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彼らはどんな結論を出すのか

「話を続けさせてもらうよ。俺はラーセットでの記憶の全てを無くし、親しい人たちの死という現実に打ちひしがれた。そしてその謎を解明したくて医者になったんだ」


「頭が良かったんですね」


「ただ必死にやっただけだよ。その後は何年も研究を続けた。けれど、原因は全く分からなかったよ。世界中のサンプルを取り寄せたが結果は同じ。情けない話だが、原因がこっちの世界に在ったんじゃわかるはずも無いよな」


「ちょっと待ってください。世界中ってのはどういうことですか? 今のところ、日本人だけですよね?」


「その事なんだが、全員自分が召喚された日を覚えているか?」


「 2032年の5月28日ですな。29日に友人と約束があったのでよく覚えています」


「俺も同じだ。そして29日に目覚め、ニュースを見たら世界同時大量死のニュースが飛び込んできた。日本だけで1千万人以上。世界中を合わせれば1億人を超えていた」


「そんなに召喚したんですか?」


「無理とは言わないが、可能性は極端に低い。今のペースで考えても、1千万人召喚する

 には数十万年掛かるだろう。ましてや1億人も召喚するなんてとても無理だ」


「でもこちらの時間は動いていても、向こうの時間は止まっているのですよね? とても長い時間をかければ不可能ではないのかと思いますです」


「確かに気の遠くなるように長い歳月だな。さすがにそこまで行くと、文明が何処まで進歩しているか想像もつかない。その時点で召喚者にどのくらいの価値があるのかは少し疑問だな。いやまあ、大切なのはそこじゃないんだ」


「というと?」


 思い出すのも辛い事だが、ここは避けては通れない。

 大丈夫。奈々(なな)や先輩の死を思い出しても、何とか平静を保てたんだ。頑張れ俺。


「俺が帰還してから10数年程が経った時、怪物(モンスター)が現れた。以前にラーセットを襲った奴だ。聞いているかもしれないが、次々と他の生物を同類に変えて数を増やす。こちらの世界では何らかの抑止力があったのだろうが、地球の環境は奴にとっては楽園だったらしい。瞬く間に世界中の動物が奴等に浸食された。当然、人間もな」


「……それじゃあ」


「世界が滅ぶまでほんの数か月だったな。倒しても倒しても増える方が早くて、もうどうしようもなかった。1月と経たずして社会基盤は壊滅し、後はもうズルズルと滅びの道をたどったよ。最期の頃はもう、ラジオすら流れてはいなかったな。後はもう人類は終わったなと思いながらも研究を続けていたけど、なぜか再びこの世界に召喚された。しかも過去の世界(ラーセット)にね」


「改めて確認しますです。この世界で死んだら、本当に死ぬですね?」


「そうだ」


「でも帰る手段はあるですね?」


「そうだ」


「そうやってたとえ帰っても、結局人類は滅びるですね?」


「そうだ」


 風見(かざみ)はもう知っている話だが、やはりこの話を聞くときは沈痛な面持ちだ。

 そして一方で、始めて聞いた二人は混乱中という感じだな。まあ情報を整理するまで待ちか。

 俺は二人が話し始めるまで、久しぶりにひたちさん特性のコーヒーっぽいものを淹れて3人の前に置いた。


「つまりは詰んでるって事じゃないですか!」


 その体格に似合わない震えた声で磯野(いその)が力無く叫ぶ。

 千鳥(ちどり)の方はまだ思考中ってところか。だがまあ待たなくてもいいだろう。


「そんな訳で磯野(いその)、さっきのなぜ召喚を続けたかの質問に答えよう。それは地球を救うためだ。ラーセットを襲い、地球を滅ぼした奴は、今もまだこの世界の何処かにいる。そしてこれは社会に混乱を与えるだけなので極秘だが、以前に俺が召喚された時、奴は南のイェルクリオに現れた。だから今もこの近辺に潜んでいると思う。近辺と言っても、数百キロ以内だけどな。しかもこの世界は無限ともう言える地下迷宮がある。とても少人数で探せる作業じゃないんだ」


「今更ですが、それを皆に話す事は出来ないですか? その上で賛同してくれた人だけ残って貰えば良いと思いますです」


「俺もそうしたいんだけどな。だけど知っているだろ、召喚するのに生贄が必要な事は。召喚する為にはこの世界の命が大勢失われるわけだ。しかも彼らには話していないし知られてもまずいが、この召喚はラーセットの為だけじゃない。どちらかといえば俺達の世界(地球)を救う意味が大きい。だけどそれを全部話したとして、まあこんな不毛で大変、しかも帰ったら忘れてしまう上に死ぬ危険は満載だ。誰がやってくれるだろうな」


「あまりいないでしょうね。多分俺も(みや)も、帰ったと思います」


「でも、それだと地球で死ぬですよ。それに犠牲を出しながら召喚しているラーセットの人も良い気分ではないですね」


「どうせ死ぬなら故郷で死ぬさ。どうせここで何かしたって帰ったら忘れるんだろ? ならやる気のある奴に任せる。俺たちのために頑張って死ねばいい。そう思ったと思いますわ」


「今は違うのか?」


「俺を先輩として慕ってくれる奴らがいます。あいつらがこの世界にいる限り、俺は帰れません」


「そうか……」


 しがらみがあるから帰れない。

 だけど召喚された直後なら協力はしない。

 まあ普通はそうだよな。

 でもそこで終わらせられるほど、簡単な作業でもなければ時間も無いんだ。





何とか無事更新。セーフです。

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