そんなに美味い話があるのだろうか
「ご安心ください。貴方がたとわたくし達とは違います。わたくし共はこの世界に生きる存在。この地に生まれ、この地に死ぬ事が神の定めた条理。これはまた、皆様にも当てはまります。ここは貴方がたの死に場所ではないのです。ただ単に召喚の関係が途切れるだけ。元の世界に戻るだけで、決して死ぬわけではありません」
多少静かになったざわつきが、また本格的に騒めき始める
そりゃそうだろう。美味い話には裏がある。そもそも、この状況で美味い話と信じる方がおかしい。
だけどそれを信じたのなら、先に行ったという連中の事も多少は納得する。
死んだら直ちにゲームオーバーな宝探しゲーム。
ん? それでその宝を見つけたとして、その後は?
「そして滞在時間もまた、それに当てはまります。どれほど長い間この地に留まったとしても帰還する時は来る前と全く同じ時間、同じ状況に帰ります。皆さまは睡眠状態でなければ召喚されませんので、現在は就寝しています。そして帰還すれば、そのまま翌日に目覚める事でしょう。ですが、これもまた世界の法則によるものなのですが、こちらでの記憶は一切残りません」
なんだか、少し弾みかけていた周囲の空気が一気に落胆する。
そりゃそうだ。今更だが、これは異世界召喚と言うものだろう。突然の状況に不安はあった。
だけど宝探し。失敗は即ゲームオーバーとなり得るが、実質失うものの無いゲーム。まあ無くすのはこの機会くらいだろう。それに時間無制限となれば、後は興味が勝る。
どんな世界なのだろう? どんな物や文化があるのだろう? それを記憶だけでも持ち帰れたら、相当な財産となるに違いない。
だが全部パア。戻ったらご破算となれば、やる事に何の意味もない。
どれほど良い思いをしても、目が覚めれば全て無かったことになるのだから。
「谷吉健太――」
突然、女性が人名を告げる。
「志藤響子。中村獅子。大河内昴――」
続けて呼ばれる何人もの名前。それがここにいる人間の名前でない事は明白だ。
なぜなら政治家や一流のスポーツ選手、そして文化人など、多少世の中に興味を持っていれば誰でも知っているような有名人だったからだ。
「皆、この世界で特別なアイテムを見つけて帰還した方々です。記憶は失われますが、力の一部は残ります。最初に少しご説明した、スキルと呼ばれるものがです」
静まっていた周囲が再び色めき立つ。中には両手の拳を握りしめ立ち上がる者もいる。
お前意味わかっているのか?
「こちらの世界ほどはっきりとは認識できません。記憶は失われるのですから。ですがその力自体は自然と使えるようになります。この世界で成功を収めた人達の多くは、貴方がたの世界でも成功が約束されているのです」
「も、もっと詳しく教えてくれ」
「いったいどうすればいいんだ?」
「先ずはスキル。そう、スキルだ!」
神官らしき女性に殺到する人々。
だがそんな彼らに愛想を振り撒きながら、まあまあ落ち着いてくださいと言いながら周囲の者に目配せをした。
慣れている。落ち着き様によどみのない会話、流れ。まるで全部台本通りといった感じだ。
だけどそうかもしれない。彼女の話が事実だとすれば、これは初めてじゃない。
それどころか、もうマニュアルが作れる程に繰り返し行われている事なのだろう。
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