素直に帰ってはくれないものだろうか
地上船は落ちたが、召喚者がそんな事で死ぬわけがない。
当然、多少の怪我を負っただけで、もう臨戦態勢に入っている。
というか、傷なんてすぐに回復出来るしな。
さて、行くか。
下まで降りると、恐ろしい程の殺気を感じる。当然だろうな。
「やはり追って来たか、クロノス!」
「宮さんや児玉さんはどうしたの!?」
「言うまでも無かろう。全員帰った。もうこの世界にはいないさ」
向こうも俺が来た時点で分かっていたのだろう。動揺はない。
罵倒は続いているけどね。
「児玉さんとは長く共に過ごしたんでしょう! 何でそんなひどいことが出来るの!」
「この悪魔が!」
「こんな奴を信じて迷宮で働いていた自分が情けない」
もう言いたい放題だな。
でも彼らも状況は分かっている。宮たちが倒されて追いつかれた以上、もう自分たちに未来など残ってはいない――そう考えているんだ。
彼らをこんな状況に追い詰めてしまったのも、裏切ったのも、それを見抜けなかったのも俺の怠慢だ。教官組が裏切っていたから分からなかったですなんてのは言い訳にもならない。
「橋本浩二、沼古伊佐美、大窪石綺梨。それと前田咲、早瀬流星、黒神戸せお。少し話をしないか? 俺がこの世界に来てからこれまでにあった色々な話だ」
「ふざけるな! お前だけは倒す! 宮さんたちの仇だ!」
そう言って両手剣を構えて襲い掛かってきたのは橋本浩二だった。
児玉をたぶらかした……じゃなかったな。なんとなく、安らぎを求めて選んだ男。
俺はこいつから児玉を寝取ったつもりだったが、実際にはそこまでの関係でもなかったんだよな。
ちなみにスキルは温度検知。触れなくても、物体の温度を測ることが出来る能力だ。料理には便利だろうが――、
振り下ろしてきた両手剣を掴み、そのまま引き寄せて膝蹴りを脇腹に見舞う。
派手に骨が砕ける音共に、橋本は女たちの元へと吹き飛んだ。
普通だったら手術が必要な大怪我だが、彼女たちが慌てて駆け寄り薬を使う。医者――というより研究がメインだったが、あれは本当に便利だな。
砕いた骨はもう元通り。普通に立って、俺を睨みつけている。
「今更話なんて、何のつもりよ」
そう言ったのは前田咲。7人チーム丸ごと裏切ったメンバーのリーダーだ。
とはいえ、既に生き残っているのは早瀬流星、黒神戸せおの二人を含めて三人だけだがな。
ちなみに彼女は8期生にして高校三年生。
毎度の事ながら、召喚された時の年齢なんてあまり関係ないけど。
見た目は艶やかやな長髪にキリっとした目の美人。背も高く、プロポーションも抜群だ。
ただ幾つもの三角を繋ぎ合わせたような奇妙な服がそれを全部台無しにしている。
ただ所々の隙間から艶めかしい白い肌がチラチラと見えるのは良い点か。
「俺にも色々と思う所があってね。君たちには色々と不安を与えてしまった。今回の一件は、俺にも責任があると思っている」
「何を今更」
「ああ、確かに今更だ。だけどまだ少しだけは間に合うと思う」
「少し? 間に合う? 何の話?」
「希望するのなら、君たちを日本に帰す。こんな事になった以上、もうラーセットには戻れないし、戻る気もないだろう」
「帰すと言われて信じると思うのか! 大体、お前は俺たちの目の前で大勢殺した。殺すと宣言してな!」
あ、橋本がもう元気になった。
というか第6期の中心核ではあったからな。今この6人の中心人物は間違いなくこいつだ。みっともなく吹っ飛んだけどな。
まあとりあえず、こいつを何とかしなければ話にもならないとは思うが……無理だな。
けれど、無理だなんて言っても仕方がない。
それに、もう事前に彼らには言ってあるんだ。
「君たちが召喚された時に伝えてあるな。普通に死んだ場合は何も得られずに日本へと帰る。十分に働いてくれたら、その功に報いるために特別な儀式をして、力の一部を残して日本へと帰す。だが召喚者でも現地人でも、誰かを殺してアイテムを奪った場合、クロノスの名において処断するとな」
これは俺だけじゃない。第5期の同士討ち事件の後、風見絵里奈や児玉里莉と相談して決めたルールだ。
児玉がその事を話していない以上、これはまだ有効だろう。
それに全部が全部嘘という訳でもないしね。
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