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思ったよりも立派な研究室じゃないか

 目の前にあるのは拠点攻撃用のパンジャンドラムとかいう兵器。

 だけどどう見ても迷宮(めいきゅう)では使えないから、発注したとしたら軍務庁か?

 それにロケット推進と聞いたけど、こいつについている様子は無いな。


「これどうやって進むんだ?」


「それに関してはそろそろ来る頃なんですが、ちょっと遅れているみたいです」


 誰かの協力が必要なのか。

 召喚者が必要となると、ますます実用的では無いな。

 だけど拠点攻略兵器か……数さえ揃えば案外使えるかもな。

 何せ連中が作る砦は木製だ。首都などはラーセットと同じような特殊な素材だが、そこまで攻め込む予定はないし。


「そう言えば、実戦ではどのくらいの戦果を挙げたんだ? 恥ずかしながら、今まで名前を聞いた事は無かったよ」


「推進が不安定でしたので、途中でひっくり返ったり戻ってきたりして全く使えなかったそうです。知らないのも当然かと……」


 それ絶対にダメじゃん!


「すみませーん、遅れましたー」


 フランソワと与太話をしていると、遠くから一人の男が走って来た。あれは確か、一ツ橋健哉(ひとつばしけんや)と同じ15期生の一人だ。

 名は野口隆英(のぐちたかひで)。筑波橋東第三高校のメンバーだから、あれも高校生か。

 ただ背は170センチほどだが、無精髭にやつれた顔。肌にも張りが無く、何処から見てもくたびれた30代のおっさんだ。

 いや29歳の俺が言えるような事じゃないが。


 第15期生は、一ツ橋(ひとつばし)の他は13人が帰還。2人が死亡しており、残るはこの2人だけだ。

 そして一ツ橋(ひとつばし)が地上で研究勤務なので、所属先の無い彼も地上勤務になっている。

 当然ながら、フランソワと一ツ橋(ひとつばし)のアシスタントだな。


「どうも失礼しました……ってクロノス様!? 遠くからだと見えなかったのに」


「そうしているからな。それで――ああ成る程」


「そういう事です」


 彼のスキルはテレキネシス。物品を動かす能力だ。

 そういえば、以前の時代でも彼女が開発した無人兵器ってのに2度も襲われたな。

 最初はスキルと思って、その後はそういう風に作ったと思ったが……そうか、他の召喚者の協力という線もあったか。

 まあ彼と同じとは限らないけどな。


「それで、あの鉄板の方にぶつければ良いんですよね?」


「話が早くて助かる。もし壊れたとはいってもガトリングガンの方にって言ったら、冗談でも火薬の筒を口につっこんでた」


「ハハハ、まさか。フランソワさんに、そんな自殺行為をするわけがないじゃないですか」


 ――聴き間違いだろうか?

 フランソワは中学生。それも小柄でお人形のように可愛らしい子だ。

 俺に対しても礼儀正しくいつも敬語。とてもそんな事をするとは思えないが……野口(のぐち)の目がマジだ。本気で怯えている。

 そういや、俺と戦った時もあんな口調だったか。敵には容赦しないタイプなのだろうか? 俺も気を付けよう。


「じゃあとにかく始めますね。でももうちょっと離れてなくて良いんですか? あれの中身って、確か火薬ですよね?」


 ここれから的までの距離は30メートル程度だが……。


「あまり離れると正確さが不安。だから大丈夫。火薬の量も、少し位なら爆発が大きくなっても熱いで済むくらい」


「なら良いでしょう。では――」


 勢い良く突進したパンジャンドラムは寸分たがわず鉄の板に命中した。

 その瞬間に発した閃光を、俺は二度と忘れないだろう。というか、召喚者は忘れるって事はないけどね。

 それはともかく、輝いた光。ついで届いた熱。いや熱いなんてものじゃない。そして響き渡る轟音と共に、吹き飛んで来る山ほどの焼けた石。そしてその中に、天を衝くような光の柱を見た。





「大丈夫か、フランソワ」


「は、はい。ありがとうございます、クロノス様」


 光が見えた瞬間には、体がもう反応してフランソワを庇っていた。

 認識阻害の下に着ていた迷宮(ダンジョン)産の革鎧は黒焦げ。皮膚も火傷で相当ヤバい。

 まあそれでもフランソワを救えたのだから安いものだろう。

 取り敢えずはダメになった皮膚は外しておこう。

 というより野口(のぐち)はどうなった? 割と真面目に言うと、生きているとは思わないのだが。

 だが案外しぶといもので、自分自身を強制的に引っ張って距離を取っていたようだ。

 それでも相当に酷い状態だがね。医者としては、もう家族を呼ぶような状態と言って良い。

 まあ薬一本で治るんだけどね。実に便利。


 後から知った事だが、この時の火薬の爆発力は想定の2千倍をゆうに超えていたそうだ。

 大変動エネルギーの不安定さ恐るべしだな。


 だけど失敗は成功の母とも言う。今回の失敗は、必ずや次の成功の礎となるだろう。

 とういうか、なってくれないと困るんだけどね。





 その夜、フランソワの手当てと工房見物を兼ねて、彼女の研究室を見せてもらった。

 怪我と言っても軽い火傷と擦り傷だ。簡単な薬でも、跡も残りはしないだろう。

 それより何と言うか、見事なほどに研究室って感じだ。

 薬品、鉱物、実験に使う道具なども整然と置かれ、危険物は更に厳重に保管されている。

 よく漫画にある様な雑多な感じはない。あれは自殺行為だしな。


「これらは全部迷宮(ダンジョン)産か?」


「そうです。生物から取り出したものもありますが、やはり基本は鉱物やアイテムが元になっています」


 よく見れば、迷宮(ダンジョン)の生き物がホルマリン漬けになって奥の方に並んでいる。


「正直ちょっと意外だったよ。フランソワって、こっちの方面に強いんだな」


 というか、強いとかいう概念を越えている。

 これはきちんと学んだ人間の研究室だ。


「そうですね……わたしには兄がいたんです。その影響と言って良いと思います」


 彼女の兄ねえ……。どう見ても、まともな人間じゃないような気がするが、その点には触れないでおこう。






今日も無事更新です。

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[一言] 破壊力が不安定なら、たくさん使えばいい 推進が不安定な場合はどうするのかな…
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