もう考えるまでもないか
中には見覚えのある眷族たちが集まっていた。トカゲ型のもいれば、人型や蜘蛛のケンタウロスのような奴。
どれもついさっき見たやつらばかり。で、1体も減っていなければ増えてもいない。
だけど奴がいない。本体が何処にも見えないんだ。
「りゅ……平八、ここに居るのは眷族だけだ。だが――」
感じる――幻覚なんかじゃない。俺はもうハッキリと、奴を認識している。
「本体は移動中だ! この先へ高速で移動している!」
何がどうなっているかなど、考えるのは後だ。
今はとにかく――、
「どけえ!」
まるで破壊が人型になった様な、龍平の暴れっぷりが心強い。
眷族などさほどの足止めにもならず、龍平は突き進む。
「俺は先に追うが、付いて来れるか?」
「誰に向かってモノを言っている」
「なら付いて来いよ」
ごちゃごちゃ考えるのは全部後だ。奴の位置はスキルの消去法で完全に把握した。そこへ飛ぶ。
飛んだ位置は、本体から10メートルも離れていなかった。俺の消去法探索術もかなり正確になってきたな。
というか進行方向だ。当然ながら突進してくるが、もう対処法は分かっている。
自分の体は爆散するが、覚悟さえできていればどうという事は無い。
ありったけの力を込めて、奴の表面を外してやった。
球体の3割ほどが破壊され、バランスを崩して壁に激突する。
そして俺はもう本物の体になっている。再びの攻撃で右腕は吹き飛んだが――弱い。最初に比べれば、こんな物は蚊に刺されたようなものだ。
更に円盤に付いていたでっぱりを外す。
一方こちらは既に無傷。限界があるとはいえ、向こうにとっては不死身の怪物だ。
『クロノス。その名を持つ者は必ず根絶やしとする。何処にあろうと、幾つあろうと、その全てを抹消する』
「そうかよ」
もうそれはさっき聞いた。だがやはり、それ自体が相当な違和感だ。
だが考えるのは後。それよりも――、
「くたばれ化け物!」
もう追いついてきた龍平の一撃が炸裂する。
既に弱っている上に完全な不意打ちだ。まるで風船が割れるように、奴の体は粉々に吹き飛んだ。
「これでやったのか?」
もう動くものはない。確かに倒した。これで解決だ。
そう、さっきもそう思った。
だから改めて確認する。
自分が持っていた薬は?
龍平に渡していたんだ。当然持っていないよな。
俺の状況は?
精神面やスキルの負担はかなり軽減されている。これも千鳥ゆうの乳を揉んだからだろう。感触もしっかりと残っている。
しかしどういう事なんだ?
こいつは確かに倒した。なのに今こうして、改めて倒している。
「油断はするなよ。どんな些細な動きも見逃すな」
そうだ。さっきは焼いてみたり集めてみたり、色々やってみた。
千鳥から小瓶を貰って、奴の欠片を一部回収したりもしたな。
よくよく考えてみれば、結構目を離してしまっていたか。
でも視界は全周囲とはいかないからな。こうしている間にも、見えない範囲はある。
だが可能な限り視線を動かし、僅かな隙も――、
「……えっ? く、クロノス様ですか!? 本人?」
は?
天井に張り付いた何かの卵みたいな塊から、14期生の一人、蔵屋敷里香が顔を覗かせている。
ああ、この後の事が分かる。
一瞬だけ笑顔になった彼女は、すぐにわんわんと泣き出してしまった。
「大丈夫、俺がクロノスだ。水も食料も持ってきている。安心してくれ」
俺の言葉を受け、ワラワラと4人が出てくる。
当然、重量無視のスキルを持つ溝内信二が3人を抱えて降りてくるわけだ。
出そうになる溜息をぐっと堪える。だけど、この口惜しさは消しきれない。
「ひっ、あ、あお、すみません! すみませんでした!」
「いえ、悪いのは俺なんです」
「違うよ、どうしようもなかったんだ」
俺の雰囲気を察したのだろう。
「君たちに対して怒ってなどいない、安心してくれ」
「で、でも……」
「ふがいない自分が、どうしようもなく情けなく感じただけだよ」
相手の能力を疑う余地はない
元々この世界では、俺たちの時は止まっている。実際には動いているにも関わらずな。
それにそもそも、世界を越えてここまで来ているんだ。
そして奴は、何らかの手段で世界を越えた。そんな奴が相手なんだ。時間を操る術があったって驚きはしないさ。
「クロノス様は不甲斐なくなんてありません!」
「そうです! 俺たちを助けてくれました」
「それは当然の事をしたまでだ。気にするな」
さて、ここからやる事はまあ以前と同じだ。近くにあるセーフゾーンまで、一直線に壁を破壊する。
「この先にセーフゾーンがある。そこで待っていてくれ。すぐに援軍が来る」
千鳥たちがこの周辺を探索中だし、まあ見つけるだろう。
見つからなかったら、それはそれで俺が教えればいいだけの話だしな。
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