完全に見失った訳だが
さて召喚者は俺が生きている限り死ななくはなった。ただ重要人物が早々に帰ってしまうとそれはそれで困る。
再び召喚されて来るのはいつだよと言うと答えは無い。生きていてくれるのはありがたいが、こっちにいなければ死んだのと同じだ。
磯野や椎名といったキーになる人がいたからここまで出来たんだ。
ここで二人を失ってしまったら、相当な問題だよ。俺の作戦が成功すれば損失は小さいが、失敗したら大事だ。
なにせ完全に見失ったら、今度は探しようが無くなってしまうのだから。
そうして見つけられないまま10年だの20年だのが経過してしまったら、それこそ元の木阿弥。作戦は全て練り直し。向こうを成長させただけ損だ。
そんな事になったら本当にお手上げだぞ。そうなったら以前のクロノスの様に、必要な人間を召喚するまで使い捨てを繰り返すか?
あの頃は相当にギスギスしていて、召喚者同士でも情報の共有や交流は殆ど無かったそうだ。
そりゃそうだよな。良いもの見つけたら、仲間だと思った奴に後ろから刺される世界だ。
龍平はあえて多くを語らなかったが、俺の評判もかなり悪かったんだろうな。
さすがにそんな世界には出来ないか。
「遅れていますよ。何か考えている余裕なんてあるんですか?」
「予定より遅れてしまったから考えているんだよ」
……と誤魔化しておこう。
というか、焦りが顔に出ていたか?
一応認識阻害はしてあるとはいえ、龍平にはおそらく効果ないだろうし。
いっそ解除してしまおうかと思うが、効果の有無はあくまで予想だ。
それにここで龍平の記憶が戻ると色々と面倒くさい。説明なんかしていたら、見失ってしまう事は確実だ。
と、相変わらず考えている間に目的地のセーフゾーンに到着していた。
校庭をひょうたん型にした程度の広さ。床は完全に水平で、素材はまるでガラスの様だ。
今は眷族の死体が2つと雑魚の死骸が沢山転がっているだけで何もない。
雑魚は俺がスキルで一掃した時に巻き込まれたんだろう。
眷族は俺が到着する前に龍平がやったな。
改良はされているとはいえ、この時代の通信機ではまだ連絡はつかない。
場所さえ特定できれば総力戦が出来るのだがな。
「ここが目的地ですか? 残念ながら雑魚しかいませんでしたが」
……眷族が雑魚か。そいつら、一応は中級者くらいの召喚者を倒すくらいの実力があるんだけどな。
まあここは頼もしいと思っておこう。
「一応、目的地の最初だよ。奴はここに居た。だけど数日前に移動した訳だよ」
「つい先日はそれで逃げられましたよね? どうやって追いかけるんですか?」
その“つい先日”は1年と2か月ほど前だけどな。
「まあ見ていろ。俺もあれから常に成長しているんだよ」
「あれからと言ってもまだ1年と2か月ほどですが」
ちゃんと分っているじゃないか……なんてツッコミは野暮だな。俺たちに時間なんて
あまり意味はない事は今更だ。
だが、それでも時間には意味がある。実際にこの世界に召喚されてからの52年の出来事は、俺を確実に成長させてくれたよ。
周囲の敵を一掃する。動く必要はない。最初にラーセットを救った時にもやった事だ。
当面は30キロメートルほどで良いだろう。
あの時はスキルの使用アイテムが壊れてしまったが、さすがに今の俺なら負担も少ない。全く問題無いな。
スキルの使用と同時に、無数の雑魚が一掃された手ごたえを感じる。範囲内に数体の敵が残ったが、どれも単独だ。本体じゃない。
用心深いアイツの事だ。単体での行動は避けているだろう。
それに、俺の事を調べたのなら案外理解しているかもしれない。
次の時間遡行が、奴にとって最後の逃げる機会だと。
それがどっちに転ぶかは、神のみぞ知るって事ではあるが……何はともあれ、またここで時間を稼がれては堂々巡りか。
「スキルを使った様ですが、これからどうするんですか?」
「当然追うさ。今ので大体予想は付いたよ」
昔はこういう戦術みたいな事を分析するのは苦手だったんだけどね。今ならなんとなく分かる。
今の攻撃で生き残った奴は全部囮だ。適当なルートを徘徊させていたんだろう。進行ルートに一貫性がまるでなかった。
その辺りは、木谷とポーカーやチェスをやってだいぶ鍛えられたと思う。
しかしやっぱり時間が経ち過ぎたな。以前も同じような感じで完全に見失ってしまったんだ。あの時は悔しかったな……。
だけど前とは大きく異なる。こっちには、磯野輝澄が作ってくれた詳細なセーフゾーンの地図と、椎名愛が作ってくれた奴の行動経路が記された地図がある。
そして今確認した眷属の位置。それらを照らし合わせれば、奴の行動は大方予想がつく。
以前の俺が彼らを召喚しても、ここまで育てることは出来なかっただろう。
代わりに奴より早く俺たちを召喚出来た事を考えれば悪くは無いのだろうが、奴を倒せないツケがぐるぐると回っているんだ。
そろそろ終わりにしても良い頃合いだろうさ。
そんな訳で、ここからはショートカットだ。
最も確率の高い場所には、地上から行った方が早い。
天井に向けて、大穴を開ける。
「さて、倒しに行こうか」
「予想があっていればいいですね」
「何か賭けるか?」
「世界の命運が懸かっているのでしょう。今更他に賭けるものなんてあるんですか?」
「まあ、その通りだな」
幸い、塔のおかげで誰も死んでいない事はわかる。
ならそろそろ戻っても良いだろうな。
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