それでは開始しよう
こうして3日後には、主力部隊が出発する事になった。
集合場所は召喚庁の前。
既に召喚者だけでなく、野次馬やマスコミも遠巻きに集まっている。
行くメンバーはもちろん俺と最古の4人。更には蘇生組から児玉、椎名を除いたメンバーが全員行く。
児玉を残すのは風見が怖いから――もあるが、北が想定外に手間取った場合にラーセットを防衛してもらう為だ。
椎名は北に連れて行っても意味がない。
というか、戦力にならない。スキルも過去を遡る物なので、そっちも今回は完全に意味がない。
でももし全てが失敗したらまたお世話になるだろう。
だから彼女はここで温存。
とはいってもその時にはおそらく……いや、考えない事にしよう。
現役教官組は、全員がラーセットに残る。
フランソワと一ツ橋には塔を管理する大事な仕事がある。
今回の肝であるし、同時にヨルエナの警護も絶対に必要だ。
今彼女に何かあると、次はまだ幼い子が引き継ぐことになる。以前がそうだったからね。
その辺りの歴史は最良の方法を選んだ結果だろうから、今回も変わらないだろう。
それだけに、絶対にここで失う訳にはいかない。
奈々や先輩、龍平他の新規召喚者――というより、250年の反乱以降に召喚されたメンバーも全員待機。
同類や普通の眷属相手なら何とか戦えるだろうが、それでも主力級を相手にさせるのは無理だろう。
一応龍平や14期組は大丈夫だろうけどね。
あ、奈々はいざとなるまで戦闘には参加させないぞ。
神罰だって最低出力であっても一発も撃っちゃだめだ。
ここに神罰使いがいると判れば、作戦自体が瓦解してしまう。
最後の最後まで我慢の子だね。
一応探究者の村のダークネスさんには話を通しておいた。
俺たちの出発と同時に経つが、ダークネスさん自身は一瞬で到着できても双子はそうもいかない。
一人でも戦力は欲しいが一人で来られても困る。
そんな訳で双子を連れてラーセットに到達するのは7日後だ。敵の妨害が無ければだけど。
それと迷宮の方の双子たちにもじわじわラーセットに集まってもらっている。
双子といっても2人一組で動いている、とあるセーフゾーンの主の分身体。
実際には双子どころか多数のペアが迷宮を散策している。
見分の為らしいが、まあその辺りはそれぞれ性格ってものがあるからな。気にしてもしょうがない。
それら地下の双子には、地上の双子を仲介して協力の依頼は取り付けてあるわけだよ。
場合によっては、最後の始末を任せる事になるだろうな。
探究者の村にいる他のメンバー、そのまま待機してもらう事にした。
大丈夫だとは思うが、多分樋室さんに何かあったらダークネスさんにどんな影響があるのか分からない。
あの殻に放り込む代償が自由に動けない体というだけならともかく、ダークネスさんが消えたら自由に動けるようになるというからな。
逆もまたしかり。最悪の場合、ダークネスさんは消える。
そんな訳で、北に向かう俺以外のメンバーは改めて以下の通り。
宮神明
風見絵里奈
緑川陽
黒瀬川真理
壬生梨々香
岩瀬純一
藤井つぐみ
中野円環
苅沢和代
海野ひしお
大和武蔵
東雲充
小久保夢路
総勢14名。数は少なくとも、錚々たるメンバーだ。
だけど俺以外は全員生きては戻れない。
風見は嫌がるかと思ったが、覚悟は出来ているようだ。
これで失敗したら許されないだろうな。
残るメンバーは相当に多くなるが、このメンバーが選ばれた精鋭である事はすぐに本体にも伝わるだろう。何せ動きが違う。
速度重視だと考えれば、奴の方でも納得するはずさ。
現地兵は北には派遣しない。
これは南方に新たな敵集団が確認されたため、南のイェルクリオと共にそちらに対処するためだと伝えておいた。
代わりに最古の4人を中心とした召喚者の主力部隊が派遣されると連絡したら、向こうも十分に納得したようだ。
あの頃とは責任者も全員代替わりしているだろうが、実に現金な連中だな。
マージサウルまでの距離は大体250キロメートル。
ただ道路が整備されているどころか、全く手つかずの大自然。
間にあるのは高山や切り立った崖、大河、湿地、それに大森林。
当然ながら、怪物共もいる。普通の人間なら命がけの大冒険だな。
連中がラーセットを攻めるために使ったルートもあるが、あれは俺たちの動きからすれば逆に遠回りになる。
そんな訳で、到着まではおおよそ10日の道のりだ。
作戦の概要は既に全員に伝えてある。
これで決着をつけよう。
簡単なわけがない。本当に勝てる保証なんて無い。
それに、かなりの長期戦になるだろう。
それでも――、
「敬一君!」
「奈々、先輩、それに龍平も。見送りに来てくれたのか?」
「当たり前じゃない! 絶対、絶対に帰って来てね」
そう言って、俺の胸に縋り付く。
ああ、決して消えたりするものか。必ず戻って来る。
そこからが人生の本番なんだ。
「それと、小久保さんには気を付けてね」
俺を掴む手に更に力がこもる。なんか目が怖い。
宴会で何かあったのだろうか?
まあ見れば分かるといわれればそうだが。
「大丈夫だ。幾ら俺でも、見えている地雷に引っかかったりはしない」
「……見えて無ければ?」
「……信じてくれ」
「……うん、信じる」
互いにちょっと微妙な空気があったが、俺たちの絆は大丈夫だ。
「それじゃあ先輩も気を付けて。ここも戦場になる可能性が高いです。常に注意してください」
「俺がいるんだ、安心しろ、もちろん妹の方も守ってやる。お前はお前のやるべき事に集中しろ」
「そうだな。任せた」
龍平と拳と拳を合わせる。
初めて成瀬敬一としてここに来た時は、最後まで和解することは出来なかった。
だけど今は違う。こいつになら任せられる。先輩の人生以外は。
後は任せたぞ。
「敬一さん!」
見送りに来ていたフランソワが駆け寄ってくる。
というか、見送りに来てくれてるのは彼女だけじゃない。今いる全員が来てくれている。
咲江ちゃんもいるが、未練は捨てよう。
とにかく、全員が頼もしい仲間だ。
俺たちが戻って来るまで、必ず守り切ってくれると信じている。
そしてフランソワは耳元で――、
「塔の方、準備出来ました」
そう、小声でつぶやいた。
返事はしない。ただ小さくうなずいただけだ。
これで本当に全ての支度は整った。
お待たせいたしました。
本日大晦日から再会です。
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