予想以上に強い
スキル関係のアナウンス、この頃は感覚的なものだったのか。
あれを言語にして、分かりやすく説明する手段が欲しいな……そんな事を考えながら、俺は宮神明の首を容赦なく圧し折っていた。同時に何かがチクリと胸を刺す。
外してあるんだから、イチイチ湧いて来るなよ罪悪感。これからまだまだ沢山控えているんだぞ。
ポイと、宮の遺体を捨てる。
高潔かつ実直。だがそれを他人に強要した事は一度も無かった。
周囲に流されず、他者を尊重し、それでも信念を貫ける奴だった。
真面目過ぎて面白くないし堅苦しいとは皆の意見だったが、俺はお前の事が好きだったよ。そういう不自由な生き方を選ぶ奴は、嫌いじゃなかったんだ。
「お前の成長が見られなくて、本当に残念だ」
「貴様が言って良いセリフか!」
叫びながら中条仁が飛び込んでくる。確かに危険だが、触れなければ――と思った俺の背後から、荒木幸次郎が掴む。
しまったな。目を離したつもりはなかったが、やはり実力者は最初からそれなりに強いって所か。
だけどな、荒木――、
掴んだ両腕の手首を逆に掴み、粉砕する。
声にもならない悲鳴を上げて離れると同時に、中条の足元の地面を外す。
突然湧いて出た落とし穴に驚愕するが、もう手遅れだ。こいつは空中制御なんて器用な真似は出来ないからな。
だがその瞬間、中条目がけて槍が横向きに迫ってきていた。
なるほど、これなら押せるな。さすがは児玉、実戦慣れしている。
だけど見られたら終わりだよ。
中条までの僅かな距離を外し、槍を掴む。
同時に押してもらえなかった中条は、空中で姿勢を変える事も出来ずに落とし穴に腰まで嵌っていた。
「残念だったな」
そのまま背後から心臓を槍で貫くと、中条はそのまま動かなくなった。
「本当に、俺に勝てると思ったのか?」
「うーん、ここまでやるとは思っていなかったかな」
児玉里莉は少し驚いた様子だが、同時にどこか納得している感じがする。
やはり心の中では分かっていたんだろうか。
「やっぱり召喚者としても先輩だしね。それに経歴も聞いてる。なにより人を殺す事に躊躇が無いんだね。こりゃ勝てないよ」
「お前も全く容赦なかったがな」
「それでこれだとね、ちょっと凹む」
そう言いながらも、周囲に散った迷宮産の武器の数々がふわりと浮かぶ。
参ったね、これは切りがない。
まあ武器自体はすべて把握できているだけ、以前戦ったフランソワって教官よりはマシか。
あれは物品召喚で飛ばしてくるだけに、まるで予想がつかなかった。
とはいえ上下に右左、間断なく襲ってくるこれは想像以上にマズい。全てを避けきるのは無理か!?
なんて考えた時には、左手に曲剣が突き刺さる。痛みは外しているが精神的に痛え。
しかも抜こうとした途端、バランスを崩して地面に倒れ込む。左足が長剣で切断されていたんだ。
その倒れた背中に、情け容赦なく雨あられと剣が突き刺さる。
ああ、これは普通だったら死んでいるな。けれど当然ながら、あれは外した偽の体だ。
本物は距離を外して児玉の元まで移動していた。
ほんの瞬く間に、彼女と目が合った。何処か寂しく、覚悟を決め、申し訳ないって目をしている。
これが惚れた弱みってやつかよ! くそう!
「残念」
彼女に触れるか触れないかというその刹那、地面から無数の手槍が飛び出してくる。
マジかよ!? 事前に埋めてあったのか! しかもこの位置に。
被弾して体を変える手もあるが、もうここまでに使ったスキルが予想以上だ。
無理せず後ろに距離を取った俺を、再び荒木が背後から掴む。
ふう……またかよ。
さっきの傷は薬で治しているが、実力差はもう今更だ。また同じことをすれば――、
そんな甘く見ていた俺を戒めるように、目の前にさっき見た槍が超高速で迫ってきていた。
しかも中条仁を付けたまま。
完全に油断した。児玉にとっては誰が刺さっていようが武器は武器か。
距離を――と思うが動けない。まずった。俺は誰かと一緒に距離を飛ぶことは出来ないんだよ。
そして無情にも槍は突き刺さる。荒木も同時に貫いて。
……ってオイ、幾らなんでも容赦なさ過ぎるんじゃないのか?
なんて思った俺の前には、不気味な笑顔が広がっていた。
まだまだ戦いは続きます。
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