こいつもこいつで苦しかったんだな
新たに召喚されてきた俺に制御アイテムは無い。だから追放された。
正確に言えば、そんな事はクロノスもヨルエナも知っていた。あの追放劇は、全部決められていた予定調和だったわけだ。
その一方で、龍平は普通に残った。制御アイテムも貰えたしな。
では本来の龍平はというと、平八さんとなって制御アイテムがいらない体になっていたわけだ。
その代わり、いつまでもつかは分からない。案外、あの最後の戦い時にはもう限界だったのかもしれないな。
でもやっぱり……。
「それにしても、お前がクロノスとはね。思い出した事なんかを相談しようと思ってみれば、なかなか笑えないオチだったよ」
「認識疎外は掛けていたんだがな」
「遠目に姿を見ただけで完全に分かったよ。外見はともかく、滲み出る気配というやつだな」
まああそれで分かったのなら、この認識疎外も無駄じゃないって事か。知らない人間には分からないって事だしな。
俺と高校生の俺じゃあまるで別人だし、こちらも考えなくていいか。
「そういえば、記憶はいつ戻ったんだ?」
「1年ほど前に突然だ。封のされた二つの壺がある小さなセーフゾーンに辿り着いたんだ。一緒にいた連中が床に見た事もない文字と幾つもの凹みを見つけたが、まあそれだけだな。壺も開かなかったし、固定されていて動かす事も出来なかった。だけどそんな事をしている内に、俺は以前の事を思い出していたんだんだよ」
「それは他の誰かに話したのか?」
「まさかな。そこまで不用意では無いさ。本当はクロノスに伝えるべきかも悩んだのだが、地球の事なんかは話しておくべきだと思ったんだよ。場合によっては一戦交える事も覚悟していたがな」
交えることにならなくて良かったわ。
「話す決断をしてくれて助かったよ。こっちもお前の記憶が戻るのをずっと待っていたんだ。聞きたい事が山ほどある。以前のラーセットで何があったのかをな」
とにかく、これを知らなければ始まらない。
あの頃の俺は、ちゃんと奴の本体を倒すために動いていたのか?
なんで召喚者はあんなに無法状態で放置されていたんだ?
あれが俺自身だと確信できるだけに、その辺りを知っておくべきだ。
「そうだな。じゃあこっちに召喚されてからお前に帰されるまでの全部を話すとしよう」
こうして龍平は召喚されてからの事を離し始めた。
俺が追放された事に、奈々も先輩も最後まで抗議してくれた事。
その後、奈々だけが特別待遇で連れていかれた事。
自分たちは同じ杉駒東高校の一部のメンバーでチームを組んだが、教官組の講習を待たずに他のベテランと組んで一足先に迷宮へと入った事。
そして、それらは全て仕組まれていた罠だった事も話してくれた。先輩を抱いたいきさつもな。
彼女は話さなかったし、俺も聞かなかったから知らなかったよ。
そして先輩と隔離されて雑務を押し付けられていた事や、その事に先輩が何をさせられていたかなど。
その言葉には何の感情も無かったが、それが逆に龍平が放出できない怒りを内包したままだと理解した。
俺もその辺りの事情はそれとなく聞いていたし、想像もしていた。
だが現実は、俺の想像なんて無知な子供の妄想レベルだったことを思い知った。
果たして、俺が龍平の立場だったら堪えられただろうか?
まあ無理だな……。
「それでも、先輩は笑ってくれていたんだな」
「それはおまえの前だったからだ」
全てを知る龍平の言葉が胸を抉る。
そのたった一言だけで、先輩がどんな生活をしていたのかを想像してしまったから。
もっと沢山話せば良かった。もっと沢山抱けば良かった。
だけど俺はそんな先輩の心も知らず、最期には俺によって現代に戻されてしまった訳か。
決して消えない悔しさが重くのしかかるが、その重みで潰れてなどはいられない。
「奈々に関しては何か聞いていないのか?」
「俺は正直、あいつに興味は無かったからな」
奈々も双子の様にそっくりなのに、こいつ結構一途だよな。
「ただ瑞樹が気にしていたから、何度か全員で面会にはいったさ。ただ審査が厳しくてな、簡単に会う事は出来なかった。直接面会できたのは俺だけだ。当時リーダーだった吉川昇ってやつがそれなりに顔の効くやつでな。そいつのつてで面会が許されたんだ。今考えて見れば、俺の為に仲介をしたわけじゃない。そうしてもらうために、瑞樹が身体を張ったんだ」
もう悔しさを隠し切れないのか、右足で地面を思いっ切り踏み鳴らす。
べコリと地面は丸く抉れ、衝撃で跳ねたベンチが龍平の頭を直撃した。馬鹿だろお前。
まあ避けようと思えば簡単だ。頭を冷やす為にあえて受けたのだろうが、今更あんなもの俺たちには痛くもかゆくもない。
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