二人追加してこれで5人か
「それでその時に藤井つぐみは何をしていたんだ?」
「楽しそうだったから召喚庁の上で見物をしてたよ。でも中野君と苅沢ちゃんが来た時点で見えちゃったんだよね。ああ、これはつまらないなって。だからさっさと始末して下に行ったの」
「その時点で俺の事は見えてなかったのか?」
「全知はそんなに万能じゃないよ。見え方もいい加減だしね。未来が映像の様に見えると思っていのなら残念賞。“見る”っていうのも分かりやすいから使っているけど、実際にはただ可能性を“知る”スキルと考えて貰って良いかな。そしてそれを元に構築するの」
「簡単に流したけど、今名前が出た二人は宮の懐刀よ。当時残っていた中では最強格だったわ。それをあっさりこいつが殺しちゃったからどれだけ苦労したか」
「だってさー『お前はどっちに付くんだ』なんてベタに聞かれたら、あっちって答えるしかないじゃん」
「アンタだけよ!」
それには賛同する。
そしてその後は聞いた通り、緑川との戦闘中に未来を見た。いや、彼女の話からしたら知ったと言った方が良いのか。
だから可能な限り今の状況になる様にスキルで構築した。
正しくは、会話や死に方で未来を希望に近づけたといった方が良いか。
ここまでを考えてみれば、当時の彼女は退屈の極致にあったのだろう。
「本体と何度も戦ったんだよな?」
「どうすれば戦えるかは知れたからね。だけど戦っている途中で逃げられる事も理解出来たし」
「どうにか出来なかったのか?」
「無理なものは無理。たとえばねー、どんなに頑張っても、あたしは自力で日本に帰れない。可能な未来が無ければ、このスキルに意味はないんだよ。そして6回目だね、もう届かない事が分かっちゃった。何度やっても無駄。あいつはあたしの本気を受け止めない」
話を聞いた限り、当然だと思う。
スキル無しなら壬生梨々香の方が強いそうだが、有りなら互角か藤井つぐみの方が有利。
というより、汎用性が高い。
多分この二人は、俺がクロノス時代の龍平にも匹敵するだろう。
案外、それより上かもな。
だが単純な戦闘なら、宮も二人に匹敵する……というか、多少上か。
俺がアイツに勝てたのは、本人が本気ではなかった――というよりも、もうあそこで派手に殺されて楽になろうと思っていた節がある。
本気で万全な体制で挑まれたら、おそらく勝率は万に一つくらいだ。
そして多分、壬生梨々香と戦ったら俺は勝てるだろう。
だが確実に藤井つぐみと戦ったら負ける。
この3人が何でもありで戦ったら、壬生梨々香は宮には勝てないが藤井つぐみには勝つ。
だがその宮は藤井と戦ったら勝ち目はない。
これはもうジャンケンのようなものだな。
「話は分かった。それで、今のお前は俺に何を見る」
「良いね、それ。梨々香ちゃんも気に入ったんでしょ?」
「まあ、そうね。多分つぐみとは違うものが見えているけど、梨々香はやっと先が見えたかな」
「じゃあ、見えたのは同じだ。よろしくね、本当のクロノス。でもこれからは成瀬敬一と呼ぶよ。そうして欲しいんでしょ」
そう言ってにっこりと笑った藤井つぐみは実に満足そうだった。
まあ話中もずっとニコニコしていたけどね。
実際に温厚な性格なのだろうけど、話を聞く限りでは結構サイコパスな所がありそうだ。
槍使いだそうだし、なんとなくの気まぐれで後ろから突かれそうで怖いわ。
その後を話し合った結果、先ずはさっき名前の出た中野円環と苅沢和代を蘇生する事になった。
確かに藤井つぐみの前では相手にならなかったようだが、そこは格の違いだと諦めよう。
とにかくその二人は反乱の時でも宮たちに従った。
今更の敵対は無いだろう。
そんな訳で、その二人も復活させた。
中野円環は高校生だそうだが、いがぐり頭で少年のような童顔。
身長も甘く見積もって156センチって所か。
召喚されてすぐに状況判断を始めたところは、さすがに今更だが実戦慣れしている。
そして黒瀬川を見ると、突然平伏して泣きながら謝罪した。実にふがいなかったと。
黒瀬川は微笑みながら彼の肩に手をやったが、なんか企んでいそうだと考えてしまったのは俺の心が汚れているからだろうか。
しかし番犬と主人という表現がピッタシくるな。実際に仕えてえいるのは宮に対してだが。
スキルは”時間差”。
それだけ聞いても分からなかったが、剣撃や自らの動きの残像を作り出すそうだ。
実際の攻撃は、見えている姿よりも先に来るのか後に来るのか、それとも見た目通りなのか分からない。
ようは幻惑系なのだが、それらを見通す藤井つぐみとの相性は最悪だな。
よく仕掛けたものだ。
話を聞く限りそのつもりはなかったようだが、分かりそうなものだ。
続いて蘇生した苅沢和代は一言でいえば丸い子だ。
ぽっちゃり系といった方がいいか? そんな生易しいものではないが。
どことなく、かつての龍平を思い出す。
こちらも高校生だそうで、中野円環とは別だが高校の制服だった。
スキルは“増加”。
物などを増やすのではなく、威力の強化がメインだな。今までにも腕力増強や脚力強化も居たし、龍平の肉体強化なんかも系統としては似ているな。
比較的多くある戦闘系のスキルだ。
違いとしては、本人はさほど強化されずに攻撃の重みを増やすって感じか。
素手や鈍器なら単純にその威力を。剣や斧なら副産物として切れ味も増えるな。
まあ主にハンマーとモーニングスターを組み合わせた重厚な武器を使っていたそうだ。
二人とも宮の懐刀として、集団を率いるというより個の戦力としての仕事を行っていた。
それで教官組では無かったが、戦闘だけで考えれば教官組に勝るとも劣らないという。
今後は期待させてもらおう。
彼らに関しては黒瀬川に説明を任せ、こちらは今後の事を決める事にした。
ついでにヨルエナにも付いて行ってもらった。
こちらはこちらで見るとして、あちらも確認して貰わないといけない。
敵意とかそういうのではなく、蘇生が上手くいっているかをね。
「これで死後の反乱に関しての主軸は全員蘇生させたわね。ハッキリ言えば後ろから攻撃されてもおかしくない間柄だから、その辺りはきちんと監視してもらうわ」
「まあ、今の体制を見て貰えばそれは無いだろう」
「そうそう。ないない」
「なら良いけど」
「それで聞こうと思っていたんだが、お前宮と肉体関係は無いよな」
答えより先にナイフが飛んできた。
それも正確に喉笛を狙って。
刹那の間に左手でガードしたが、見事に掌を貫通したわ。
「レディに向かって何てこと聞くのよ!」
こちらの文句より先に怒られた。
フランソワと一ツ橋もちょっと困った感じだ。
確かに少しデリカシーが足りなかったな。
だが俺じゃなければ死んでいるぞ。
「いや、俺が目覚めた時、かなり仲が良さそうだったからな。ハッキリ言えば男女の仲に見えた。だけど宮からは女の気配がまるでないんだよね。それに風見もあいつを男として好きだとは思えない。さっきの二人が懐刀なら、お前はどんな関係だったのか気になったんだよ」
「そんな事。一応、クロノスは女性をはべらせていないといけないのよ。その位わかるでしょ」
「分かりたくもない」
「えー」
まさか一ツ橋からその台詞が出るとは思わなかったが、考えてみればここのいる女性で手を出していないのは藤井つぐみだけだ。
確かに説得力の欠片も無かったな。
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