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普通の人間なんて戦力にもならない

「リカーンの兵士たちよ、協力してくれ! ちゃんと武器は提供しただろう」


 あー、武器の横流しとかしていたのか。これは結構前から裏切っていたんだろうなー。

 連中が今更になって和平だの言いだしたのも、こいつらが寝返ったからか。

 大方、最初から俺を狙っていたんだろう。ユンスたちの遺体をわざわざラーセットまで運んだのは、明らかな挑発だったからな。


 それが分かった上で来たのは、当然勝てる自信があったからだ。

 召喚者は確かに強いが、かつてと違って俺はトップ。彼らのスキルは全部知っている。

 ましてや――、


 バタバタと倒れるリカーン兵を見て、(みや)たちの顔色がみるみる悪くなる。

 悪いが、もう俺に普通の人間など何の対抗策にもならない。

 ただ命を外す。再びラーセットに召喚された時に怪物(モンスター)にやったのと同じ事だ。

 マージサウルでも同じことをしたから、リカーン兵も近づいて来なかったのだろう。

 なにせ敵味方を気にしないのなら、10キロメートルくらいは俺の攻撃範囲内だ。

 無関係な人間を巻き込みたくない時は流石にやらないが、ここなら全く問題はない。

 当然召喚者も巻き込んでいるが、さすがに彼らには効かんな。


 連中に援軍を求めてからおよそ1秒。まさかそれだけで終わるとは思っていなかっただろう。もう(みや)の顔色は真っ青だ。


「期待が外れたか?」


「ま、まだ負けたわけでは無い! それに例え我々が無惨に殺されたとしても、その事実は残る。必ず後に続く元が出てくる!」


「そうよ、あたしたちは貴方達の奴隷じゃない! 勝手に召喚されて使い潰されるなんてごめんよ!」


 ああ、あんな事言ってますよ昔の俺。耳が痛くて死にたくなるだろう。

 だけど1つ違うんだよな。そう、決定的な違いだ。

 今では本当に元の世界に帰してあげる事が出来る。まあ条件付きなんだけどな。


「確かに意思を無視して召喚した事はすまないと思っているよ。その点に関して、君たちには申し訳ないと思っている。だが帰る事は可能だ。死ねば元の世界に戻れるし、働きに応じてスキルの力の一部を残した特別な送還の儀式も行っている。何が不満なんだ?」


 もう昔とは違うんだと一瞬言いそうになってしまった。


「その帰れるっていうのが信じられないんだよ!」


 そこまで疑われてしまうと、どうにも答えようがない。

 なにせ、俺の話は半分嘘だ。死んでしまったらそれまで。帰る事なんて出来ない。

 そしてその事は、今更だが児玉里莉(こだまさとり)は知っている。

 だけど他の連中がそれを知っている様子は無い。彼女は彼らに付きながらも、話してはいない訳だ。

 それが彼女なりの義理なのだろう。


 本当は全て話して楽になりたい。真実を知ってもらって協力して欲しい。もう何度も考えている事だ。その度に、かつての言葉が頭に響く。

 ダメな事はもう分かっているんだよ。今までの俺は1回や2回で諦めたりはしない。だけど先代の(クロノス)が、“まず最初に全てを伝えて協力を仰ぐ――失敗”と話を切り出したんだ。

 今も悩んでいるくらいだ。この結論が出るまでに、どれ程の失敗を繰り返したのだろう。

 それだけに、その流れを尊重して認めるしかない。


「信じるとか信じないは、君たちの自由だよ。どう思ってくれても構わない。だが忘れたのか? 最初に召喚した時に説明してあるよな。この世界は俺たちと別の世界。この世界に生きる人々は、俺たちと同じ様に意思を持ち、日々を一生懸命に生きる人々だ。決してゲームのNPCなんかじゃない。お前たちが殺したユンスも、兵士たちも、それぞれに生活があり、家族がいる。お前たちは人殺しなんだよ」


 言えば言うほど、言葉の痛みが自分に返ってくる。俺は何人殺したんだろうな。それこそ数えきれないくらいだ。

 理由はあった。話し合いの余地なんて無かった。今でも仕方ないと思っている。

 でも事実は消えない。

 案外、俺がラーセットよりなのはそれが一番大きいのかもな。


「さて、もう立場は分かっているだろう。引き返せない事もな。大体、召喚をした事もない国を信じてそちらにつくとか、馬鹿すぎて呆れるしかない。しかもそこは、召喚者を毛嫌いして戦争まで起こした国だ。よく信じる気になったな」


 まあ今考えてみれば、マージサウルが開戦に踏み切った最大の理由は、今の社会状況を予測していたからなのだろうけど。

 だが今の言葉は彼らを少しだけだが動揺させたようだ。

 本当にわずかではあるがね。

 ただ――、


「ここは俺たちが引き受ける。お前たちは予定の場所へ!」


 新しい武器を手にした(みや)らが周りを取り囲む。全部で4人か。

 裏切った全員が戦闘に適したスキルって訳ではない。万が一の事も、一応考えてあったのだろう。

 だけど、北へ逃げたってどうしようもない。

 彼らを研究したって召喚出来るようになるわけじゃない。ましてや帰還など不可能だ。

 結局はラーセットと同じ事をさせられて、最後は解体されて標本が関の山だろう。

 その前に俺が見つけて始末するだろうけどな。ただ本気で逃げられると結構厄介だ。

 すぐに追跡したいが、それよりも残った4人が問題か。





いつもお読みいただきありがとうございます。

ご意見ご感想やブクマに評価など、とても助かっています。

今後ともよろしくお願いいたします(*´▽`*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 離反者は、クロノスの言うことを100パーセント嘘だと信じている。 だけど真実は50パーセントの真実が含まれている。 児玉里莉がなにも言わないのは、義理を守っているのかもしれないが、事態の悪…
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