再会
こうして探究者の村へと来たわけだが、一瞬で到着した。
今の俺にとって、この位の距離など無いに等しい。
到着早々、広間のベンチでイチャイチャしているカップルの後ろ姿が視界に入る――が、何と言うかあれに声をかけて聞くのは勇気がいるな。
だけどそんな心配は不要。なぜなら、向こうは俺が声を掛ける前に臨戦態勢に入ったからだ。
まあさすがというか何と言うかだ。
男の方は、女性の背後に隠れている。というか逃がしたんだな。
剣崎智弘。スキルはアイテムテレポーター。
戦闘には全く役に立たない。むしろ足手まといというべきか。
同じ系統のフランソワと違って、こちらは普通に置くだけ。ただ静かな分、繊細なものでもきちんと送れる点では便利だ。
制約は厳しかったが、運送という面では彼の方が上だろう。
フランソワのスキルは強力なカタパルトだからな。
「……見たところ召喚者の様ですが、見慣れない方ですね。何か御用でございましょうか?」
かつて見た事もないほど、敵意に満ちた鋭い目。だけど忘れるはずもない。例え召喚者でなくたって、彼女の声は忘れない。それにその姿も。
どれ程旅をして、何度も共に戦い、そして深く愛しあった。
日本人ばかりの召喚者の中では珍しく、丸く編んだ金髪に青く普段は優しい瞳。
そして目を引くのは相変わらず色々な意味で凶悪なハイレグボンテージ。
上乳はモロ。そしてその下からサイドに空いた穴のせいで下乳もドーン、横乳もバーン。
スパイク付きの肩パットや肘当ても、手袋もニーハイブーツもガーターベルトも当時のまま。
そして何より、持っている凶悪な武器も同じだな。
決して完全に安全な土地とは言えないが、あんなにイチャイチャしていたのにこの格好とは……って、俺の時も同じだったわ。
でもそうか――本当は、彼が恋人だったのか。
そういや初めて会う前に、彼女が志願した事だから文句を言うなとかダークネスさんに通信が入っていたな。
全てはあの場所を見つけるため。そして俺を保護するため――か。
剣崎さんも、当然俺と彼女がどんな関係になって何をしているか知っていたはずだ。それを分かって送り出していた。彼はいい人だったが、一体どんな気持ちで俺たちの様子を見ていたんだろう。
風見や宮本だったら分かったのかもしれないけどな。
「お答え頂けないのですか?」
召喚者同士――それもスキルを知らない者同士の戦いは躊躇してはいけない。
それは、いきなり新庄琢磨さんと須恵町碧さんに教わった事だ。知りたくもなかったが。
だけど彼女は仕掛けては来ない。これがここのルールなのだろうか。
それとも警戒しているのか?
確かにそれも考えられるが――、
「下がれ、南条ひたち。彼は我の客である」
「これは…… ブラッディ・オブ・ザ・ダークネス様。承知いたしました」
一礼し、ひたちさんは剣崎さんの元へと下がって行った。
彼女を抱きしめる剣崎さん。俺に見せた時のように、屈託なく微笑むひたちさん。
胃の中が、なんだか熱くなる。気が変になりそうだ。
だけどその気持ちも、近づいて来るダークネスさんを見れば一瞬で吹き飛んだ。
全身真っ黒な全身鎧。だけど顔の部分には何の穴も無いのっぺらぼう。
というか、関節も含めこの鎧には隙間と言えるようなものは何もない。
だけどまるで生物の様に自然に動く。改めて見ると不思議な感じだ。
「こちらに来た事はわかっていた」
ああ、この声だ。見た目に反して、何の威圧感もない。
それどころか、感じる感情は慈愛。それと同時に、覚悟と強い決意が混ざる。
そもそもなぜ気が付かなかったんだろう。
確かにこの村には召喚者の意思さえあれば人やモノと入れ替える召喚者がいる。寿永寿さんだ。
だけど俺が初めて出会った時、確かにダークネスさんだけだった。どうやってあそこに行った?
そしてどうやって俺を見つけたんだ?
勇者の剣を対象に探したとひたちさんは言っていたが、あの村にそんな超遠距離探索が出来る召喚者なんていなかった。
場所的に、ラーセットにいる召喚者からも無理だろう。
俺のスキルも、弱点も、悪影響の解消法も、全て知っていた。なぜだ?
それに制御アイテムを捨てた龍平の位置を把握し、あいつでも見分けがつかないほど正確に筆跡を真似て字を刻んだのは誰だ?
その話を聞いた時、やっぱりダークネスさんが最初に候補に浮かんだ。
でもこの時ダークネスさんは村にいた。だから彼ではないと思った。候補から除外した。だけど本当にそうか?
誰にも気がつかれず一瞬で移動し、アイツの筆跡そっくりな文字を刻み、そしてすぐに戻って来る。
そんな事が出来る人間を、俺は一人知っている。
龍平の内面を、自分だと錯覚するほど正確に読んだという。
だから龍平は、ダークネスさんが自分だと思い込んでいた。
だけどこの時代のダークネスさんが龍平じゃない事は間違いない。
ならそこまであいつを知るものは誰だ?
もう考えるまでもないじゃないか。
「お久しぶりです、俺」
「そうか……我を知るか。我のスキルはここまで成長したのか。嬉しいぞ、俺よ」
自分でも気が付かないうちに、彼の両手を握りしめていた。
なぜそうしたのかは分からない。ただ堪らなく悲しくなったからかもしれない。
「だがもう気が付いているか? それとも聞いてきたか? 我はとうに俺ではない。成瀬敬一でもクロノスでもない。思い出せる事もそう多くはない。まるで霞のように浮かんでは消える。お前の事も、我の事も、本当のところは何も分からなのだ。だがすべきことは分かっている。事前に全ての可能性を決めてあったのでな。今の我は、かつての残滓をこの器に入れただけの物に過ぎぬ」
「多分……そうだと思っていました」
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