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どうやら間に合ったようだ

 敬一(けいいち)たちが出立してから10日目の夜。

 まだ敵の猛攻は続いていた。というより、途切れる事が無い。

 暗闇の中、壁の途中で幾つもの大小無数の爆発が起こっている。

 そろそろ限界を感じ、フランソワの火薬を解禁したのだ。

 最悪の場合、壁が損傷する危険もある。

 だがそれ以上の最悪が、もうすぐそこにまで迫ってきているのだ。


三浦(みうら)教官、俺たちはまだ死にませんかね?」


「ああ、新庄しんじょう須恵町(すえまち)か。そうだね、まだ死なないと思うよ。今の所はだがね」


 壁から見下ろす森の中。

 召喚者の目でなければ見えないが、眷族の数が相当に増えて来た。

 アレに登って来られたら、さてどうなるか。

 対処できる相手なら良いが、教官組でも手こずる様な相手が混ざっていたら最悪だ。


「さて、北に行った連中はどうなっているだろうかね。もう全滅しているのならどちらにせよ終わりだが、生きていても、あまり時間をかけすぎては困ってしまうよ。しっかりと頑張ってくれたまえ」


 そう呟いてはみるが、本体の強さは(なぎ)から見ても別格だ。

 (みや)たち最古の4人が束でかかっても倒せるかどうか。

 ましてや予定していた神罰による一撃必殺を狙えないとなれば、猶更どうしようもない。


成瀬敬一(なるせけいいち)か……」


 今は彼の言葉を信じるしかない。

 必ず戻るからという言葉を。





 ◆     ※     ◆





 敬一(けいいち)たちが出発して11日目の朝。

 壁の上から見る朝は早い。

 そして眼前には絶望が広がっていた。


 今までは森の中に青白い集団が混ざっていたが、今や絶え間なく青白い物が動く絨毯と言って良い密度で壁を登って来る。


「無理だと思う?」


 蔵屋敷里香(くらやしきりか)は、ため息交じりにそう質問した。

 というより、呟いたといった方が良いか。

 答えなど期待していないのだ。

 おそらく、全員が同じ事を考えている。

 だがそれでも――、


「数が増えてもやる事は同じでしょ」


「そうそう」


「それに自分たちはあのときも生き延びたんだ」


「あたしのカモフラージュの中でやり過ごしただけの癖に」


「それでも生き延びた。それに、こっちの世界の私たちも生き延びてきた」


「2つの記憶があるこちらとしては、他の連中に後れを取るわけにはいかないね。そうじゃなきゃクロノス――おっと、こっちじゃ成瀬敬一(けいいち)だったか。あの人に合わせる顔が無い」


「そうか……そうだよね。よし、頑張ろう」


 魔の14期生の生き残りである蔵屋敷(くらやしき)斯波(しば)溝内(みぞうち)伏沼(ふしぬま)は絶望的な城壁の上で笑い合っていた。

 おかしくなった訳でも絶望した訳でもない。当然、余裕なんてありもしない。

 それでも笑っていた。

 どんな結果になったとしても、この4人で戦えるならそれで満足できる。

 そう思っていたからだ。


 青白い絨毯は昼には壁の7割ほどにまでに上り、遠くから見たら中途半端にペンキを塗った様に見えていただろう。

 というか、実際にそう見えていた。


 本来なら7日目にはラーセットに到着する予定だったブラッディ・オブ・ザ・ダークネスと双子だが、4日目には移動中の群れの背後に出くわしてしまっていた。

 ダークネス一人であれば距離を外せばいいだけだったが、双子と一緒だったのが災いした。

 ただ雲霞の如く群がってくる敵に7日間戦いっぱなし。しかも敵には眷族も当然のように混ざる。

 だがダークネスも双子も、未だに平然と戦っていた。

 全員疲労というものは無いし、感染もしない。

 ダークネスはスキルをそう気楽に使えない立場であるが、元々戦いにスキルは使えない。

 無意味に一時的な一掃をする気はないし、どのみちクロノスの時と違ってこの体はもう外す事は出来ない。

 完全に外れ切ってしまったものを、この殻に押し留めているだけなのだから。

 他の者を連れて来なくて良かったと思いながらも、ただひたすらに剣を振るう。

 しかしこうしている間も近隣にいる動物やモンスターが次第に感染し、さすがに3人だけでは減らす事も出来ない。

 さすがに無限では無いにせよ、この近辺から全ての生き物がいなくなるまでこのデスロードは続くだろう。


「フフフ……我が闘争にはこれこそがふさわしい。幾らでも来るがいい。汝らが尽きるまで、いつまででも相手をしてやろう」


「さすがはダークネス様です」


「わたくし達もいつまでもお供いたします」


「うむ。さあ我に続け!」


 こうして、ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスは敵の群れの中へと飛び込んでいった。





  •      ◎     ◇





「今戻った」


「うわ!」


「ん? お邪魔だったか?」


「そ、そういう訳ではありません」


 11日目の昼を少し過ぎた頃、敬一(けいいち)は本来の召喚の間に帰還した。

 丸一昼夜、それも本物のジオーオ・ソバデを追いかけ回してやり合ったのだ。本来なら奈々(なな)の所へ一直線と行きたいところだったが、今はまずやる事がある。

 ちなみにここにいるのは予定通り一ツ橋健哉(ひとつばしけんや)とヨルエナ・スー・アディンの二名だけだ。

 そして丁度、敬一(けいいち)が来た時には一ツ橋(ひとつばし)はヨルエナに膝枕して貰って耳かきをしてもらっている最中だった。

 外が激戦の中、サボっていた訳ではない。

 ただ事前の準備は全て完了している。本番は敬一(けいいち)が戻ってからだ。

 ただ待つしかない重圧に一ツ橋(ひとつばし)のストレスが高まり過ぎたため、ヨルエナが落ち着かせている所だった。

 とはいえ、一ツ橋(ひとつばし)の顔はばつの悪い所を見られてしまったと真っ赤に染まっている。

 もっとも、敬一(けいいち)からすればあんな行為はおままごとにも入らない。

 ある意味、経験し過ぎるのも考え物ではある。


「取り敢えず、第一段階は終わったよ。予想をはるかに上回る戦果だ。大成功だよ。だが予定以上に犠牲が出た。それだけに残った(みや)たちには苦労を掛けるが、その分こちらの戦力は充実するな」


「では」


「ヨルエナにも苦労を掛けるが、一気に再生させる。やる事は前と同じだからな」


「こちらはいつでも大丈夫でございます。どのようなご命令にも従います」


 そう言って片手を胸の下に入れてお辞儀をするが、なんかもう谷間がドンと来て頭にもドンと来るものがある。しかもどのような命令にも従うとか言われてしまうと……。

 でも一ツ橋(ひとつばし)が冷たい目でこちらを見ている。

 はい、それどころではありませんね。





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