きちんと全部説明してきたぞ
「アンタがそれで死ぬのなら、あの時あれほど苦労はしていないわよ、この肉食ロリ」
甚内さんの幼馴染を俺が寝取ったみたいに感じた時は冷や汗が出たが、どうやら事情はもう少し複雑な様だ。
いや逆に、むしろ単純なのか?
「肉食は貴方でしょう。今まで何人の相手をしたの?」
そう言って、背筋を逸らして髪をかき上げる。
うん、小ぶりだが見た目よりもあるな。
いやまあそれはそれとして、風見がスキルの悪影響を解消する方法は俺と同じだ。
他の連中の様に、迷宮での吊り橋効果で自然に……とは根本的な必然性が違う。
違いと言えば、風見は相手が女性でも良いって所か。
「でも梨々香の相手はクロノスだけよ。発言はきちんと考えてからにした方がいいかもよ。それにしても、たった4年じゃこちらは変わらないみたい。まだ昔の女に操を立てているのかしら? でもまだここにはいない。だとしたら、なるほど」
「そうよ。だから急いでいるの。今から寝室に行かせる時間は、な、い、の!」
しかしずっと気にはなっていたが、彼女は自分が死んでいた事も、蘇生された事も最初から理解している。
その上で、これほどに冷静に行動し、かつ周囲の動きを制限する程の威圧感を漂わせている。
最初の頃の連中とはえらい違いだ。これが実力の差って奴か。
うん、実に良い。これだよ! こういう戦力が欲しかったんだ。
「ふふ、ぎらついた良い目。そんなに梨々香が欲しいの? 良いよ。あれを黙らせてくれたらね」
いやそっちの意味じゃない。
「とにかく話が出来そうで良かったよ。説明はさせてくれ」
「その様子だと、今までも色々試したのかな? まあそうよね。そして随分と戦ったのかな。そんな空気が、ここには漂っている。梨々香もその途中の一人。少し傷つくかな」
「いや、君は本番の一号だよ」
「ふうん。つまりは、先ずは反乱に参加した教官組が欲しい。理由は……再びアレと戦う為ね。だから当時の首謀者だった梨々香がいれば後はスムーズに進むという訳ね」
まだ何も話していないのに、もうそこまで予測を立てていたのか。
恐ろしく頭が切れるな。
しかも奴の本名を言わない。配慮も出来るタイプだ。
「そういう事だ。ぜひ協力して欲しい」
心の底から思う。彼女が欲しい。
変な意味には取らないで欲しい。奴と戦うには、本当にこれくらいの猛者が必要なんだ。
しかも現実には、彼女が居ても奴を倒せてはいない。これほどに強さを感じても、現実にはまだそれだけ力に開きがあるんだ。
ここから奴を倒して全てを終わらせるには、歴代最高のメンバーを揃える必要がある。
その為にも、絶対に必要なんだ。
「構わない……と言ってあげたいけど、今の状況が分からないと何とも言えない。反乱を起こした事は知っているのでしょう? なら、その位は分かるかな」
「そうだな。今までの状況は全部話そう。その上で決めてくれ。たとえ協力できないとしても、さっき言った約束は守る」
「その辺りの事も……詳しく聞くね」
耳元でそう囁かれただけで、今度は全身から力が抜ける。
本当に、肉体が育たなかったのは人類の損失か、あるいは僥倖か。
時代が時代なら、間違いなく傾国の美女になりうる逸材だ。
「今回は独占しても良いよね」
フランソワはちょっと渋った顔をしたが、小さく頷いた。
彼女の重要性は、誰もが分かっているのだろう。
ただ――、
「君は甚内の幼馴染じゃなかったのか?」
「幼馴染なんて、何人もいるよ。全員の相手をする気は梨々香にはないかな」
言われてみれば確かにそうだ。
幼馴染が一人だけなんてのも逆に不自然か。
「じゃあ向こうで聞かせて。きちんと、全部ね」
周りは少し渋った感じがあるが、今後の事を考えれば彼女の重要性は誰もが知るところだ。
実際のところ俺は知らなかったが、ここまでとは思わなかった。
ここは素直に従うべきだろう。
実際に現状を話さなければ協力は得られない。
なら道は一つだ。すまない、奈々、先輩。俺はまた別の女性と関係を持ってしまうよ。
だけどこれは、決して浮気じゃないだ。
「そんなわけですまないが風見、暫く席を外す。これはこれからのスピードアップを図るための投資と思ってくれ」
”ちっ”っという顔をしていたが、あのまま口論をしていても何も建設的な意味がない事くらい分かっていたわけだな。
♡ ♡ ♡
6時間後――、
「お疲れ様です、敬一様」
さすがに心配してくれていたのか、フランソワは待ってくれていた。
それに黒瀬川と風見が一緒だな。
「一ツ橋とヨルエナさんはどうしたんだ?」
「さすがに時間がかかりそうだという事で、夕餉を作りに行きましたわ」
「それでなんで一人? あいつはどうしたのよ」
「蘇生したばかりであれだけ激しい運動をしたんだ。今はさすがに休んでいるよ」
「ロリコン」
風見はジト目でそういうが――、
「いや待て。確かに18歳未満はそうかもしれないが、彼女はお前より年上だろ。甚内さんが17歳と聞いているから彼女もそうじゃないのか? それにお前だって16歳……いや、あまり日本での年齢は関係無いな。肉体が成長しないだけで、俺たちは何十年と生きているし。そういや黒瀬川も風見も100歳を超えているんだよな。というか、それでいったら彼女は死んでいた分を引いても66歳になるのか」
「あの子、11よ」
「え?」
「まあ11ですなあ。ここがラーセットで良かったと思いますわ。日本であれば、敬一さんはさすがに補導……いや逮捕でありますわ」
無意識の内に、黒瀬川までの距離を外し、その両肩を掴む。
「彼女は60歳。いいな、60歳。OK?」
「え、ええ。まあ60歳でおっけぇー……ですわ。まあ、完全な嘘という訳でもありませんし」
その時の俺は、かつてない程に真剣な眼差しをしていたらしい。
ふう、なんだか物凄く危ない橋を渡りかけたような気がする。
危うく全てが終わってしまう。そんな恐怖すら感じたよ。
でもまあ、彼女が召喚されてから死ぬまで49年が経過している。60歳なら問題無いよな。
「何だか計算が間違っている様だから訂正してあげるけど、彼女は76歳よ」
召喚時期が違っていたのか。
「というか、甚内さんと幼馴染なんだろ。召喚時期はともかく、何で元から何でそんなに年が離れているんだ?」
「彼女は孤児でしてなあ。孤児院で育ったそうですわ」
なるほど。それは確かに家族であり、同時に幼馴染でもあるか。ちょっと複雑な事情だがあったんだな。
何人いたのかは知らないが、確かに複数いるのは確実か。
「それで甚内さんも孤児なのか?」
「それは違うわね。彼はあの見た目のわりに、面倒見が良いのよ」
それは確かに知っている。
「それで孤児院の向かいに住んでいてね、そんな事情もあって、そこの子供達とよく遊んでいたそうよ」
「彼女はいつから孤児院に?」
「2歳からだけど、あれだけ時間があったのに彼女の事は全然聞いていないのね」
「俺の一つの人生分を語って聞かせたんだ。それだけで時間切れだよ」
「会話が2、運動が4……まあそんなにきっちりとは別れてはいませんでしょうが……」
「いやそれは良いから」
そうなると、彼女が2歳、甚内さんが8歳の頃からの付き合いか。
幼馴染というのも無理がある話じゃない。
しかしそんな事よりも、日本に居た頃からああだったのか?
更にあそこから成長するのか?
なんか末恐ろしく感じるな。
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