必ず日本に帰してやる
「目が覚めた?」
ここは――どこだ?
暗いが、暗いが、スキルの影響で周囲の様子は分かる。同時に制御アイテムが無い事も。
まあこれはあまりよろしくないが、俺は慣れっこだ。元々無しだったしね。幸い今は隣に全裸の児玉がいる。というか……もうすっぽんぽんですか!?
万歳神様ありがとう。そもそも、もう殺されていてもおかしくなかったよ。
ここはどうやら俺が崩した兵舎の一つ。倒壊した家屋って感じだが、比較的潰れ方が緩い。
まあ這って入れる程度の隙間ではあるが、中はもうちょっとだけ広い。
さすがに二人重なるとキツキツだが。
「こんな所に運べるなら、なぜ殺さなかったんだ?」
「約束だったからね。勝ったのはクロノス様だよ」
潔いというかなんというか。俺のスキルを使えば帰れるとは説明したが、本当に帰ることが出来るなんて保証は無いんだぞ。
だけどそんな事は関係ないんだろうな。これが児玉のポリシーというか、プライドというものなんだろう。
「そこまで潔いなら、どうして裏切ったりなんてしたんだよ」
「これから抱こうっていうのに、そんな事を聞くの?」
「これから抱くから聞いておきたいんだ」
一応戦闘中にそれとなく聞いてはいたが、ハッキリ”こうだ”と言われたわけではない。
俺の思い込みの比率も大きいからな、ここできっちり知っておきたいのだよ。
「そうだね……ハッキリ言っちゃうと、暇だったからかな」
それは全く予想すらしていなかったぞ。
つか暇つぶしか!?
「もうこの世界に来て、随分長い事経ったでしょ」
「ああ、児玉は特に最古参だからな。今まで本当に長い間、皆の面倒を見てくれた。感謝しているよ」
「そこだよ、問題は」
意味が分からない。かなり大切にしてきたはずなんだが。
「何だかんだでね、迷宮探索は楽しいんだよ。そりゃ最初は怖かったし、今も緊張するよ。常に死と隣り合わせだし、その意味も知っているしね。でも何度潜っても、いつも新鮮な驚きがある。知らない事で満ちている。今では、怖さなんかよりもそっちの方がずっと大きいの」
そうだったのか……本当に、もっと話をするべきだった。というか、もっと早く話して欲しかったな。
「だけど教官組って役割になって、新人の教育をして、問題があった時のために地上勤務も増えて……本当に退屈。毎日、気の合う仲間と一緒に迷宮探索に行きたいって思っていたわ」
「だけど、それを禁じていたのは俺か」
「新人たちの命がかかっている事は知っていたからね。仕方ないって理解してるよ。でもやっぱり、テレビもないしゲームも無い。娯楽なんて何にもない世界で暇を持て余すのは辛いのよ」
「それで男に走ったのか?」
「橋本君は良い男だったよ。さすがに普段から二人相手にしているだけあって、気配りも出来るし上手だった。でもそれだけだったな……」
「なら行かなくても良かったじゃないか。風見が悲しんでいたぞ」
「怒っていたの間違いでしょ」
はい、その通りです。さすがに良くご存じで。
「絵里奈と一緒に、何年も暇だってぼやいている事にも飽きたかな。何というか、刺激が欲しかったのよ。正直言えば、橋本君は行きずりの男ってところかな。そこまで義理立てする気はなかったよ。でも――」
「でも?」
「クロノス様と本気で戦えるって思ったら、その興味が勝っちゃった」
さすがにいつでも相手してやるとは言えないな。児玉が求めているのは、そんなおままごとのような模擬戦じゃない。
しかしその為だけにあれほどの準備をしたのか。あと1年成長の時間を与えていたら、100パーセント俺の負けだな。
そういえば、木谷と戦った時もそんな空気を滲ませていた。
どんよりとした――人生に価値を見出していない人間というか……そうだ、世界が亡びる時に、もう何もする気力もなくただ生きていただけの連中的な感じだ。
だけど俺と戦っている時は生き生きとした感じだった。
賭けと言っていたが、そうか――あれが木谷にとって、この世界で生きるための心の糧だったのか。
今更ながらに考えさせられたな。
「それで、するの?」
それに応えは必要ない。俺は行動で示した。
※ ◇ ※
「それで、いつ帰してくれるの?」
「まだ心に抵抗があるな。体は受け入れてくれたのに」
「いやらしいことを言わないで。そりゃね、1度や2度したからって、心まで完全に許すほど甘くは無いよねぇ」
強情な奴だ。
俺は児玉と肌を重ねた後、彼女を日本に帰そうとした。
いやマジでしたんだけどね、いかんせん召喚者にこういったスキルはなかなか効かない。
既に送り返した実績があるとはいえ、児玉は百戦錬磨の強者だ。身をゆだねたつもりでも、常に心の何処かで警戒している。迷宮で身についた生きる術だな。
「仕方がない。気を失うまでやろう」
「……マジで?」
「お前が強情なんだから仕方がない」
「そんなつもりはないんだけどねー」
「まあ安心しろ。俺のタフネスは無尽蔵だからな」
「あたしもその点に関しては自信があるんだ。先に涸れ果てないでよ」
「ぬかせ」
そんな訳で、心身共に限界に達して失神した児玉を日本へと帰したのは、それから2日後の事だった。
タフすぎるだろ! マジで限界だわ。
まだまだ続きます。お付き合いいただければ幸いです。
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