やる事が早すぎる
さて新しい塔はこれで完成。
早速神殿へと飛び、ヨルエナに説明して交換する事になった。
本人はかなり渋っていたが、何とか説得して交渉成立だ。
今までの塔は神格化されて神殿の頂上部に安置される事になった。
というかそれが条件だったが、古い塔をどうしようが正直どうでもいい。
とにかくこれで、この時点から召喚者は死ななくなったわけだ。
ただ同時に、俺のスキルの負担は増える。
それに宮が色々と動き出すだろうからな。
対処を考えておきたいが、”スキルの悪影響を解消するから奈々を抱く”……無理だ。
決して他の女性を軽視している訳ではない。
だけど、こういった形で奈々と結ばれるのは、何と言うか俺の理性が許さない。
いや、こだわりと言った方が良いかもしれない。
一度結婚まではと決めた以上、ここで妥協という形でしてしまったら、俺の決意全てが揺らぐような気がするんだ。
しかしまあ、それは後で考えよう。
幸い、移動程度にスキルを使う分にはそれほど負担は無い。特に外はね。
どうしても迷宮。それも危険があると予想される場所に行くのはかなりの負担だけどな。
そう考えると、やはりスキルの使用には精神の働きが大きいのだなと実感するよ。
こうして、飛んだ場所は召喚庁。宮の執務室だ。
正確には廊下な。さすがにいきなり目の前に現れるほどデリカシーの無い人間ではないぞ。
今回の用事は、新しい塔が完成した報告だ。これでもう活動して大丈夫だという事を伝えないとな。
だが午後の講義から塔を作り、ヨルエナと交渉して塔の再設置。
かなり時間がかかったので、とっくに夜が明けている。
だからこそこの時間に来たのだが、中から風見の気配も感じる。
なんか揉めそうな予感がある。ここは帰るか。
「どうした? 用があるから来たのではないのか?」
執務室の中から声がする。さすがにこれはもう帰れないか。
「失礼するよ」
普通の人間の様に、扉を開けて中に入る。
今更ノックは不要だろう。
「今日来た用事はな、例の新しい塔が完成した事を伝えに来たんだ」
宮の正面に座り、要件を話す。
風見は宮の後ろに控えているが、俺が来る前からずっとあの体制だったのだろうか?
無いとは思わないが、この椅子には温もりが無い。
立っていたのでなければ宮の膝の上だろうがそんな気配でもなかったな。
まあいいや。他人の仲に口を出す気はない。
というか風見をからかったら、100倍にして俺の女性遍歴を捲し立てられそうだ。
正確に言えばダークネスさんのなのだが、俺にも効くからな。
「例の召喚者が死ななくなるって奴? まあ真実なら便利だけど」
俺の考えなどお見通しだろうに、そんな事はどうでもいいらしい。
或いは突っ込む気力も無いか。
とにかく順当に塔の話になった。
「事実だよ。そんな訳で、以前話した件を始めても大丈夫だ」
「もう終わっている」
「は?」
「お前から話を聞いて、すぐに風見たちに調査させた。それと教官組にも確認した。改めて、我々がもう召喚者に目を向けていなかった事を思い知らされたよ。ここまで腐っていたとはね……」
「そう誘導したのは私よ。でも良い機会だったわ」
「いや待て、新しい塔を設置したのはさっきだぞ」
「話を聞いてから5日経っている。十分だ」
これは予定外だ。
目覚めの朝、宮の元を訪れて色々と話した。例の問題がある連中の事だ。
そしてそのまま教官組を呼び出して自己紹介をした。
午後には目覚めからスキルの判定。3人の帰還。歓迎パーティーがあり、翌日からもう木谷の講義が始まった。
これは当たり前と言えば当たり前。何せ誰も知らない世界。全員が不安な状態だ。
だから夜に歓迎会をやって、先輩召喚者の紹介や、現地人など社会に敵意が無い事を示す。
こうして一晩落ち着いてもらって、翌日には世界の説明が開始される。
ここで数日おいてしまうと、不安で暴発する可能性があるからな。
そして当初の午後は実際に木谷と数人の現地人に引率され、町の各所を巡った。
翌日には講義の跡、実際に迷宮に入っての説明だ。
もっとも敵が出るようなところまではいかない。
今は初めて入った時の、砂岩の迷宮だ。
苔のように滑る迷宮や針山の迷宮ではないのはありがたい――と思ったが、この迷宮だから召喚したんだよな。
俺はある程度の周期で召喚していたから、たまに新人には入れない迷宮の時もあった。
今は反省点の一つだが、その点は改善されているという訳だ。
こうして都市と迷宮を五感で感じた翌日は、スキルの説明と実際に実地での使用練習を行った。
その翌日の午後にフランソワの講義が講義という名のトラブルがあって、確かに今は話してから6日目の朝か。5日経っているな。
いやそうじゃない。
「一応聞くが、終わったとはどういった意味だ?」
「木谷に現状の報告をさせ、緑川と黒瀬川に確認をさせた。正直な所、木谷はこの件をどうにかしたかったそうだ。だがクロノスの命令だったから従っていたのだと言われたよ。風見はもちろん、緑川と黒瀬川も知っていた。実に滑稽な話だよ。毎日死者を振り返り、現状も知ったつもりになっていた。こうしたのは私だからな」
「全部こちらで決めた事よ。貴方の責任ではないわ」
「知らなかった事自体が立派な罪だ。だがここまで腐っているとは思ってもいなかったのも事実だ。いやそうでは無いな。高潔に奪い合い殺し合うなどありえない。好きに何でもやらせれば、当然こうなる事は分かるべきだったのだ。そんな事すら分からないほど、私は目を閉じていた事を思い知らされたよ」
「いや、それよりも」
「吉川昇、中内要、金城浩文、神田川久美、それに新たに加わった入山雄哉、安藤秀夫。それに武宮亜斗夢、溝内信二、赤井渋谷、立岡かなの4人は様々な犯罪に於いて共犯だと確認された。よって、裏が取れた時点で私自身が処理した。現地人に関しては、内務庁、軍務庁がそれぞれ完了させた。神殿庁には特に黒い点は見られなかった為、今回は保留とした」
もうそこまでやったのか。
さすがに仕事が早いわ。
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