当たり前だが彼らの協力が不可欠だ
そんな訳で、残り数時間。召喚庁の一室に、待機していた教官組が集められることになった。
宮にはクロノスとしての立場を継続してもらい、俺を先に紹介していておくことになったわけだ。
当然ながら奈々も一緒だ。
既にフランソワは俺の事を知っているが、他のメンバーはいかにも訝しそうだ。
まあそりゃそうだ。
集まったのはお出かけ中の二人を除いた木谷敬、田中玉子、荒木幸次郎。まあここまでは分かる。しかしあと一人が……。
全身紫色のミイラ男と呼べばいいか。
身長は170センチほどだが、あからさまに不自然だ。
あの包帯の下がどうなっているのかよく分からないが、手と足を何かで伸ばしている。
坪ヶ崎雅臣君の事を考えれば実際に肉体が変化した可能性があるが、あれは違うな。人間の構造に関しては見ただけで分かる。
それはいのだが――、
「一ツ橋健哉だ。私はこれでも忙しい身でね。新人の教育にも関わらない。そういう約束だ。それを分かった上で呼んだのだろうからあえて出向いたが、用件は手短に願いたい」
とても本人とは思えない野太い声。だがどこか機械的な不自然さがあるな。声くらい変えていてもおかしくはないが、そもそものイメージが随分と変わったものだ。
あの頃は150センチを少し切る身長に、青く染めたロングヘア―。それに白とピンクの百合をあしらったロングのワンピース姿だった。
声は変声前の可愛らしい声で、塔のシステムメッセージは彼の声だった。
そう、何処から見ても女の子だが、実際には男だ。
しかし今の姿は男とか女とか言う以前に人間かどうかも怪しいな。一体何が有ったのやら。
「一ツ橋の言ではありませんが、これでも新人が目覚めるまでの準備があります。ただでさえ加藤甚内と三浦凪が出払っている状態ですので、こちらとしても手短に願いたい」
そう言って、一歩前に出てサングラスをクイッと上げたのはリーダーの木谷敬だ。
相変わらず白と青の縦縞スーツに緑のサングラス。
俺がクロノスだった時と違って、こっちの木谷はクロノス相手にも一切、物怖じしない。
龍平の情報では教官組はクロノスに対して絶対的に従っていると聞いたが、なんかそういう雰囲気でもないな。
というか、わざわざフルネームで言ったのは嫌味だろうし。
だが反目しているかといえばそうでもない。単純に忠誠心というのが希薄なのだろう。
だけど命令はきちんと遂行する。組織の中で、自分の立ち位置を完全に確立している態度だ。
それに教官組に中では、木谷はリーダーとしてきちんと認められている様に見える。
なにせフランソワが木谷を睨みながら苦々しい顔をしているが、一言も口を挟まない。
大体予想は付いていたが、最古の4人と教官組の間にあるのは明確な上下関係だ。
一方で、教官組は木谷を中心としたチームなのだろう。
「確かに大事な所で呼び出して悪かった。だが君たちを呼んだのは紹介したい人間がいるからでね。これは重要な事だ」
「例の新人ですよね。昨日はそれで酷い目にあいましたよ」
そう言ってフランソワを睨んだのは荒木幸次郎だ。
こちらも相変わらず鋼のような肉体を誇示するように、露出は異常に高い。
笑っている様な大きな口が描かれた青いマスクにビスの付いたナックル。
下はファウルカップの付いたビキニパンツにさらに下はロングブーツ。
一言で言えば覆面レスラーだ。
昨日召喚の間でスキルを使用していた気配があった。
待機していた緑川と寝室に来たフランソワは分かったが、こいつもいたのか。
そういや、地下でフランソワと戦った時もコイツと一緒にいたな。組むことが多いのだろうか?
というかこの二人を相手にして緑川は無事だったのだろうか?
色々と疑問は残る。
昨日フランソワに聞いておけば良かったが、この世界の事を色々と聞いていたので時間が無かった。
多分大丈夫だとは思うけどね。
最古の4人に何かあったら、さすがの宮も冷静ではいられないだろうし。
「紹介しよう。成瀬敬一と水城奈々だ。二人とも先日召喚された人間だと言えば、紹介の必要がある事は分かるな」
いきなり名前を呼ばれて、緊張で石のように固まっていた奈々がますます硬直した。
礼儀正しいのに自己紹介もお辞儀もしない。もう金剛石の様だ。
まあ何と言うか、教官組って独特の迫力というかオーラを纏っているよな。
認識阻害をしている最古の4人の方が、奈々にとってはよっぽど話しやすいと思われる。
ただ話せる相手かと言うと……色々と厳しい。
「確かに……予定よりも早く目覚めた者は、自分が知る限りではいませんが」
「それは今までいなかったというだけの話だろう。新人には違いグギッ!」
あ、口を挟んだ荒木の尻をフランソワがど太い剣で刺した。
というか、アレ骨盤まで達しているぞ。容赦ないな。
「今はクロノス様が紹介している。余計な発言は禁止」
「クソがあ」
「その目は何? 死にたいのなら構わないけど」
うわあ……床中血まみれにして這いつくばっていた荒木が、一睨みで大人しくなった。
以前対峙した時は対等な関係に見えたけど、クロノスが絡むと容赦ないって本当だったんだな。
でももう真実を知っているだろうに、宮をちゃんとクロノス様と呼んでいる。
しっかりした娘だ。
荒木はまあ……脳筋なのは知っているが長い付き合いだろう。もう少し考えてしゃべれ。
「良い。忙しい中、いきなり呼び出したのは俺だ。それに2人を派遣したのもな。ただそれでも今後の為に絶対に必要な事だったのだよ」
「状況は分かりましたが、単なる顔見せではないでしょう。我々に求めている事は何ですか?」
「話が早くて助かる。今後は彼――成瀬敬一は俺と同格と考えて貰って構わない」
全員の空気が変わるが、フランソワだけ顔を赤らめてちいさくパチパチと拍手している。
なんか可愛くて照れる。
同時に硬直したままの奈々が目だけでこっちを見ている。
まだまだ前途多難だ。
それよりここは先手を取らないと。
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