改めてこれからを考えよう
執務室で待っていてくれた3人に、俺は深々と頭を下げて謝罪した。
そして認識疎外を解いて、執務用の机ではなく彼らの対面に座る。
いきなり謝られても訳が分からなかっただろうが、俺が認識疎外を外した事で、何かを言おうとしていた口が閉じる。
状況の重さを瞬時に理解したのだろう。さすがはここまで皆を導いてくれたベテランだ。
「改めて自己紹介をしよう。俺の名はクロノス。本名は成瀬敬一。君たちと同じ日本人だ」
風見は知っているので落ち着いているが、他両名はまるで知らない事だ。いったい何を話すのかと興味津々だな。微かな音さえ立てずに、こちらの一挙手一投足に集中している。
まあ当然だろう。
「最初に謝罪したのは、君たちを騙していた事。それに、教官組の仕事を押し付けてしまった事だ。その負担をしっかりと考えていなかった。改めて済まなかったと思う」
「わたしは教官組の仕事は苦ではなかったです。だからその事は謝らなくてもいいです」
「俺はまあそれなりに不満はあった……と思う。だけどやっぱりそれなりに好きな仕事だったよ。だから、そんなに不満はない。改善してくれるというのなら意見はあるが、それより騙していた事ってのはなんだ? 今まで姿をしっかり見せないようにしていたのと関係があるのか?」
「ああ、大いにあるな。というか、最初からあの姿だった事にそれなりに不信感はあっただろう?」
「まあ……えっと」
「構わんぞ」
「初めて見た時点で、こいつは信じられないなとは思っていたです」
改めて千鳥ゆうに言われると多少はショック。
今までは、基本的に召喚者の実質的な指導者は風見絵里奈と児玉里莉が担当。
そして宿舎の手配や現地でのルール説明、備品の手配や街の案内といった生活に関する事はケーシュとロフレ、それに職員たちに一任していた。
俺は完全に雲の上の存在で、召喚者のリーダーとしてクロノスって人が召喚庁の長官として働いていると教える程度だった。
まあ同じ召喚者だという事や、以前ラーセットを襲った伝説級の怪物を撃退した事。北のマージサウルが召喚者の抹殺と技術の消去を目論んで戦争を始めた事。更にはそれを撃退した事も伝えてある。
それらの理由から、警戒のために普段は表舞台に出ない事になっていたわけだ。
そして教官組として指導者の立場になれると風見と児玉が判断した時、初めて俺と対面する。もっとも、認識疎外をした幽霊のような姿だけどな。
だから今のシステムに変えてから俺に出会った召喚者は、風見ら二人を除けば宮神明と、ここにいる磯野輝澄と千鳥ゆうだけだ。
それももう3人となってしまった。
「信じられないと思ったのに働いてくれたのか? 裏切った連中にもつかずに?」
「信じたのはクロノス様って人じゃなく、風見さんと児玉さんです。裏切りに関しては、話も聞いていませんです」
「俺も似たようなものです。いやクロノスさんを信じなかったわけではないですよ。でも信じていたかと言われると困ります。まあこんな人もいるな程度で、自分にはあまり関係ない人だと思っていましたので」
まあそんなもんだよねー。むしろそう考えるようにしてきたんだ。
その工作のために、風見や児玉にどれ程の負担をかけてきたかも考えずにな。
だけど今話すべき事はそっちが先じゃない。
「これから騙していた事とその理由を話そう。先ず俺の素性からだが――」
おれはかつてこの世界に召喚された事。そして追放されたが、先代の俺によって現在の日本に戻された事。それに――、
「俺と一緒に召喚された人間は、全員死んでいた」
「いやちょっと待ってくれよ。どういう話なんだ、それは」
「でもクロノス様は帰ったんですよね?」
「ああ。その辺りの事は話すと長くなるが、俺はちゃんと帰す事が出来る。さっき全員といったが、少し訂正しよう。俺が帰した人間はしっかりと生きていたよ。だけど、様々な理由で命を落とした人は、本当に死んでしまっていたんだ」
「いや待ってくれ。じゃあ俺たちと一緒に迷宮に潜って死んだ連中は帰ったんじゃないのか?」
「すまないな。彼らは本当に死んだ」
「ふざけるな! アンタそれでも人間か! それを知っていながら、よく召喚なんて真似が出来たな!」
「話は最後まで聞きなさい」
今にも掴みかかりそうな磯野輝澄を、静かな言葉で風見が制す。
特に強さを感じない静かな言葉だが、暴れ出しそうだった熊の様な男が、まるでチワワのように大人しくなる。
あれ? 風見さんって結構怖がられている?
今日も無事更新できました。
ここらはしばらくこれまでの纏め的なお話になります。総集編…という訳ではないですが。
ご意見ご感想やブクマに評価など、何でも頂けると凄く励みになります。
餌を与えてください(*´▽`*)






