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字が読めないと言う事は致命的だと改めて思った

 どの位の時間が経過したのか。

 10分かもしれないし、1時間かもしれない。だが俺にとっては永遠のように感じる恐怖の時間。

 世界が崩壊するかのような轟音。何度も地面に叩きつけられる激痛。見た事もない恐ろしい光景。全てが地獄の様だった。


 とはいえ無限に揺れ続けるわけでもない。

 やがて揺れは収まったが、体中(あざ)だらけ。痛くってしょうがない。


 ――セポナは!?


 俺がこれだけきついのだ。普通の少女である彼女が無事である可能性は低い。いや、無い。


「セポナ、何処だ?」


 セーフゾーンの中は確かに変わらない。柱は全て無事であり、中の広さも同じだ。

 だが死体は酷く散らばり、木箱などはどれも砕けて中身が散乱している。メトロノームのような機械も倒れて壊れていた。

 地形は変わらなくても、状況は一変していたのだ。


「生きているのか? 返事をしろ!」


「生きてますよー」


 弱々しい声だが、確かに聞こえた。何処だ!?


 辺りを見渡すと――いた。見た所怪我は無く、怯えた様子だが問題はなさそうだ。

 周囲に散らばっているのは現地人たちの死体。こいつ遺体をクッションにしたのか。意外と(たくま)しいな。

 同時に、その人たちが鎧を身につけていない事に改めて気づく。


 男性もいるが、兵士に比べて女性が多い。多分荷物持ちや炊事係だろう。慰安も兼ねていたのかもしれない。どちらにしろ、非戦闘員だ。

 意識を取り戻した時のセポナの様子を改めて思い出す。

 最後の一人となって、必死に命乞いをしていた。もしかしたら、他にも命乞いをしていた人間がいたのかもしれない。

 自分の行いに吐きそうになるが、ここは抑える。今はやるべきことがある。


「悪いが俺には急いで行かなければならない場所がある。一刻も早くだ。もうお前と奴隷契約をするつもりは無い。強く生きろよ」


 そう言って振り返る。今まで来た方向に。

 こいつの話が何処まで真実だったかは分からないが、本人にその気がないなら仕方がない。

 だが本当に時間が無いのだ。今こうしている間にも、芋虫共が這い出しているだろう。

 途中で落ちていた水筒、それに木箱の残骸近くにあった干し肉と石のように硬いパンを拾う。

 これは石パンか? 保存食なんてどこも似たようなものだな。

 欠片を砕いて口に入れる。さあ、出発だ。


 ――と思いきや、足にセポナがしがみついてきた。


「ま、待ってください。置いて行かないでください。死ぬ、死んじゃいます。こんな所に放置されたら死んでしまいます。奴隷でもなんでもなりますから、置いて行かないでください!」


「お前さっき嫌だって言っていただろう。ここで救援を待つか、一人で帰れ」


「無理に決まっているじゃないですか! 大体、大変動の後ですぐに動き始める馬鹿なんていませんよ! さっきのは冗談です! 駆け引きなんです。どうか見捨てないでください―」


 ――本人の前で馬鹿とはよく言ったものだ。

 だが確かに、少しは考えた方が良いのかもしれない。


「よし、ではまず奴隷契約をするか」


 物凄く迂回してしまったが、当初の予定には戻ったわけだ。

 奴隷にして真実を語らせ、その後解除する。こいつの巻き沿いで死にたくは無いからな。

 まあ付いてきたいのならそのまま付いて来させても良いだろう。


「はい、集めてきます!」


 もはやゴミが散乱する広間から、器用に必要な道具を集めてくる。

 意外と目端が利く様だ。


 持ってきたのは契約書とハンコが2種。


「まずここにサインをして、互いの意思を確認します」


 いきなりしまったと思う。字が読めない。

 奴隷契約と言うからには、人生に関わる重大な事が書いてあるに違いない。しかし読めない。

 もしかしたら、全く違う物凄く不利な契約書類かもしれない。それでも読めない。


 そうだよ、こいつ自身が通訳兼書類の確認といった時、字がある事も分かっていたじゃないか。アホか俺は。

 うん、これは無いな。


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