俺達は死んだら何処へ行くのだろう
あの時と全く変わらない穴。鍾乳洞へと続く道。
大変動の後にもかかわらず、その穴だけは変わらずそこにあった。
中はあの時の様に静かなままで、多脚どもの姿は見られない。
いや、本当にいなくて良かった。セポナを放り込んでしまったからな。
「ここが目的地でございますか?」
「ああ、ここから先を確かめたい。だけどあれからどの位の時間が経ったのか……間に合えば良いが、多分大丈夫だろう。それよりひたちさん、それにセポナ。途中で足のつかないところを泳ぐ事になるが――」
「わたくしは大丈夫です。水泳は得意でございますので」
「あたし泳げないんですけど」
「そんなわけでセポナをお願いします」
「畏まりました」
こうして俺は鍾乳洞へと入った。いや、戻った。
どうしても確認したい事があったから。
鍾乳洞の川を渡ってすぐ、セポナが手際よく火を熾す。さすがに冷たい水でずぶ濡れだったからな。
それに、やはり火に当たると安心する。本能だろうか。
「つかいきなり脱ぐな」
既にセポナはパンツ一丁。
「服を乾かしたいんです。予備はありますから、すぐに着替えますよ」
まあそんな事情なら仕方が無い。
というか、言われてみれば俺も乾かしたい。
ただ二人の前で脱ぐのは恥ずかしいし、何より今は優先すべきことがある。
「先に行く。急げよ」
• 〇 □
「ああ、あったよ。間に合って良かった。でもあれだな、数が合ってないな」
まるで様子を窺うように集まっていたダンゴムシを勇者の剣で追い払う。
芋虫達はまだ来ていないようだ。
今ここにある死体は4人分。うち3人には見覚えがあった。
特に2人は……言うまでもない。俺が殺したんだ。
「俺が目覚めた時は、もうみんな芋虫に集られていたんだがな」
「大変動の後、しばらくは小型のモンスターは出ません。先ず大型のモンスターが出現し、その後に中型、小型、掃除屋と発生します。大変動が近くなると、今度は逆順で消えていくのです」
なるほど。大変動が近かったから、芋虫と大トカゲくらいしかいなかったのか。
だけどダンゴムシは例外か。まあモンスターの範疇にも入っていないのだろう。
ん? 黒竜は? まあそれは後でも良い話か。
来たかったのはこの鍾乳洞。そして知りたかったのは目の前の死体。
「琢磨……さん? それにあっちは碧さん。そんな……」
セポナはそれだけ言うのが精一杯という感じで、床に座り込んでしまった。
ショックの大きさが痛いほどに分かる。どのくらい一緒にいたかは知らないが、ずっと主人だった人達だからな。それに人格的にもかなりまともだったように感じた。
彼女は生きるために俺の奴隷になったが、実際には複雑な心境だっただろう。
淫紋のハンコを勧めてきたのも、俺という凶悪殺人者……主人の仇に抱かれる現実を素直に受け入れられなかったからに違いない。やらないけどな!
だけどまだ、あの二人は元の世界に帰っただけ。そんな慰めはあったはずだ。
「わたくしたちは、ずっとこの場所を探していました。ですが探索は困難を極め、今まで誰も発見することが出来ませんでした」
ひたちさんはそう言うと、ベルトのポーチから幾つものボタンを取りだした。
制服のボタン。シャツのボタン。ぱっと見て判る、俺達の世界の物。只のレプリカかもしれないなんて、無粋な事を言うつもりは無い。
あれは俺達が唯一持ち込めた品だ……数は7個か。
「理論上はあるという意見と、無いという意見。あったとしても、人の行ける場所には無いだろうという予想。様々な議論が日夜行われました」
そして、ひときわ大きな石筍の前にそれを置いた。
まるで、お供えのように。
「ですが議論はいつも堂々巡りの空回り。実際には、この迷宮全てを踏破しても見つかる保証はありません。道が繋がっている可能性すらなかったのですから。それに遺体があっても、すぐに食べられてしまいます。どんな話し合いも全てが空論。そんな時に、成瀬様が現れました」
「ああ、あの時か……」
召喚された日。初めて女性の乳を揉んで殴られた日。そして追い出された日……。
俺にとっては、一生忘れられない日だ。
そして同時に、一刻も早く忘れてしまいたい日でもある。
新章スタートとなります。
今後ともよろしくお願いいたします(*´▽`*)






