児玉の復活
こうして小久保夢路はフランソワに連れられて目覚めの間の方へと向かったわけだが――、
「彼女のアレは何なんだ? スキルじゃないのに目が離せなかったし、抵抗すら出来なかったぞ」
「そ、それはまあ……」
「君がスケベという事だ。それも筋金入りだな。だがいずれはクロノスとなる男と思えば当然だし頼もしくもある。自分もかなり世話になったものだ」
大和の言葉には何の嫌味も棘も無い。本心から堂々とそう言っているな。
「分かりやすく説明してくれ」
「簡単に言ってしまうと、天性の男殺しかねえ。生まれながらのサークルクラッシャーと言った方がいいかい?」
「あれ?海野さんは会っていませんよね?」
彼女の死亡年は172年。一方で小久保夢路が召喚されたのは201年だ。
「ひしおで良いよ。皆、そう呼んでいたからねぇ。それと、そんなの見りゃわかるさね。相手に応じて自分の魅力を最大限にアピールする術を知っているんさ。だから女に免疫のない男や、どうしようもないスケベは簡単に堕ちるねえ。逆に宮なんかには全く効きはしないだろうさ」
く……俺はいつの間にそんな人間になってしまたんだ!
これでもちゃんと奈々一筋……いや、今は先輩もか。
それにフランソワとの関係は断てないし、何だかんだで黒瀬川は意外と包容力があって……。
「ん? 何か悩み事か?」
「どうせ真面目な事ではないから気にせんでええでしょう。しかしああいった子が好みでしたとはなあ」
何の反論も出来ない自分が悔しい。
というか、アレが好みという訳ではない。
やっぱり俺には奈々の様に恋人だけど友達の様に振舞ってくれる関係が好きだ。
だけど何というか、彼女は色々と新鮮というかギャップ萌えというか――なんか壬生梨々香もあっちの方向に進む才能がありそうだ。
だけど違うな。
壬生も魔性の女……じゃないな。小悪魔だが、あれは男を堕とす為にやっているのではなく、ごく自然な彼女本来の性格だ。
そして本来進むべき道は、いわゆる“強い女性”だろう。
だが小久保夢路のアレは、目的のために計算され、研鑽を尽くした成果といえる。方向性はともかくとしてだがな。
さすがに日本では刺してはいないと思うが、狙った男は確実に堕としているだろうな。
だけど本能か自衛の為か、それ以外も手玉に取るタイプか。
なんというか、ヤンデレとサークルクラッシャーという相反する性質が一つになっている上に、外見は思わず守りたくなってしまうほど華奢で妖精のような美少女。
うん、日本では関わらないようにしよう。
というかこちでも節度を守ろう。
俺もまだ消えるわけにはいかないからな。
「説明は終わったわ。そっちは?」
「特にこれと言って無しだ。軽く雑談をしていただけだな」
風見はじろりと睨んだが、それに関しては何も言わなかった。
実際、向こうで説明をしている間に、こちらでも最終目的や今後の方針などを話していた。
当然ながら他の蘇生候補に関しての意見も聞いたが、やはり2人という数が中途半端で絞り切れていない状況だ。
性格から考えて藤井つぐみ辺りは何人も候補を出すと思ったが、ずっと面白そうに見ているだけで沈黙を保っていた。
彼女の事だ。もう最終的に誰になるかは知っているのだろう。
「とにかく、候補が無いなら先に予定の2人を蘇生させましょう」
「確かに風見さんの言う通りだと思います。わざわざ最後にする必要も無い訳ですし」
「そうだな。2人は保留として、児玉里莉と椎名愛を蘇生させよう。順番的に児玉からで良いだろう」
「え、そ、そうなの。ええと、この格好おかしくない? 帽子曲がってない?」
ロングの黒髪を一本三つ編みにし、顔にはトレードマークとなっている丸眼鏡。
そして黒い魔女帽子に黒ビキニ。マントを羽織っているがこれも黒だ。
ちなみ足元は先の尖った革のローファーで、靴下は履いていない。
おかしくないかと言われると本気で返答に困る。
そんな俺の心の機微など言葉の様に認識しているだろうに、帽子の角度を直したりビキニの紐を調節したりと慌てぶりが凄い。
今まで散々せかしてきたのが嘘のようだ。
まあ実際、本番となれば誰でもこんなもんだ。
こちらに来てからきつい風見しか見ていなかったが、クロノス時代はきついながらもこんな感じだったんだよな。
なんてことを考えているとナイフが飛んできそうだが――、
「い、いいわ。大丈夫。こちらの準備は完璧よ。始めて頂戴」
足が震えているが、覚悟だけは決まった様だ。
児玉は探すまでもない。大変動が近い時に迷宮に行った時、俺を呼ぶような音がした。
風の音でもない不思議な感じだったが、今思えばあれがそうだ。
彼女は一度日本に帰しているからな。
俺がこちらに来た時に上書きされたのだろう。
そして召喚者の魂は他と交わらない。世界から隔離された存在だ。
だから本能か、微かながら自我があったのかどちらかだろうな。
「児玉の痕跡はそこだ」
「や、やっぱり待って。マントは大丈夫? 左右ずれてない?」
「気にせずやっちゃってくれ」
「もう止まりません」
こうして、ドサッという音共に児玉里莉と再会する事になった。
姿は当時と全く一緒。高校2年生、17歳。身長は165センチ。全体としては少しショートカットに近いが、長い前髪を左右に流して留めている。
可愛いというより美人系。胸は並といったところだが、背が高い分だけやはり直接触れると大きく感じる。
かつてどうしようもない男に走り、宮の反乱に加担した。
だが男に走ったというのはただの口実で、実際には退屈に飽き飽きしていたのだ。
これは完全に俺の不注意だった。
ただの地上勤務がいかに退屈かは木谷の雰囲気から察していたのにな――で思い出した。
あの野郎、真実を全て語るとは思っていなかったが、9割9分嘘じゃねーか。
やっぱりギャンブラーという人種は信用できない。
というか、そもそもあの時点で確証も取れない話を信じるって方が馬鹿だった。
まあそんな事よりも、早くも風見は児玉にすがりついて泣いていた。
あれだけ注意していた服装なんて、もう何の意味も無いな。
児玉は優しい目を向けつつこちらに説明しろという視線を送って来るが、まあここは素直に風見の相手をしていてもらおう。
俺にとっての奈々と先輩がそうであったように、風見を完全な状態にしてくれるのは彼女だけなのだろうから。
とは言っても、ここでおっぱじめるなよ。
まあ全員、そうなっても気にもしないだろうが……あ、ヨルエナは意外とウブっぽいからやっぱダメだな。
「なんてことを考えているのよ! この変態!」
「なんか色々あったみたいね。説明は彼女から聞くよ」
苦笑した児玉里莉を連れて、風見は部屋を出て行った。
あれは当分戻ってこないな。
では今の内に椎名愛を蘇生させるとするか。
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