反乱して勝てる相手とは思えない
くかーと寝ているセポナ。その横に座る俺。更にその横に座るひたちさん。
ちなみにひたちさんは全裸である。しかも超美人。助けて奈々。
「と、とにかくさっきの話の続きをしてくれ」
「ええ。最初は必ず戻れるという確証を求めたそうです。事前に打ち合わせをし、38名の召喚者が首都庁舎に向かったと聞き及んでいます。ですが話し合いは平行線。必ず帰れると主張する現地人。証明しろという召喚者。互いに譲らず――いえ、譲れなかったのかもしれません。ここを見てから、ますますそう思うようになりました」
「死ねば帰れるなんてことは無い。この鍾乳洞に送られ、やがて小動物の餌となる……か。言えるわけが無いな」
もちろん、まだ事実ではない。もう何度も考えているが、双方の世界に肉体があるという前提は消えてはいないのだ。
だがその理論は以前より脆く、そして薄くなってきた。
最大の理由は、召喚された日が同じ年の5月28日と固定されている事だ。
これで帰還した成功者たちの話が嘘だと判明した。同時に、必ず帰れるという希望もまた消滅したと言って良い。偽りが含まれる話に信憑性なぞありはしない。
そしてもう、向こうに肉体がある必要が無くなってしまった。
理由は簡単だ。帰った人間を確認した者などいないと証明されてしまったのだから。
「疑念はやがて暴発し、大規模な暴動へと発展しました。召喚システムや国家の機密書類。そういった物を確認するため、召喚者たちは庁舎だけでなく、国中の研究機関や書庫、宝物庫などを荒らしまわったそうでございます」
「研究機関や書庫は分かるが、宝物庫まで漁ったらただの略奪と変わらんだろう」
「お忘れですか? ここでいう宝物とは金銀財宝だけではありません。地下から発掘された、強力な力を秘めたアイテムなども含まれます。より正確に言うのなら――」
「いや、分かった。俺が浅はかだったな。続けてくれ」
「こうして国家の機能はマヒし、召喚者たちは独自の研究を始めました。しかし、体制側も黙ってみていたわけではありません」
「当然、反撃が始まったんだな」
「ええ。国中を敵に回しての抵抗となりました。ですがそれでも、召喚者のスキルは強大です。まだどこかで交渉に入る余地は残されていた。そんな希望もあったと聞き及んでいます。しかし、既にこの時点で10名の召喚者による治安維持システムは確立していたのです」
「まあ、百年ほどかけたシステムなら、そういった暴動の対処法も考えられているだろうな」
そもそも、それが百年で初めての反乱か?
無いな。人間はそんなに馬鹿じゃない。表立っては言わないだろうが、召喚者に対する憎悪……少し分かった気がする。
彼等からすれば、便利だが獰猛で、いつ自分たちに牙を剥くとも限らない家畜。
更に言えば、自分たちには無い力を持つ得体の知れない存在だ。畏怖もあるだろう。
この世界の人間が俺達に持つ感情は、到底一言で表せるものではない。
だがだからと言って同情もしないし、共感など出来るものか。
「聞くまでも無いが反乱は……」
「当然鎮圧されました。現地人による昼夜を問わぬ消耗戦もそうですが、彼等側についている10人の召喚者たちにはまるで歯が立たなかったそうでございます」
納得できる話だ。無意識のうちに、腰に下げた勇者の剣に触れる。
こんな物や――いや、こんな剣がおもちゃに見えるような代物が、きっとこの迷宮にはある。
何故こんなものが存在するのかは分からない。だけどモンスターに大変動、召喚者にスキル……ここは完全に未知の世界だ。在るものはあると認めるしかない。
そしてそれらを集めた者は、期待を胸に消えていく。これで成功が約束されたとね。
強力なアイテムは? そりゃ残っているさ。
誰が持っている? そりゃ体制側だろう。
竹槍で完全武装した軍団に立ち向かうようなものだ。勝てるわけがないんだ。
今回も全裸のひたちさんとの過去話です。
挿絵が無くて申し訳ありません。
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