういう事。そんじゃ、藤井(ふじい)、頼むわ」


「了解。それじゃあ……こっち」


そういうと、藤井(ふじい)はさっさと走り始めてしまった。

当然、全員がそれに続く。


「さあ、行きましょう。これが終わったら……(ゆめ)の全てをあげる」


「貰ったら分かっているよね、敬一(けいいち)くん」


「2重の意味で死ぬから十分に分かっているよ」


こうして俺たちは走り出した。

適度な緊張感を持ちながらも、十分にリラックスして。

奴の事だ、まだ終わってなどいないだろう。

あと幾つ切り札があるかは分からない。だけど俺たちは負けない。

さあ行こう。決着へ向けて。





〇     ★     〇





そして11日が経過した。


「さすがに疲れたー」


「いつまで逃げるのよ、アレは」


壬生(アンタ)は参加したことあるでしょう」


「適当に雑魚や眷族を倒すだけの戦いにはね。でも場当たり的な物よ。目標を定めて追いかけるなんて無かったもの」


さすがの壬生(みぶ)もいつもの笑顔が無い。

というよりも、戦闘力、スキル共に一級品だが、案外持久力が無いな。意外な弱点だ。

いや、ここまで普通に追いかけている方が異常なのか。


実際に、もう東雲(しののめ)もスキルを使う事を諦めて素直に走っている。

藤井(ふじい)もこちらが質問した時か、全知が変動した時にしかスキルを使わなくなった。

他のメンバーも、それぞれもう自力だな。

身体強化系はまだ余裕があるが、それでも基本的にはスキルは使っていない。

単にスキルのおかげで、素の持久力や瞬発力が人並み以上に鍛えられた結果だ。


自力では生きた年月が少ない海野(うんの)がきつそうだが、悪いが付いてきてもらうしかない。

当然ながら、こんな化け物連中に奈々(なな)と先輩は付いてこれないので、それぞれ俺と龍平(りゅうへい)の背中にいる。

最初の内は心配だったのか何度も声をかけて来たが、このところ大人しい。

さすがに背負われているだけでも、相当に体力を消費している様だ。

こっちはもりもり回復しているけどね。


「……はあ、また消えた」


走っていた藤井(ふじい)の動きが段々とゆっくりになり、遂には止まってしまった。

珍しく、両膝に手を当てて肩で息をしている。

他も緊張の糸が切れたのか、それぞれ楽な姿勢で休憩中だ。

ただこればっかりは仕方ない。

とはいえ、使えて精々残り2回か3回、多くて5回と予想していただけに、この逃げっぷりは意外だった。


最初の内は遠くて大変だったが、8日目には感じ取れる距離にまで近づいた。

そこで始まった距離外しという名のワープ祭り。

いくら全知で構築して追いかけても、すぐに逃げられる。

だけどある意味、その結果も構築されている。今回は出会えない。

それが分かっているから、むしろ心理的なダメージは少ないと言える。

だがそれをさせるためとはいえ、こちらは本気で追いかけているんだ。

ついでに言えば、もしかしたらという希望が無い訳でもない。

だけど結果は今回もやはり全知通り。厳しいな。





いつもお読みいただきありがとうございます。

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