表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

341/685

生きてさえいれば何とかなるよ

 ここに来るまでに相当にスキルを使ってしまった。

 普通なら何か月もかかる距離だ。しかもセーフゾーンからセーフゾーンへと飛んだわけなので、それだけ負担も大きい。

 だけどそんな状況だからと容赦してくれるわけがない。

 それ以前に、黒竜が言うには知恵があるのだったな。弱っていると知られたら、かえって付け込まれるか。

 ならば――、


 今は鍾乳洞のような形状の迷宮(ダンジョン)だ。全方位ではなく、この通路に沿って一掃する。

 その分、中途半端はダメだ。一点集中、1キロメートルは一掃だ。

 音もなく、他は何も破壊せず、ただ奴らの命だけが外れて消える。

 実際には幾つもの枝分かれした道全部の合計だから、直線で1キロメートルって事は無いけどね。

 ただスキルに別の反応があった。違和感ともいえるこの反応。奴等ではない。そして油が水を弾く様に、スキルが弾かれた感覚――召喚者だ!

 急いで向かう。この状況で、まだ生き残りがいるのか? いてくれるのか?


 それは鍾乳洞の天井に張り付いていた。

 見た目はまるで、繭――というよりもカマキリの卵というか、モリアオガエルの卵というか、まあそんな感じで張り付いていた。大きさは太めの寝袋程度。人間が数人包める位か。

 あれがスキルを防いだって事は、あれ自体がスキルの塊か。ならば。


「大丈夫か? 俺だ! クロノスだ! 生きているなら返事をしろ!」


「……えっ? く、クロノス様ですか!? 本人?」


 膜を破る様に顔だけ出してきたのは、第14期生の一人、蔵屋敷里香(くらやしきりか)だった。うん、スキルは確か隠蔽(カモフラージュ)だったと聞いている。

 詳しく見せてもらったことは無いが、こんな感じのスキルだったのか。

 というか相変わらず中途半端な認識疎外で幽霊のような姿だが、この姿ですら会ったことは無かったな。


 だけど話くらいは聞いていたのだろう。こちらを見ると一瞬だけ笑顔になり、すぐさまわんわんと泣き出してしまった。

 気持ちはわからないでもないが、今は状況が聞きたい。

 冷たい奴だと言われそうだが、今は人命が掛かっているんだ。


「他に生き残りは――」


 そう言いそうになる前に、他にも膜を破ってワラワラと出てきた。

 本当に卵の様だ。正確には卵を保護する膜だがそんな事はどうでもいい。

 見た目はそれほど大きそうに見えなかったが、よくあんなに入っていたものだ。

 スキルの力というより、ぎちぎちに詰まっていたんだな。解放された感じがよく分かる。


 中に入っていたのは最初に出てきた蔵屋敷(くらやしき)の他は斯波裕乃(しばゆの)溝内信二(みぞうちしんじ)伏沼至(ふしぬまいたる)の3人。

 よくもあんなに狭い中に4人も詰まっていたものだ。

 なんて感心している間に、重量無視のスキルを持つ溝内(みぞうち)が、他3人を担いで飛び降りてきた。


「よく無事で――」


「な、何か食べ物を」


「すみません、水を……」


「あ、ああそうだったな。すまん」


 考えてみればいつからあそこにいたんだろう。

 それに状況も気になる。何であんなところに張り付いていたんだ?

 その答えは分かるが、それはあまりにも辛い現実だ。

 俺はしばらく待ってから、彼らかから事情を聞くことにした。


 そして10分ほど経ってからだろうか。


「とにかく状況を報告します」


 そう溝内(みぞうち)が切り出した。

 彼ら14期生は、千鳥(ちどり)に任せた田中玉子(たなかたまこ)以外は全員大学生。こういう時は、話が早くて助かる。


「さっきなのか少し前なのか、そろそろ引き返すと磯野(いその)教官が言ったんです」


 まだこっちに来ての時間間隔を掴めていないな。

 だけどそう言ったって事は往復を考えれば1ヵ月程度。だけどここはもう1月で帰れる距離じゃないぞ。


「それで戦利品を分担して持って、みんなで帰ろうって話になったんです。思ったよりも迷宮(ダンジョン)探索は面白くてもう少し先に行きたいって話もあったんですが、磯野(いその)教官に『そんな油断が一番危険なんだ』と(いまし)められました」


 さすがだな、磯野(いその)。きちんと分かっている。

 実に惜しい人間を亡くした……ってまだい亡くなってねーよ。

 というか、これが終わったらちゃんと日本に帰す約束なんだ。反故にされてはたまらん。


「そんな時なんです。いきなり平八(へいはち)さんが散開しろって叫んで。でも俺達には意味が分からなくて。す、すみません」


「謝るのは良い。それで何があったんだ?」


「とにかく体が動いたんです。大声で叫ばれて、考えるより早く」


 そう話を続けたのは、最初に卵みたいなのを作っていた蔵屋敷里香(くらやしきりか)だった。

 大学生だが、背は低く、目を完全に隠したおかっぱ頭。身体全体も薄い。何処かおどおどとした小動物感がある子だな。

 多分そんな性格が幸いして、考えるより先に反応できたんだろう。





今日もコウシーン!

ご意見ご感想やブクマに評価など、何でも頂けると走って喜びます。

餌を与えてください(*´▽`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 戦いの前に小動物を食べて回復せねば!
[良い点] 龍平、いや、平八!やるじゃないか!今回は同志として共に戦ってくれそう?先輩もいないようだし……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ