安直で悪かったな
その後も話は続いた。
風見たちにも話した様に、俺が再びこの世界に召喚されてからの事なんかもだ。
ただこうして話していると、分からない点も色々と出てくる。やっぱり一人で不毛に考えても益は無いな。
「タイムリミットはあるですか? いつ迄にそれを倒さないと地球に移動しちゃう的な」
「まるで考えた事も無かったな」
言われてみればそうである。
あいつはどのタイミングで地球に行ったんだ?
「以前のクロノス様はどのタイミングで帰ったです? その時はいたですよね?」
「イェルクリオが襲われた時にはまだいた。それは確実だと思う。だけど、そこから先は知らないんだよ。先代の俺に帰されてしまったからな」
なぜあのタイミングだったのかは色々考えたが、あの辺りが俺の限界であったのではないかと思っている。人によって差があるが、スキルは使えば使うほど精神が摩耗する。もちろんケアは出来るが、それにも際限はある。だがこれは憶測だ。
制御アイテムを持つ先代の俺以外にも、百年近く存在している奴が3人いたって話だしな。
別のパターンとして、龍平を帰したからという事も考えられる。
今まで出来なかった、召喚者の送還。それが出来るようになったから、危険な目に合う前に逃がしたという可能性だ。
もしくは、それ以前に奴の本体と戦う際に俺が消滅する程の危険があって、もうあの時点で龍平の事は関係なく帰す事は決まっていたか。
どちらにせよ、あの後の事を知らなければどんな推測もあまり意味がない。精々心構えをしておける程度か。
それを実際に見て対処するのが、俺の役割なんだろうな。
もっとも、俺は次の俺が召喚される前に本体を倒してしまうつもりだけどね。
「それだと全く分からないですね。先代のクロノスさんが追いつめて地球に逃げたのか、長い年月をかけてこの世界を滅ぼした後、新たな天地を求めて地球へ行ったのか」
「実際に地球からこちらに来ているのだから、こちらから地球に行く事はあり得るのよね」
ここでようやく風見が話し始めたか。
まあ、彼女が知っている情報は全部出たって事なんだろう。
「それを繋いでいるのは、召喚に使っているあの時計じゃないかと思っている」
「じゃあそれを壊せばいいんじゃないですか?」
「根拠もなく壊した後、違いましたじゃすまないだろ。新たな召喚も無しに、その後はどうやって奴の本体を探すんだ?」
「先代のクロノス様から、何か聞いていないです?」
「全くダメだ。その辺りの事は何一つ聞いていない」
風見は元々疑問に思っていただろうが、残る二人もいかにも訳が分からないと言った顔をした。
そりゃそうだろうな。普通だったら、代々の俺が情報を共有するのは当たり前だ。
仕方がない。ここはもう話すしかないか。
もう“何も聞かずについてこい”なんて言える状況じゃないからな。
「今までの話も絶対に極秘だが、これから話す事もまた絶対に秘密だ。俺はな、この社会から追放されたんだよ。スキルなしのハズレとしてな。そして何度も命を狙われた。本気で殺されそうになって、完全に消滅する寸前までいった事もある」
「今までの話と矛盾していませんか? ここまでの話を整理すると、今のクロノスさんが召喚された時、クロノスさんとして……あれ? ちょっと待ってくださいよ。こんがらがってきた」
「大事な事は、その頃のクロノス様が死んだら、地球が滅ぶって知っていたですよね、その先代のクロノス様も」
「間違いないだろうな。俺が召喚された時代の歴史も、かつてラーセットが滅亡しかけた時、クロノスが現れて襲い来る伝説級の怪物を撃退したって話だ。その辺りの歴史は、実際に俺が体験した内容でもある。そこからは行動が違っているのか、結構変わってきているけどな」
「少し疑問なんだけど、それだと先代のクロノスって人が今のクロノス様と同一人物とは限らないんじゃない? 代々別人が引き継いでいるって可能性は? それで何か確執があって殺そうとしていたとか?」
「多分無いな。俺を日本に帰す時、あいつは自分が俺自身だと匂わせていた。それと、この世界に来てクロノスと自然に俺が名乗った事も根拠の一つだな。多分、記憶を無くして日本に帰った後、やる事は大体変わらないんだろう。そしてこの世界に再び召喚される事も変わらない。そうなると、歴史が分岐する前の行動は大体同じだ。別人である可能性の方があり得ないな」
まあ確実な事は、龍平がいないから俺は今以上に苦労していただろうって事くらいか。
だけど間違いなく、俺は龍平の存在に関わりなく、あの時あそこに並んで限定版のゲームと時計を手に入れた。そしてまたここに戻ってくるわけだ。あの時計と共に……。
「そういえば、どうしてクロノスって名乗ったです?」
「名前を聞かれた時に記憶が無くてね。それで自然にひらめいたんだよ。多分だけど、無意識のうちに持っていた時計が関係していたんじゃないかな」
「そう言えば召喚の塔についているあの時計、あれなんなんです?」
「私も聞いたことが無かった。地球からの持ち込み品だとは思っていたけど」
「”永劫のクロノス”ってゲームを知っているか?」
「名前くらいなら」
「知らないです」
「確かクラスの男子が話していたと思うけど」
意外とマイナーでショック。
まあ俺も先輩に教えてもらうまで知らなかったけどな。
「あの時代でも結構人気のゲームで、大会なんかも開かれていたんだぞ。というか、お前たちはリアルタイム世代だろ」
「あー、あの神経接続の対戦ゲーム」
「まだ出たばかりのハードだったからか、親に禁止されていたです」
「そうそれ。あの時計は、君たちが召喚されてから10数年後にリメイクされた時の限定版に付いていたやつだよ」
「それでクロノス……安直すぎる」
「良いだろ。そんな訳で、あそこに召喚されて、記憶の無い状態で咄嗟にクロノスと名乗る人間なんて他にいないんだよ」
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