懐かしいけどやっぱり何もないんだな
この後でミーネルとシェマンに彼女の事を託した後、ケーシュとロフレと久々に1週間ほど落ち着いた時を過ごしてから、いよいよ黒竜探しに出発した。
なんかのんびりしているように思われそうだが、人は竜を探す為だけにあらず。人として、こういった時間も大切なんだよ。
※ ▼ ※
特に当てもない旅だ。最初はずっと気になっていた研究者の村へと行ってみた。
当然誰もいるわけもないが、もしかしたら先住民とかいるかもしれないからな。
――なんて考えていたけれど、やっぱり誰もいなかったよ。
ただ草木の生えるうっそうとした森だ。そんな中、切り立った崖に迷宮への入り口が見える。
入らなくても分かる。今は奥までは繋がっていない。せいぜい10メートル程の短い迷宮だ。
確かにこれでは使い物にはならないな。
迷宮への出入り口が分かれば、後は体が覚えている。
皆で住んだ家、ダークネスさんの家、そして樋室紗耶華さんのゴミ屋敷。
記憶はついさっきのように鮮明だ。
だけど今は、ただ木や草が生えた自然が広がっているだけでしかない。なんか寂しさだけを感じるよ。
ここには沢山の思い出があった。こっちの世界に来てから、あれほどまでに安らげた時間は他にはない。
研究は煮詰まってしまったが、それでも苦しくはなかった。ただ奈々の言葉だけが、毎晩のように俺を責めていたな。
あれだけはきつかった。その辺りは、実は今も変わらないけどな。まだ鮮明に覚えているよ。忘れる事が出来ないって事は、実に不便なものだな。
でも色々と現実で経過した時間の思い出が増えた分、その辺りは少し和らいだ気がする。
代償として、高校1年生だった俺は、もう30手前まで来てしまったわけだけど。
――来なければよかったかな。
そうも思うが来てしまった以上は仕方がない。
それに、入る場所は一応決めてあったんだ。
そこまでの距離を外すのは簡単だった。
あの時はみんながいたから歩いて行ったが、一人だとこうも早いんだなと改めて思う。
だけど嬉しくもなんともない。あの楽しかった日々を取りもどす事は……まあ無理だよ。
今のメンバーも好きだし、一緒にいて楽しい。でもやっぱり壁を感じるんだ。おそらくどれほど肌を合わせても、どれほど長い時間を一緒に旅しても崩せない壁。
クロノスという絶対的な力を、他の人間は本能で感じ取ってしまうのだから。
それにしても改めて来て分かるが、こんな所一瞬だ。
しかも高校生の俺だの時計だの、探そうと思えば簡単だよな。
少なくとも、奴を探すよりも遥かに容易い事だ。
本当に見つけられなかったのか? まさかな。
しかもダークネスさんもいたんだ。あの時点では袂を分かっていた様子だったが、俺なら見失うような真似はしないね。
そう考えると、おそらく全てが前クロノスの掌の上だったって事だな。
そして思う。本当にあれは俺だったのかと。
まあ間違いないんだけどね。今この時代に俺がクロノスをしている事、あのクロノスから感じた力、空気――それらが本人であると告げている。
だからこそ、やはり分からない。なぜあの状態の奈々を放置した?
先輩の境遇だって知っていたはずだ。龍平の事だって……。
そしてどうして、ヨルエナ・スー・アディンを処刑できた。
今の俺なら絶対に出来ない。だがいつかの――数十年後の俺なら、そんな事が出来るようになってしまうのだろうか。
▽ △ ▽
目的の場所は、あの時と全く変わらない。
でも鮮明な記憶と照らし合わせると、まだ微妙に新しい感じもするな。本当に些細な差だが。
ここはかつてユーノスと呼ばれた国。
ラーセットと同じような小国で、他の国とも離れている。他国に攻められることも吸収される事も無いが、だからと言って悠々自適な自治を保っていた訳でもない。
資料を確認したが、小国ながらも頑張って迷宮を攻略し、不足する物資は命がけで他国と交易していたらしい。
そんな国を、あの青白い怪物どもが襲った。そしてこの国を滅ぼしたんだ。
こことラーセットとの大きな違い。それは召喚者がいたかどうか。
滅んだか発展したかの違いは、ただその一点だけだ。
到着してから先ず、俺は廃墟となった都市を散策した。
予想はしていたが、人っ子一人いない。迷宮のセーフルームよりも生活環境は良さそうなんだけどね。
でもあそこに住む人は、別に楽園に期待してあんな所に住んでいるわけでは無い。一獲千金を求めているんだ。
こんなバックアップもない迷宮に潜り、手に入れたお宝を危険な外を旅して他国へと運ぶ。まあ無理な話だ。
しかもここは壁も壊れ、建物も奥が倒壊している。外から怪物は入り放題。普通の人間が住むのは無理だろう。
あの時は坪ヶ崎雅臣君の用事があったし、皆もいた。だからじっくり見て回る事は無かったが、改めて見るとかなり破壊されているな。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
昨日予告を忘れてしまいましたが、新章スタートです。
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