ここまで強いとはね
俺を捕まえていた荒木ごと、中条を貫いていた槍が俺に突き刺さった。
あの時背後から刺したから、今は中条とは槍でつながって向かい合っている状態だ。
しかも背後には荒木。荒い呼吸を感じる。まだ生きているのか。
というかこの状況はあまりにも気持ち悪い。
最大の危険であった児玉に気を取られすぎた。
「これ……で……終わり……だあああああ!」
つかお前何で生きてるんだよ! 何かのアイテムか? というか、そこまで死にかけならもう素直に逝けよ!
そう思うが槍が抜けない。体も外せない。そして体全身に、とてつもない激痛が走る。
これは――中条のスキルだ。
体の一部を肥大化させ破裂させるスキル。まとも食らったら、幾ら俺でも命はない。
腫れた部分を外す。全体はダメでも、この位なら出来る。
だが止まらない。こいつ、スキルを使い続けてやがる!
外しても、すぐさま新しい体が腫れる。そして外し、また腫れる。
外した肉塊はボシュボシュと始め飛び、血と肉を撒き散らす。
だけど――、
「死ね……死ねよぉ……」
「おおおおおおおおお!」
後ろの荒木も叫ぶがお前は関係ないだろ! って思うが、俺をしっかりと掴んでいるから無関係でもない。
というか、こいつが掴んでいなかったらさっさと槍を外して離脱できるんだ。
男二人のサンドイッチとか冗談じゃない。しかも串付きだ。
なんて余裕を見せてもいられない。
制御アイテムにヒビが入る。多少の無茶は十分考えてあった。だけどこれは完全に油断か。
彼らも立派な召喚者。相手は児玉だけじゃなかったってわけだ。
だが残念だろうが、俺の方に傷の影響はない。正しくはあるんだが、スキルで外してある。
しかもこいつらさえ離れれば、まっさらの新品と交換だ。
中条の動きももうなくなってきた。こちらも限界だが、我慢比べは俺の勝ちだったな。
そんな俺の――俺たちの周囲を、迷宮産の武器がふわりと浮かび取り囲む。
「なあ児玉、冗談だろ? こいつらはまだ生きているぞ」
「だからこそ今やるんでしょ。その位の覚悟が出来ていないと思った?」
「全く思わないね」
「そういう事」
ああ、これは大マジな目だ。
俺は覚悟を決めて、全身に剣や槍、ナイフに短剣、矢に至るまで、様々な武器が全身を貫く感覚を味わった。
「これで……終わりなのかぁ……」
後に残ったのは、全身を武器で貫かれた3人の死体。
正直そっちの趣味は無いぞっと。
「そんな事あるわけないだろ」
よいしょと……と言いそうになったが、馬鹿にされそうなので無言で脱皮する。
正直言えば、もうダメだと思った。というかダメだった。
男に挟まれるという最悪の形で、俺の人生は幕を閉じていただろう。
「……信じられない。あれで死なないんじゃ、本当に絶対に死なないんじゃないの?」
その俺をこの世に引き留めたのはお前なんだけどな――とは言えない。
だけど、児玉の存在が俺を死なせなかった。実に皮肉な事だな。
ちなみにHさせてくれるって言っていたから引き戻されたわけじゃないぞ、念のため。俺にだって節操はあるからな。
単純に、今までの付き合いや風見絵里奈の事が俺の中に棘として刺さっている。その心の痛みが、今彼女の前で消える事を許さなかったんだよ。
本人も前ではとても言えないけどな。
それに、こいつ自身の口から真相を語らせなければ死んでも死にきれない。
「死ぬ事だってあるさ。ただまだ死ねないってだけの話だよ」
「そっか、さすがだね。それでこそ召喚者のリーダーだよ」
地面に散らばっていた武器が再び浮遊を開始する。
刺さったのは全体からすれば極一部。マジでこの戦場は児玉の為にあるようなものだな。
……って違うよ、忘れたのか俺。さっき地面から槍が飛び出してきただろう。
ここは児玉の為にあるような戦場ではなく、最初から児玉が俺と戦うために誂えた戦場って訳だ。
「まだまだいけるね!」
無数の武器が再度迫り来るが、飛んできた数本をさっきまで俺に刺さっていた剣で砕く。
こちらの武器も壊れてしまったが、まだまだ落ちている。そうだな……やはり武器を殴るのはこういった方が良いか。
少し距離を外し、落ちていた手斧を拾う。
「一度に飛ばせる数が少なくなっているな。そろそろ限界か?」
「やっぱり見破られているね。随分と余裕そうだったから、そんな気はしていたんだけど。本当に感心する」
いやいや、こっちももう限界間近。勝てるかどうかは五分五分だし、とても今の状態で逃げた連中を追う事なんて出来やしない。
何だかんだで、既に児玉の策は果たされているわけか。
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