苦い復活か
多分、それは宮だけの判断では無いな。
どちらかといえば風見……案外話を聞く限り、黒瀬川が中心かもしれない。
効果的に殺し合わせ数を減らすシステムか……。
「同時に本体の討伐戦も並行して行った。召喚者間の関係は悪化の一途をたどり、生き残りの多くはもうやっていられないと反旗を翻した。中には教官組をしていた者も居たよ。だが全て討伐した。一桁しか残らない事もあったし、そこを他国に付け込まれて何度もラーセットは燃えた」
頭いてえ。聞きたくもない。
だけどこれは、一歩間違えれば俺が進んだ道でもある。
「全員が、抜けられない闇の中でもがいていた。だが、気にもかけていなかった召喚者が驚く事をやってのけた。樋室紗耶華だ。もう会って来ただろう」
「そりゃね。ちなみに彼女はいつごろに召喚されたんだ?」
「大月歴の224年だな」
「クロノスが消えてから26年後か」
「ああ。美しく儚げで、長くこの世界には留まれるとは思えなかった。しかし――」
いや、俺の感想だとコミカルな美人だったぞ。それに召喚された時は全員何の経験も無い同一人物だ。
宮の視点だとそう見えたのか。案外好みだったりして……。
まあ今は確かにそんな感じだし、案外一緒に来た生徒によって印象が変わったのかもしれん。
「その彼女が、264年にクロノスを再生させた。ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスとしてな」
聞きたい……その中二病名は誰がつけたのか。
しかしそんな事で話の腰を折るのも悪いしなあ……こいつはとにかく真面目な奴だし。
「あれはとにかく驚いた。確かにクロノスは、もし自分が消えた場合の対策はしてあった。しかし本当にそれが可能となる日が来るとは思わなかったのでな」
「対策?」
「もし自分に万が一の事があった場合の用意だ。その中に、自分が入る器というものがあった」
確か龍平が双子から聞いた話だと、どっかのセーフゾーンの主の抜け殻だったな。俺は形見分けでもらったが……。
「自分が志半ばで倒れた時の対策として、早々にやるべきことがある。その内の一つがそれの確保だと言っていたそうだ。実際に、クロノスが召喚されて1年以内にはもう入手していたと聞いている」
あれの持ち主はウェーハス・エイノ・ソス。何の権限もない閑職と聞いていたが、彼女が窓口になってから南のイェルクリオとの外交は実にスムーズに進んだ。
たとえ権限はなくとも、召喚者の相手を任されるだけの人物だ。内務庁渉外2部支部長という部署はともかく、彼女自身は十分に優秀で協力的だったって事だろう。
だけどあれは形見分けとして俺に送られてくるようなものだ。世界の耳目の中心にして召喚者の長……と自分で言うのは恥ずかしいが、それが世界的な事実だから仕方がない。
そんな人間に送るものが、ただの置物だろうか?
まさかな。かなり大切な品だったはずだ。
素直に渡すわけもなし。俺だったら迷わず盗むよなあ。ただそれだけで済めばいいが、ラーセットを奴が撃退してすぐか。
鍛えられているだけにそれなりに強いことは間違いないが、スキルに関しては確実に俺より劣る。
それに何より、俺だからなあ……。
場合によっては――あまり考えたくはないがね。
どちらにせよ、すぐに犯人はバレるだろう。
結果の大小はともかく、それでイェルクリオとの窓口を失う事は避けられない。
だけど、俺にもしもの事があった時のバックアップなら必須品に違いない。
俺が知らなかっただけで、知っていたら同じ事をしただろう。
何せ実際に、一度消えているしな。
あの時は咲江ちゃんがいたから助かったが……そうか、最悪の場合、あの中に入らなければいけなかったのは龍平ではなく俺だったわけか。
嫌だなー、マジで。
「こうしてクロノスはこの世に舞い戻った。だが彼はもう、以前のクロノスでは無かった」
「それはなんとなく分かるな」
俺がこの世界から消えた時、何も感じなかった。
感覚だけの話ではない。意識も、執着も、記憶も。
自分が自分であるという自覚すらなく、ただふらふらと漂っていたような感覚。
だけど、何か温かいものを感じたんだ。それが何だったのか、どうしてそう思ったのかも分からない。
だけど目覚めた時、俺はこちらの世界に戻っていた。
それで自分を取り戻したが、ダークネスさんはそんな状況からあの殻に引き戻されたのか。
僅かの自我はあるとは言っていたが、出会ってからの会話を考えると、やはり完全とは言えない――なんて生易しいレベルではない。
もう別人と言っても良いだろう。
それにしても、考えてみれば檜室さんもスキルを使うのに代償が必要なんだよな。
彼女のスキルもかなりのレアケースだ。
そして、そういったスキル持ちだから出来たのかもしれない。
「あの時残っていた者で、クロノスを知る者は既に6人だけだった。だから他の者には何の興味もない話だが、我らにとってはある意味本体を倒すよりも重要な事だったよ。しかしその結果はただ落胆が残っただけだ。それでも最初はまだクロノス本人ではあった。ただ今後の事を考え、再びクロノスに戻る事は拒否された。風見の件もあるからともな。その後は俺の行為に苦言を呈しながらも、陰で協力をしてくれた。だけど段々と、アイツはクロノスという存在から離れて行った。そうだな、本格的に黒瀬川から人らしい感情が消えたのはその頃からだったな」
なんだ。するとやっぱりそこまでシステムは宮と風見でやったのか。
黒瀬川よ、疑って悪かった。
「とにかく、そこからは召喚を加速させた。その為により多くの召喚者が死ぬように仕向けた。だが何人召喚しても、何人死なせても、お前は来ない。そして何度も起こる裏切り、反乱、他国への亡命、侵略。俺たちは全てに対処した」
「4年前の反乱もそうか」
「その辺は聞いていたのだな。その通りだ。あれもこちらでそうなるように仕向けた。全ては召喚者を減らす為と、一度ダークネスと樋室たちをこちらから離したい事情があったからな。だがそんな事はもはやどうでも良い事だ。なあ、正直に言ってくれ。私は本当に私なのか? 私はまだ宮神明でいられているのか? それとも、もはやクロノスの皮を被った何かなのか? それすらも、もう自分では分からないのだよ」
いつもお読みいただきありがとうございます。
多くが明らかになってきた、先代の時代と敬一がクロノスであった時代の差。
余談ですが、敬一は聞くことは無かったのですがウェーハスが優秀だった一端は426話「抜け殻」にて。
龍平しか知らない事ですが。
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