表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

502/685

苦い復活か

 多分、それは(みや)だけの判断では無いな。

 どちらかといえば風見(かざみ)……案外話を聞く限り、黒瀬川(くろせがわ)が中心かもしれない。

 効果的に殺し合わせ数を減らすシステムか……。


「同時に本体の討伐戦も並行して行った。召喚者間の関係は悪化の一途をたどり、生き残りの多くはもうやっていられないと反旗を翻した。中には教官組をしていた者も居たよ。だが全て討伐した。一桁しか残らない事もあったし、そこを他国に付け込まれて何度もラーセットは燃えた」


 頭いてえ。聞きたくもない。

 だけどこれは、一歩間違えれば俺が進んだ道でもある。


「全員が、抜けられない闇の中でもがいていた。だが、気にもかけていなかった召喚者が驚く事をやってのけた。樋室紗耶華(ひむろさやか)だ。もう会って来ただろう」


「そりゃね。ちなみに彼女はいつごろに召喚されたんだ?」


「大月歴の224年だな」


「クロノスが消えてから26年後か」


「ああ。美しく儚げで、長くこの世界には留まれるとは思えなかった。しかし――」


 いや、俺の感想だとコミカルな美人だったぞ。それに召喚された時は全員何の経験も無い同一人物だ。

 (みや)の視点だとそう見えたのか。案外好みだったりして……。

 まあ今は確かにそんな感じだし、案外一緒に来た生徒によって印象が変わったのかもしれん。


「その彼女が、264年にクロノスを再生させた。ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスとしてな」


 聞きたい……その中二病名は誰がつけたのか。

 しかしそんな事で話の腰を折るのも悪いしなあ……こいつはとにかく真面目な奴だし。


「あれはとにかく驚いた。確かにクロノスは、もし自分が消えた場合の対策はしてあった。しかし本当にそれが可能となる日が来るとは思わなかったのでな」


「対策?」


「もし自分に万が一の事があった場合の用意だ。その中に、自分が入る器というものがあった」


 確か龍平(りゅうへい)が双子から聞いた話だと、どっかのセーフゾーンの主の抜け殻だったな。俺は形見分けでもらったが……。


「自分が志半ばで倒れた時の対策として、早々にやるべきことがある。その内の一つがそれの確保だと言っていたそうだ。実際に、クロノスが召喚されて1年以内にはもう入手していたと聞いている」


 あれの持ち主はウェーハス・エイノ・ソス。何の権限もない閑職と聞いていたが、彼女が窓口になってから南のイェルクリオとの外交は実にスムーズに進んだ。

 たとえ権限はなくとも、召喚者の相手を任されるだけの人物だ。内務庁渉外2部支部長という部署はともかく、彼女自身は十分に優秀で協力的だったって事だろう。

 だけどあれは形見分けとして俺に送られてくるようなものだ。世界の耳目の中心にして召喚者の長……と自分で言うのは恥ずかしいが、それが世界的な事実だから仕方がない。

 そんな人間に送るものが、ただの置物だろうか?


 まさかな。かなり大切な品だったはずだ。

 素直に渡すわけもなし。俺だったら迷わず盗むよなあ。ただそれだけで済めばいいが、ラーセットを奴が撃退してすぐか。

 鍛えられているだけにそれなりに強いことは間違いないが、スキルに関しては確実に俺より劣る。

 それに何より、俺だからなあ……。

 場合によっては――あまり考えたくはないがね。


 どちらにせよ、すぐに犯人はバレるだろう。

 結果の大小はともかく、それでイェルクリオとの窓口を失う事は避けられない。

 だけど、俺にもしもの事があった時のバックアップなら必須品に違いない。

 俺が知らなかっただけで、知っていたら同じ事をしただろう。

 何せ実際に、一度消えているしな。

 あの時は咲江(さきえ)ちゃんがいたから助かったが……そうか、最悪の場合、あの中に入らなければいけなかったのは龍平(りゅうへい)ではなく俺だったわけか。

 嫌だなー、マジで。


「こうしてクロノスはこの世に舞い戻った。だが彼はもう、以前のクロノスでは無かった」


「それはなんとなく分かるな」


 俺がこの世界から消えた時、何も感じなかった。

 感覚だけの話ではない。意識も、執着も、記憶も。

 自分が自分であるという自覚すらなく、ただふらふらと漂っていたような感覚。

 だけど、何か温かいものを感じたんだ。それが何だったのか、どうしてそう思ったのかも分からない。

 だけど目覚めた時、俺はこちらの世界に戻っていた。

 それで自分を取り戻したが、ダークネスさんはそんな状況からあの殻に引き戻されたのか。

 僅かの自我はあるとは言っていたが、出会ってからの会話を考えると、やはり完全とは言えない――なんて生易しいレベルではない。

 もう別人と言っても良いだろう。


 それにしても、考えてみれば檜室(ひむろ)さんもスキルを使うのに代償が必要なんだよな。

 彼女のスキルもかなりのレアケースだ。

 そして、そういったスキル持ちだから出来たのかもしれない。


「あの時残っていた者で、クロノスを知る者は既に6人だけだった。だから他の者には何の興味もない話だが、我らにとってはある意味本体を倒すよりも重要な事だったよ。しかしその結果はただ落胆が残っただけだ。それでも最初はまだクロノス本人ではあった。ただ今後の事を考え、再びクロノスに戻る事は拒否された。風見(かざみ)の件もあるからともな。その後は俺の行為に苦言を呈しながらも、陰で協力をしてくれた。だけど段々と、アイツはクロノスという存在から離れて行った。そうだな、本格的に黒瀬川(くろせがわ)から人らしい感情が消えたのはその頃からだったな」


 なんだ。するとやっぱりそこまでシステムは(みや)風見(かざみ)でやったのか。

 黒瀬川(くろせがわ)よ、疑って悪かった。


「とにかく、そこからは召喚を加速させた。その為により多くの召喚者が死ぬように仕向けた。だが何人召喚しても、何人死なせても、お前は来ない。そして何度も起こる裏切り、反乱、他国への亡命、侵略。俺たちは全てに対処した」


「4年前の反乱もそうか」


「その辺は聞いていたのだな。その通りだ。あれもこちらでそうなるように仕向けた。全ては召喚者を減らす為と、一度ダークネスと樋室(ひむろ)たちをこちらから離したい事情があったからな。だがそんな事はもはやどうでも良い事だ。なあ、正直に言ってくれ。私は本当に私なのか? 私はまだ宮神明(みやしんめい)でいられているのか? それとも、もはやクロノスの皮を被った何かなのか? それすらも、もう自分では分からないのだよ」





いつもお読みいただきありがとうございます。

多くが明らかになってきた、先代の時代と敬一がクロノスであった時代の差。

余談ですが、敬一は聞くことは無かったのですがウェーハスが優秀だった一端は426話「抜け殻」にて。

龍平しか知らない事ですが。


ご意見ご感想や誤字脱字のご指摘など、何でも頂けるとものすごく喜びます。

餌を与えてください(*´▽`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ