全てが終わったら土産を持って挨拶に行こう
こうして倒しながら先へと行く。
奴らの群れを探して奥に行けば行くほど敵は増える。もう鍾乳洞の中はギチギチだ。
地面だけではなく、天井にも3メートル級のヤモリが張り付いている。
もう殆ど皮膚はないけどな。
だが所詮は雑魚。スキルで命を外してやれば、面白いように落ちてくる。
だけどやはりたまに効かない奴が混ざる。
「先生、お願いします」
「誰が先生だ」
同じようなヤモリ型だが、大きさは8メートルクラス。
しかも全ての皮膚は失われ、もう青白いゲル状の質感になっている。
当然、目はただの膨らみだし、手足の指も張り付いている。口はかろうじて開くようだが、喉から先が埋まっている。もう完全に生物ではないな。
その見た目も不気味だが、力も相当なものだ。
おそらく戦闘系の、それも熟練の召喚者でなければ相手にはなるまい。
だが龍平は気にもしない。
襲ってきた奴の顎を蹴り上げると、その巨体が重力を失ったかのように直立する。
その無防備となった腹に、高々と跳躍した龍平の右ストレートが炸裂する。
ただそれだけで、その巨体は内側から破裂する様に四散した。
「相変わらずとんでもないな」
「だがこいつも本体じゃないんだろう? 先を急ぐぞ」
「そうだな」
かすかにだが、龍平に焦りの色を感じる。俺も何度も経験がある。スキルの負担がチリチリと脳を焼く。あの不快感だ。
どうするか――確かに頼もしい。それにこれは最高の好機。だが失敗したら?
機会は必ずや再び訪れる。しかしその時に、龍平がいるといないとでは大違いだ。
最悪の場合は、やはり諦めて引き返す。今から説得する方法を考えないとな。
自分としては、その考えは決して状況を甘く見て出した答えではない。
むしろ今出来る最大限を考え抜いた結果だ。
だが、そんな俺の全身を、死という恐怖が暴風のように吹き抜ける。
思わず足が止まってしまった。龍平も同じだ。
どうやら、大事な眷族を次々と倒されてご立腹の様だな。
「この先にいるようだな」
「そうだな。今の感覚はそうなんだろう。もしあれが眷族とかいう奴の強い個体というだけなのだとしたら、本体はどれ程だって思うぞ」
「引き返すか?」
「そんな選択は俺には無い!」
そう言うと同時に龍平は駆け出していた。実に頼もしい。
俺もすぐに追わないとな。そんな訳で、動けよ俺の足。恐怖は外す。だがまだすくむ。それ程かよ。
だけど、俺には龍平を見殺しにするなんて言う選択肢はない。
「うおおおおおおお!」
叫び、気合を入れる。カラ元気でも今は足が動けばいいさ。
俺もまた、全速で龍平を追った。
しかし肉体強化された龍平は早い。少しはこっちの事も考えて欲しい。
ある程度の直線なら距離を外す事で追いつけるが、こう入り組んでいるとな。
だがまあ、通った道は分かる。大量の死体が散らばっているんでね。
俺もぼんやりとはしていられない。この先にいる事は間違いないんだ。
スキルを使い、先にいる怪物たちを一掃する。
……のだが、何体か――なんてレベルじゃない数が残った事を実感する。
そりゃそうか。知恵があり、こうやって隠れるほど用心深い。そして俺の予想が正しければ、こいつはいずれ召喚の技を身に着け、更には新天地を求めて地球に進出する。
多分相当に頭が良いんだろうな。
人間が他の動物に無い優位性は知恵だというが、果たしてそれを上回る相手に勝てるのだろうか……。
そんな俺の横を、ものすごい勢いで龍平が飛んでいった。
いやちょい待ち!
驚いて振り返るより早く、土壁に激突する音が響く。
「随分と早いお帰りだな」
「うるせえ」
幸い距離はあまり無い。それに相当深くめり込んでいるが、自力で出られそうだ」
「確認するが、本体ってのは球体か?」
その言葉で、限界と思われていた緊張感がさらに高まった事を実感する。
「ああ、俺が聞いた話が確かなら、そいつこそが本体で間違いない」
「その情報はどこまで当てになるんだ?」
「俺の知る限り、この迷宮に最も詳しい奴からの情報だ。間違いないだろう」
「嘘の可能性は?」
「無いな。何といっても――」
あいつに嘘をつく理由が何も無いからな。そう言おうとしたが、
「あいつは親友だからな」
なぜか俺の口から出た言葉は、そんなセリフだった。
同時に、迷惑だろうなとも思ってしまったけどな。
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