さすがに警戒しているな
この世界のこの時間に再び召喚されて約2か月。
その間にも色々あったし、今の時点の奴にも出会った。
勝負にすらならなかったけどな。
あれをどうやって倒すか……というより倒せる算段が何一つ思いつかない。
しかも指輪の事もまた気になり始めた。
もう決着した事だしと、考えないようにしていたツケを今払わされることになった感じだ。
未だにそちらの方も光が見えない。
ヨルエナに密かに頼んでおいたが、俺の書いた絵だけでどこまで通じるか。
それに職員総出で大々的に調査することは出来ない。そんな事をすれば、絶対に目立ってしまう。
期待としては咲江ちゃんが提出すると思うので、それの鑑定依頼がヨルエナに行くかどうかって所だろうな。
ただ風見が既に効果を知っていて、貰っていく可能性も否定はできない。
これもまだ保留するしかないのがもどかしい。
そんな中、会いたかった4人が迷宮から戻って来たと連絡があった。
その4人とは、蔵屋敷里香、斯波裕乃、溝内信二、伏沼至だ。
そりゃ最古の4人や教官組と会って話す事も重要だった。
というか、その重要人物たちに比べたら取るに足らない下っ端だ。
召喚されてから、まだ3年も経過していないという。
だけど、俺にとっては重要な意味を持つ。
何せ、俺がクロノスをしている時に召喚し、日本へと帰し、尚且つ今、この時代にいる唯一のチームだからだ。
そして俺が初めてこの時代に召喚された時には、暴走した龍平によって命を落としている。
彼らが何かしたわけでは無い。ただ龍平の暴挙を止めようとした結果だ。
だが今はまだ生きている。そんな訳で、ずっと気になっていた事を確認したくて会いたかったんだよ。
そういう事なので、戻って来たと召喚庁の職員から連絡が来てから4日後、走って向かった
ラーセットの都市内くらい、距離を外してもまるで問題はない。
その程度の悪影響など、奈々と話すだけで回復する。
ただ向こうにも連絡が行っているからな。少し時間を置いた方が良いと思ったんだ。
これで色々と分かる点がある。はやる気持ちを押さえつつ、3時間ほどかけて彼らの宿舎へと移動した。
因みに一刻も早く会いたかったのに4日も置いたのは、さすがに戻ってすぐだと不自然だし彼らも疲れているだろうという配慮からだよ。
到着した場所は2階建ての1戸建て。
巧妙に隠されていはいるが、今の俺なら見ただけで分かる様々な探知装置。
警戒っぷりは相当だ。
この時代の召喚者はみんなこうだけどな。
最初にラーセットに来て、追放されて、生まれて初めて面と向かって殺されかけた。
その時の相手は新庄琢磨と須恵町碧であったが、今なら……というか、今更恨みも何もない。
ここがそうだった。そして俺が知らなかった。ただそれだけだ。
問題はそんな状態なだけに素直に入れてくれるかどうかだが、多分大丈夫だろう。
つい最近、綱紀粛正が行われたばかりだ。
この状況で、街中で暴れ出す馬鹿はいない。その位は分かってくれるだろう。
入り口に行きチャイムを鳴らす。
なんかこういう所は、本当に現代の家を持ちこんだように見えるな。
「どうぞ」
中から聞こえてきたのは溝内信二の声だった。
しかし”誰だ?”ではなく”どうぞ”か。
やはりもう誰が訪ねてきたかは把握しているって訳だ。
ちなみに今回はクロノスの命令書などは持ってきていない。
そういう話をしに来たんじゃないし、そもそも末端すぎて命令書なんかじゃ逆に信用しないだろう。
普通は教官組が指示を出すそうだしな。
「成瀬敬一といいます。お邪魔しますよ」
扉を開けると、当の本人が立っていた。
かつての14期生。悪夢の14期生とまで言われていた生き残り。
身長は177センチ。細身だが結構ゴツイこわもて顔。当時から眼光鋭く、身のこなしも武装を習っている人間のそれだ。
スキルは”重量無視”。普段は戦車の様に分厚い鎧と巨大な斧を持って、チームの前衛を担当していた。
因みに脱ぐのも大変なので、街中でもいつもその恰好だった。
今はこの国特有の肩から先と腹の出た露出の高い服に厚手のズボン。色合いは上がグレーで下が青。靴下は履いていない完全な素足。
普段は見る事の出来ない、貴重な私服姿だ。
廊下は木張り。中の造りも日本家屋だし、靴箱の上には木彫りの熊まで置いてある。
もっとも外側を外して視れば、中にあるのはセンサーに遠隔装置。それに大きな音出すアイテムか。
警報装置というより、音爆弾だな、あれは。
「初めまして。新しく召喚された成瀬敬一と言います。今日は先輩方の話しをお聞きしたく、木谷教官の許可を貰ってまいりました」
これは嘘ではない。
命令書の類は無いが、許可自体は貰ってある。
というか、そもそも話を通してもらったからここに来たんだしな。
「そうか……全員揃っている。付いてくるといい」
全員揃っている?
おかしくはないが、少し引っかかる言葉だな。
靴を脱いで後に続くと、廊下がキシキシと鳴る。
これは鶯張りか。こんな原始的なものまで……なんて思ったが、ただ単に古いだけかもしれない。
案内されたのは廊下をほんの少し移動した右側にあった部屋。
リビングだろう。絨毯にテーブルとソファ。それに壁にはセーフゾーンを示す地図やメモがびっしりと張られている。
どれも特別とも言えないが、彼らの迷宮に対する姿勢がこれだけでもうかがえる。
中にいたのは他の3人。
一人は蔵屋敷里香。
身長154cm。小柄で細身。目を完全に隠したおかっぱ頭。常に周囲を警戒し、何処かおどおどとした小動物感がある子だ。
とはいえ、この4人は全員大学生なんだよね。
服装は胸の中央に大きな金属リング。そこから延びる赤い細い布がそれぞれの胸の中央でバッテンを作っている。ちょっと変わったビキニだが、これビキニと呼んでいいのか?
というか服と呼んでいいのか?
まあそれでも下はバニーのようなタイツに黒いレーザーのショートパンツ。
うん、千鳥ゆうよりは肌は隠しているな。
どちらもあまり使われた形跡はない。室内用かな。
というか、あの服は千鳥に憧れての物だった。
ほぼ平らな体にコンプレックスを持っていたが、より平らで小柄で中学生の千鳥は絶対的なエースだった。その彼女が全身に紐を撒いだだけのようなボンテージを着ていたので、それを真似したんだ。
それだけに、こっちでも同じものを着ているのはちょっと意外。
ちなみに蔵屋敷のスキルは”カモフラージュ”。
彼女のスキルがなかったら、奴によって14期生は全滅していた。
あ、フランソワは残ったか。
彼女はあの時は千鳥のチームにいたからな。
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