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次の候補はもう決まっている

「彼女は最初からあんな感じだったのか?」


「どうかしらね。彼女が召喚された時は、もっと大きな子に紛れたお人形のようだったわ。でも元々武術は習っていたみたい。師匠は加藤甚内(かとうじんない)の様だけど」


 なる程ね。その位の年齢差なら、武芸もそれなりに教える程度は出来そうだ。でもそれは子供の鍛錬程度だろう。

 だけど彼女のアレはそんな次元じゃない。

 本格的にはこちらで修練を積んだのだろうけど、普通ならあれほど強力なスキルがあったらそれに甘んじてしまう。

 だけどそれでは満足しなかった。より上を目指し、記憶にある技をひたすら修練したってとこかな。

 その後、甚内(じんない)さんと合流した事も影響したのだろうけど。


「孤児院の他の人は?」


「はい、全員召喚されましたが……その……」


「分かった。それは今度全員日本へ帰そう」


「それは助かるわ。わざわざ交渉しなくてもいいみたい。やっぱりクロノスは良い人ね。それにあなたは先代よりも優しいし、激しかった。やっぱり若さ? それとも経験かな?」


「このロリコ……」


 俺は咄嗟に風見(かざみ)への距離を外し、両肩を掴んで黒瀬川(くろせがわ)に言った事と同じ内容を言い聞かせた。3回くらい。大事な事だからな。


 その後は丁度戻って来たヨルエナや一ツ橋(ひとつばし)らと共に夕食を取ったが、まだ蘇生は続けることになった。

 ヨルエナの体調に問題が無かった事もあるし、壬生梨々香(みぶりりか)だけという訳にもいかなかったしな。

 彼女を本当の意味で安心させるには、実際に彼女の仲間を何人か召喚しておく必要がある。

 休むのはそれからだ。





 ◆     □     ◆





「取り敢えず話は付けた。反乱に参加した中で、教官組は岩瀬純一(いわせじゅんいち)藤井つぐみ(ふじいつぐみ)を紹介されたが」


「二人とも実力は確か。それに梨々香(りりか)が説明すれば協力してくれると思うから」


「それはありがたいな」


 これから召喚する人間とは出来る限り戦いたくはない。

 貴重な戦力であるのもそうだが、こちらに犠牲が出てもおかしくいない連中が来そうだからな」


「それでもう一人の指導者っていう岩瀬純一(いわせじゅんいち)ってのはどんな感じだったんだ?」


「本当に何も聞いて来なかったのね」


「彼の身の上話を聞いた後は、ひたすら……ね。こちらの話をする余裕はなかったかな」


「ケダモノ」


「これまでの状況説明を話し終えたら、後は一方的に襲われたんだよ」


「最初だけね。すぐに逆転されて、梨々香(りりか)は何も出来なかったわ」


真理(まり)、警察呼んで」


「まあ落ちつきましょ。敬一(けいいち)さんの話では、以前の風見(あなた)も相当に――」


「私の知らない私の話は良いわ。それより岩瀬純一(いわせじゅんいち)ね。スキルは“地形変動”。実際には違うけど、見た目は小規模な大変動ね。迷宮(ダンジョン)では絶対に戦ってはいけない相手よ。以前は建物の中だから何とかなったわ」


 俺も迷宮(ダンジョン)に穴を開けたりはするが、今の話を聞く限り埋めたり壁で挟んだりと色々出来そうだ。要は地形を利用した土魔術みたいなものだろうが、小規模な大変動という以上、防ぐ手段は無いのだろうな。


「どの位こっちにいたんだ?」


「34年です。一ツ橋(ひとつばし)の一件があってから2年後に召喚されました」


「……すみません、私はもうその頃には」


「気にするな。誰かが知っていればいいんだ。それに、だからこそ今この研究があると言える。嫌な出来事だった事は確かだが、今回は良い方向に転がったと考えよう」


「ふうん。一ツ橋(ひとつばし)が素直なのも意外だけど、フランソワも随分と懐いている様子ね。どうして?」


 そういえば、その辺りの事情を知らない。

 ダークネスさんと彼女の間に、何が有ったのだろう?


「わたしの初めての人だからです! 召喚されたばかりで右も左も分からなかった私に、色々な事を教えてくれました」


「ロリコン」


「それは俺じゃねーだろ!」


 今でこそ82歳だが、召喚された時は13歳だぞ。

 節操が無さすぎる。

 いや、今クロノス時代の俺に跳ね返って来た。この話は忘れよう。


「性格的には?」


「基本的には誰とも話さないかな。最低限の返事をする程度」


 どうやって教官なんてやっていたんだ。

 しかもその頃は、まだまともに育てて居た頃だろうに。


「フランソワ、一ツ橋(ひとつばし)、特定は?」


「残念ですが、同期の人は誰も送還も蘇生も出来ていなくて」


「今の段階では無理です」


「まあ数が多いからな。じゃあこうしよう」


「え?」


 一瞬だけ塔が光り、そして消える。


「塔に反応が出ました。この痕跡で良いのですか? それに、今いったい何を?」


「まあ何度も話していた事の応用だよ。魂だけ召喚して、また大変動の奔流に戻した」


「凄い事をしますね。それ以前に特定はどうやったんですか? 面識は無いですよね?」


「面識はないが特徴は分かったし、ここにリストもある。だからさっきから。ずっと対象外を外していったんだ」


「それでスキルの紋章が出ていたんですね」


「まあ敬一(けいいち)さんの場合、ほぼ出っ放しですからなあ」


「なんとなくの習慣だな」


「それで出来てしまうのが凄いです! わたしのスキルは使い続けるのは無理ですので」


 あんな物騒なスキルを使い続けられたら地形すら変わりそうだ。


「その点は風見もだな。アイテムで隠している様だが、ずっとスキルを使いっぱなしだ」


 クロノス時代も使っていたトレードマークとも言える丸眼鏡。

 だけど当時は、すぐ複製品に変えた。

 その点はひたちさんも言っていたが、日本から持ち込んだものは大切に残しておくんだ。

 当時も色々と改良したレプリカを使っていたが、今のも別の改良が施してある。スキルを隠すのもそうだな。

 俺がクロノスの頃は無かった機能だ。

 まあ認識阻害と同じで、俺や育った召喚者にはあまり意味はないけどね。


「……まあ、コピーを解くわけにはいかないのよ」


「そういえば聞いたことがありませんでしたが、大丈夫なんですか? 私の腐敗もある程度は持続できますが、それでも3時間程度が限度です。お二人はどうやって24時間ずっと使い続けていられるんですか?」


「その辺りは特性と考えて貰えば良いさ。真似はするなよ、精神がいかれるからな」


「そんな人を沢山見て来ましたが……」


 だろうな。迷宮(ダンジョン)探索自体が厳しいのに、対人戦まである。

 そこで制御アイテムを失って地上に戻れなかったら、その後は悲惨だろう。

 まあ俺と風見はね……条件さえ満たせばケアは楽な方ではある。

 それに性質だろうか、他のスキルとはタイプが違う。


 今この場だと、俺と風見以外がスキルを使うという事は、先ず水道の蛇口を全力で開くようなものなんだ。

 スキルを使用するとなった時点で、もう全力が出せる支度が整うって事だな。

 その後調節もできるが、最初の時点でどうしても大きな負担が出てしまう。しかも制御が出来なければそのまま全開で止まらない。

 俺も初めての時はそうだったよ。


 だけど俺たちのスキルは事情が少し異なる。

 俺は基本的に、ほんの少しだが常時発動している。そうでないと、このスキルは意味が無い。

 風見(かざみ)はコピーの瞬間はスキルが全開になるが、その後は俺と同じように微弱な発動状態になる。

 こうなると、他の連中と違って常時発動状態をキープできるわけだ。

 ただやっぱり、派手に使わないと成長も微々たるもの……というより無いに等しいのだけどな。

 この辺りは、元々特殊なスキルだという事も関係しているんだろうとは思う。

 或いは特殊なケアだったからこんなスキルに対応できたのか。

 まあ卵が先かなんて話はどうでもいいか。


 ただ当然ながらケアは必要だ。だがそれに合わせるかのように、条件はある意味難しく、ある意味簡単となっている。

 たまにそのせいで地獄を見るけどな。


 そんな訳で、俺たちはある意味似た者同士と言えるんだよな……なんて考えると風見(かざみ)に嫌な顔をされそうだが、そうでは無かった。

 なんだか壬生梨々香(みぶりりか)の方を気にしている様だ。

 やはりそれだけ激しい戦闘だったのだろうし、彼女たちにとっては、今この瞬間も戦闘中の記憶がある。

 忘れられず、時間の感覚も無い俺たちにとっては、この復活は必ずしも福音ではないって訳だ。

 今更やめないけどな。


「ふうん……じゃあもう純一(じゅんいち)君を復活させられるんだ」


「ああ、早速やる。分かっていると思うが」


梨々香(りりか)が話を付けるんでしょう? 良いよ。今更続ける必要も無いしみたいだし」


 それは反乱をって事だろうな。

 やはり彼女を最初に召喚して良かった。

 それに昨夜はものすご……っと、気を付けよう。迂闊に思い出してはいけない。


「では再生を始めよう」


 こうして壬生梨々香(みぶりりか)と共に反乱を起こした岩瀬純一(いわせじゅんいち)を復活させた――のだが……。





いつもお読みいただきありがとうございます。

奇数日→奇数日と続きますので、次回は11月2になります。

ご意見ご感想やブクマに評価など、何でも頂けると希望が湧いてきます。

餌を与えてください(*´▽`*)

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