この可能性を全く考えていなかった
そして召喚の儀式が始まった。
幾つもの光が蛍の様に淡く輝くと、ユラユラと揺らめきながら次第にそれは大きくなる。
いつも思う。あれは魂なのではないだろうかと。
死ねば素直に帰ってくれれば色々楽なんだけど、こうして他者の命を生贄にして召喚されているんだ。
帰るにも、それなりのエネルギーが必要なんだろう。
そしてこの光を見るたびに、俺は自分の罪深さを実感する。
カルネアデスの板――溺れそうな二人の前に浮かんだ板。一人しか支えられないそれを奪うために、他者を殺すことは許されるってやつだ。
昔はやったトロッコ問題なんかもそうだな。放置すれば5人が死ぬ。だが自分が人殺しになるなら、犠牲者は一人で済むってやつ。
どちらも、やっている事は同じだな。
俺は地球とラーセットを含むこの世界を救うため、今こうして犠牲者を自らの意思で召喚している。
正しいとは思ってなどいないが、他に手段が思いつかない。
この世界にも神はいるらしいが、地球の神と同じで意地が悪いな。是非すべてを解決する英知を授けて欲しいものだ。
そんな半ば自暴自棄な考えにふけっている間に、儀式は終了した。
召喚された17人は、何も知らず眠っている。
本来ならここで召喚された日を思い出せない様にして……そしてそれに失敗したら帰る様に刷り込みをするのだが、出来る人間がいないのでそれは無し。
出来たとしても、やるかどうかは別問題だけどな。
そして別室に運んだあとは、目覚めるタイミングで”さもたった今召喚しました”かのような演出が行われるわけだ。
毎度の事だが、ここで出来事を知っているのは現神官長のクナーユ、それに俺と教官組、他は引退した神官長だけだ。
そして今回は風見絵里奈の他、高橋月光に宮本と秋月の肉食獣コンビに立ち会ってもらった。
「さて、いつものように運ぶとしよう。今の段階で目が覚めることは無いと思うが、丁重にな」
そう言いながらも、俺は違和感に襲われていた。
いや、そんな生易しい物じゃない。見れば、風見は後ろに2歩ほど後退すると、ペタンと尻もちをついてしまった。
そりゃそうだ、気持ちは分かる。
彼らの服装には見覚えがある。忘れもしない第3期生、釜石第2高校の制服。風見と同じ学校の連中がまただと!?
だけどそれだけじゃない。目の前で、大きく伸びをして早くも目覚めている人間がいる。
「うー……ええと……絵里奈だよね? あれ? 名前で呼ぶような仲だったっけ? ここは……覚えているんだけども……ねえ、何処だっけ?」
あまりにも呑気にそういった女性は児玉里莉だった。
風見と同じ第3期召喚組。その後は男に走り、俺達を裏切り、激しく戦い……そして、俺が日本に帰したんだ。
それよりも――、
「馬鹿! バカバカバカ! そんなのすぐに思い出すわよ馬鹿! それよりどうして戻ってきちゃったのよ!」
風見は児玉にしがみついて泣きわめいていた。
一方の児玉は状況が理解できないといった感じで愛想笑いを浮かべている。
だけどまあ、すぐに思い出すだろう。
それよりも、ここいる高橋月光、宮本忍、秋月緋和の三人は、彼女が反乱に加担したことを知っている。
彼ら9期生は加担もしなければ召喚者同士の戦いもしなかったが、さて今は何を思っているのやら。
「とにかく、ここは風見とクナーユに任せる。他のメンバーは、いつも通り残った連中を運ぶとしよう」
こうして俺達は残った16人を別の召喚の間まで運んだのだが、その時に世間話のような感じで聞いてみた。彼らがどう思っているのかを。
「ああ、その話」
最初に反応したのは宮本忍だった。こういう時、彼女のテンポの速さは助かる。
「前に宮らの反乱を鎮圧した後も聞いたでしょ。わすれちった?」
「そんなことは無いけどな」
宮神明がリカーンって国と組んで反乱を企てた事があった。
俺としては召喚者同士の殺し合いなど絶対に避けたかったが、何せ軍務丁長官であったユンス・ウェハ・ロケイスが殺された事で始まった反乱だ。もう互いに引っ込みが付かない所から始まってしまった訳だ。
だけどやっぱり召喚者に人間を――それも同じ日本人同士で殺し合えなど言えない。
そこで彼らには待機してもらって、全部一人で対処したんだ。
結局首謀者である宮や、児玉の彼氏……というか男の橋本浩二ら反乱者は始末した。
けど児玉を殺す事なんて出来なかった。だから、色々と大変だったが彼女は日本に帰したんだ。
そして当然、その後に事の顛末を全ての召喚者に話した。もちろん、今話している宮本たちにもな。
そして大量帰還という結果となり、召喚計画は大きく後退したわけだ。
だけど、彼女は帰らなかった。それは同じ9期生である月光や秋月も同じだ。
本当に感謝しているよ。
今回もお読み頂き感謝でございます。
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