ここは俺達の墓地だ
「先ほどの話に戻ってよろしいですか?」
「ああ、すまない。俺の存在の話だったな」
「ええ。先ほども言いましたが、元の世界に帰った人間がこちらに戻って来ることなどありません。ですが帰ったはずの人物がいる。それも迷宮深部に。そこで出た結論は、成瀬様の居た地点こそがこの世界で死んだ人が送られる場所なのではないかという事でした」
「大胆な考えだな。つか俺は生きているんだけど」
「何らかの生物に寄生されている可能性もありましたので……大切なのは、肉体がこの世界に存在するかどうかなのです」
「まあたしかに」
「仮説としては以前から存在いたしました。死んだ人間は元の世界に帰る。確かに実際にその様に見えます。ですが、それを証明する手段もありません。なら、もし帰れないのだとしたら?」
つまりは、光った後で何処へ行くのか……か。普通は帰還して終わり。そう考えるだろう。
だけどそれで納得できない人間がいた。単なる憶測か、それとも何らかの根拠があったのか……まあそれは、いずれゆっくり聞くとしよう。仮説を提唱した本人にな。
「だが俺的な推測だと、連中の神殿のような場所に飛ばされると考えるな。そうすれば秘密も守れるだろう」
「隠し部屋みたいな場所でしょうか? ですが、それは考えられません。それ程に近くでは、スキルを持つ召喚者から隠し通すのは難しいからです」
確かにそうか。瑞樹先輩のような広域探知スキルがあれば一発でばれる。
もし俺が死んで消えても、きっと先輩なら何度も試すだろう。実はどこかで生きているのではないかと。それで俺の死体がもしも見つかったら……。
「ですので、一番確率が高いのは迷宮内。そして最短距離は帰るためと言われたゲートであると予想致しました」
「あそこか!?」
「はい。最も使用される場所ですので。そして到着点は迷宮内のランダムな場所だとは考えられませんので、セーフゾーンのように変化しない場所だという推測も立てられました」
まあよほど運が悪ければ、消えた隣に死体が出る事もあり得るわけだしな。送られる場所は決まっていると考えるのが妥当だろう。
「そしてその場所は彼らが決めた。つまり一度は踏破している場所。更に言えば、そこはいかなるスキルも通じない場所。そうでなければ、スキルによっては助かってしまうからです」
「いやちょっと待ってくれ。俺のスキルは……」
言いかけたが無駄だ。ひたちさんが答えを持っているわけがない。何か知っていそうなのはええと……ダークネスさんだけど、今度はいつ会えるのやら。
「迷宮は大変動の度に形が変わりますが、いつか必ずその場所に繋がる日が来ると信じておりました。それが今日、ようやく叶ったのです」
「かなりいろいろと調べてあったんだな」
「私共もそうですが、成瀬様にも確証があったのではありませんか? だからここまで――」
「無いさ、確証なんて。だけどなぜだろうかな……ここを確認せずに上に行っても、全てが無駄骨になる気がしたんだ」
言いながら思う。多分、スキルがそうさせたんだろうなと。自分でも意識しないうちに、幾つもの無駄が外されているんだ。
しかしそうか……つまりここは墓地だ。この世界で死んだ人間が自動で運ばれるところ。
だけどまだ確定したわけじゃない。確実な事を言うのなら、今は肉体の墓地と限定すべきだろう。
俺がここに初めて来た時に推測した事だが、こちらの世界にはこちらの肉体があって、元の世界にはそちらの肉体がある。
単に精神が移動しているだけ――その可能性は、まだ否定されてはいない。
俺としては、まだその可能性を信じたい。
そうじゃなければ、俺達は救われないじゃないか。
「その後も追跡を続けて場所を特定しようとしたのですが、再び数週間消えてしまわれました」
黒龍の巣にいたときか。
やはりあそこも気になるが、今はこれ以上の寄り道をしている余裕があるかどうか……。
「ところがある日、成瀬様が勇者の持っていた剣と同一座標に存在する事が確認されたのです」
「また随分ピンポイントで探査したんだな。確かにこの剣は凄いとは思うが、この迷宮全体から見れば所詮は一本の剣だ。それとも、こいつは物凄く重要なものなのか?」
「いえ、かなり強力な宝物ではありますが、特に重要という訳ではございません。ただそれを入手した時に記憶していた方が、ふと今どこにあるかを探っていたというだけです。本当に偶然の産物ですね。ただ一瞬でしたし、再び探知できなくなってしまいました」
「ああ、多分ここに戻ったからだな」
腹ゴロゴロの件は黙っておこう。
それにしても、単純な思い付きレベルの調査状況じゃない。必ず何かがあったはずだ。
世界の謎が次第に明らかにですよー。
ご意見ご感想やブクマに評価など、続きよ読んでも良いかなーと思っていただけましたら是非よろしくお願いします。
頑張ります(*´▽`*)






