とにかく色々と働いてもらおう
「そういや聞きたかったんだが、何故セポナを奴隷にしたんだ? お前たちなら通訳程度であんな危険なものを引き取るとは思えないんだが」
「どちらかといえば逆だな。向こうが召喚者の言語をマスターしたいから付いて来たんだ。本当ならただ連れて行くだけであとは自分で生きればいいと思ったんだが、碧がな」
「だって、あんな小さな子がそれで生きていくしかないって地下のスラムで生活していたのよ。放ってはおけないじゃない。それに、当時は今ほど自由に会話できるって程でもなかったし」
優しいねえ。
つかあいつ、自分の齢を教えていないとは。策士だな。
まあここでばらす程、野暮じゃないが。
「それと勇者サンの提案でもあってな。クロノスの命令があったから断り切れないってのも理由だよ」
つまりは、何かあったらセポナを殺して召喚者を一人始末しようと考えたのか。
うん、処分しておいてよかったよ。
「それじゃあ、俺たちは召喚庁へ報告と確認に行くとするよ」
「セポナちゃんの事、お願いね」
――え?
と思う間もなく、二人は一度だけ手を振って去って行った。
いやまて……と思ったが、
「それでは、ここまで連れて来てくださってありがとうございます。また生きて地上に出られるとは思ってもいませんでした。この御恩はお返しできないと思いますが、一生忘れません」
そう言ってぺこりとお辞儀をする。
余計な一言はともかく、
「お前はこれからどうするんだ?」
「そうですねえ……もう親族も家もありませんが、最後に新庄さんが少し鉱石を分けてくださいました。これで暫く生活しながら、召喚者様相手の店で働こうと思います。幸い、こうして会話に問題が無い程には覚えましたし。それでもダメなら奴隷として志願しますし、引き取り手が無ければ生贄になろうと思います」
実に普通にすらすらと言うものだと感心する。
だけど悲壮感は感じられない。同情を買うつもりもなければ、これがこの世界の“当たり前”なんだろう。
そう言ってセポナが見せてくれた鉱石は、正直大したものでは無かった。
新庄たちがケチって訳ではないだろう。渡す時の様子も見ていたしな。
大方手に入れた物資はほぼ全部軍隊に渡して、自分たちはあまり取らなかったのだろう。
あれは元々、宮が俺を追放するために軍務庁と仕組んだ狂言の一環だ。
事情は知らなかっただろうが、ノルマは軽減されていたはずだ。
余計な荷物を苦労して持ち運ぶ気は無かったって事か。
しかし参ったな。この程度では、たとえ安宿でも2か月くらい生活したら使い切るぞ。
それまでに仕事が見つかればいいが、身元保証なしの元奴隷か……。
「よし、俺の所に来い。当分面倒は見てやる。もちろん奴隷契約はしないぞ」
というかしてたまるか。
「ええと……」
いかにも怪しい者を見る目つきで言葉も言い淀んでいる。
そりゃそうだろうな。こんな親切、普通はしないだろうし。
だが今更殺される理由は無いし、どうせ奴隷に志願するなら人買いなんて警戒する必要もないだろうに。
「わたし経験ありませんし、演技とかできませんよ?」
「そっちの目的じゃねえ!」
前にも聞いたぞ、その台詞。
「ではなぜです? 同情ですか? もしそうでしたら、お金とかが有難いのですが」
「奴隷でもないのに本音がダダ洩れだぞ」
奴隷として生活していたから、自然と素直に話すような習慣が付いたのだろうが……。
「実は今一緒にいるメンバーの内、4人はこの世界の事は何も知らなくてな。言葉や社会情勢どころか基本常識すらまともに知らない。一応講習は受けたが、最低限の初歩的な事程度だ。そんな訳で、そいつらと一緒に暮らして色々と教えてやって欲しい」
なんだか露骨に顔が曇るがなんとなく分かる。
「安心しろ、4人は全員女性だ。男は俺の他にもう一人いるが、こちらは色々あって教える必要ない」
「確かに、ええと、成瀬さんでしたよね。今更ですが、現地語ペラペラでちょっと驚きです。ただ古い言い回しが時々混ざって面白いですよ。何処で習ったんですか? もう一人の方も同じようなのですか?」
基本はお前からだとは言えないな。
古い言い回しに関しては、クロノス時代に身に付いてしまった癖だ。やっぱりこっちの世界でも、時代によって言葉の変化はあるよな。
ただそれも言えない訳で……。
「少し訳アリの身でね。もう一人の男は龍平と言うんだが、俺と違って古い言い回しは無いな。普通に会話している。だから男の相手はしなくてもいいぞ。安心したか?」
「そうですね。正直に言えば困っていたのは事実です。誘って頂いた時はそれなりに覚悟をしましたが、そのような条件でしたらありがたいです」
これで話は決まったな。
「それでそのう……お給金はいかほど?」
しっかり者なのは相変わらずだな。
本当に全く変わっていなくて安心する。
「ちょくちょく迷宮には入るからな。一応、十分な額は支払うから安心しろ」
「分かりました。では改めまして、セポナ・カム・ラソスと言います。これからよろしくお願いいたします」
そう言って、短いワンピース型スカートの左右をつまむと、ギリギリまでたくし上げて挨拶する。
この挨拶は地球型だな。というか、そういやこいつって今はパンツ履いてたっけ?
初めて会った時の履いていなかった記憶が今でも完全に焼き付いている。
そういやつるつるだったな。歳を聞いて驚いたのはその辺りも理由の一つだった。
「なんだかすごいスケベな顔をしていますよ? まあお給金や待遇次第では、ちゃんとそちらの方も考えます」
「そんな日は来ないから安心しろ」
……多分。
どうしても当時のこと思い出してしまうが、あの時とは何もかもが違う。
それに何と言うか、彼女のが大人であることは分かっているんだけどね。
それでもケーシュとロフレに養子の話をした時、セポナの顔が浮かばなかったと言えば嘘になる。
いやいや、マジで養子に手を出すって話では無いよ。
ただ、あの二人が沢山の子供に囲まれて生活する夢を思い出してしまっただけだ。
おそらく、あの時間の分岐は消滅してしまったのだろうけどな。
だけど、俺の中にはしっかりと二人が生きている。
死んだら消えてしまう。
日本に帰っても消えてしまう。
けど今だけは、ちゃんと覚えているんだ。
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