それが黒い騎士との出会いだった
歩けるようになったからと言って、迷宮の地図があるわけではない。
それに大変動の時間も分からないし、食料には限りがある。
俺はもうダンゴムシを甘く感じるほどに慣れてきたが、さすがにセポナには食わせられん。
折角俺自身が平気になったのに、巻き添えで死んでしまう。
だが今更になって奴隷契約を解除する気にもならないし、何よりセポナが拒否するだろう。
「もう疲れましたー。休みましょうよー」
「お前は背中に乗っているだけだろうが!」
「上下に揺さぶられ続けるのって、結構内臓に来るんですよー」
まあ仕方が無い。幸い湧き水が近くにあった。水の補給を済ませよう。
というか、こいつが目ざとく見つけたんだけどな。本当に目端が利く奴だ。
ぐったりしているセポナを脇に置いて、水筒に水を入れる。
これはもう何回目の作業だろう。場所も分からない。もう間に合わないか?
頭を振って、嫌な考えを吹き飛ばす。弱気になるな、俺。
そんな事を考えながら立ち上がる。その目の前に、いつの間にかそいつは立っていた。
本当に音も気配もなく、いつの間にか――だ。
セポナも気が付いたのだろう。悲鳴を上げそうだが声が出ないようだ。座ったまま、滑る床をじりじりと後ずさっている。
目の前にいたのは――化け物だった。
見た目は全身真っ黒な全身鎧。金属のようにも見えるが、光沢が殆ど無い。
そして何よりも、兜にあるはずの覗き穴などの隙間が一切見られなかった。
のっぺらぼうの生きている甲冑、そう言えば良いのか。
しかも馬に乗っている。漆黒の馬。この滑る苔の上に馬で立っているのも驚きだが、頭が天井に着きかけている。どうやってここまで来たんだコイツは?
「驚いていますわね」
「そうね、普通は驚くわよね」
その騎乗した黒い甲冑の左右から声がした。人の声。子供の声。そして俺達の言葉。
慌てて確認すると――いた。
最初に異様な化け物を見上げたので気が付かなかったが、その左右に小さな子供が立っていた。
見た目は8歳か9歳。幼女と言うか少女と言うか難しい辺りだろう。
金髪を……なんて生易しい物じゃない。まさに金属としての純金の輝きを持つ黄金の髪をツインテールにし、瞳は血のような赤い色。
体には黒い霞のような、なのにハッキリと形どった透けたドレスを身に纏い、その下にはフリルたっぷりの――それでいて布面積の極めて少ない下着を身につけている。
二人とも同じ顔、同じ声。双子なのだろうか?
いや、それ以前に人間か? だが本能は違うと言っている。
ヴァンパイア……俺が最初に考えたのは、そんな感じであった。
「これは人?」
「多分人」
「でも違う」
「人でなし」
二人がヒソヒソと言っているが、全部聞こえているぞ。
だがどうする? 敵か? だとしたら勝算は?
俺は既に召喚者2人と百人近い兵士を倒している。だがそれが自信になるのか?
むしろなってはいけないだろう。目の前にいるのは、間違いなく未知の存在なのだから。
「そう怯える事は無い。お前たちも黙れ」
「「はい、ご主人様」」
――な!? しゃべった。しかも俺達と同じ言葉だ。
甲冑で少しこもった感じだが、太い男の声。これも……いや、彼も召喚者なのか?
敵ではないとすると――いや、そうでなくても、化け物と感じた事は心の中で謝罪しておこう。
まだ分からないけどな。
それにしてもご主人様か。この子たちも奴隷なのか?
見た所では透けたお腹に紋章のようなものは見えないが、それは根拠としては弱いだろう。
ただ奴隷としては、少々幼すぎるだろう。労働力になるとは思えない。まあ見た目や身長はセポナもさほど変わらないが。
「……ふむ、貴様とは旨い酒が飲めそうだ」
「いや、未成年なんで」
いきなり妙な事を言いだした。というか、今何を理由にそういった?
表情も視線も読めない。声からも感情を感じない。何とも掴みどころが無い。ただ敵でないのは幸いだ――もちろん、今だけなのかもしれないが。
これより新章に突入です
これからもよろしくお願いいたします(*´▽`*)






