さて覚悟を見せてもらおうか
磯野輝澄も千鳥ゆうもこの件にはかかわっていないし、話すら聞いていない。それは間違いないだろう。
迂闊に話したりすれば、何処から情報が漏れるか分からないからな。
逆に考えれば、連中は彼らを絶対に仲間にはならないと見たわけだ。ある意味、これは彼らにとっても屈辱だろう。
そうなると、今ラーセットや迷宮に居る他メンバーの多くも無関係な気がする。
それだけに、連絡の取れない連中の安否が気になる。スキルを使えば分からなくもないが、時間がかかりすぎる。
心配ではあるが、いずれ分かる事なのだから今は後回しにするしかないな。
それより――、
「向こうはこちらの軍事部門のトップであるユンスを殺している。国家の指導者の一人だ。君たちも、もし自国の総理大臣をよそ者が殺害なんかしたらどうなるか、考えればわかるだろう。ましてや敵対国家に協力しての騙し討ち。ハッキリと目に見える形で制裁を加えなければ、今後ラーセット人は召喚者を敵視し続ける事になるぞ」
「それは分かっているんです。でも――」
「でもなんだ?」
「その……」
「ハッキリ言おう。君たちの意思を無視してこの世界に召喚したのは俺だ。恨みがあるのなら俺にぶつけるのが筋だ。それに、ラーセットの人々が今まで君たちに危害を加えたか? かなり気を使ってくれたはずだ。それに対して、彼らのした事は弁明のしようもない。だから召喚庁の責任者として俺が行く。他は全員待機だ。召喚者同士を戦い合わせたくは無いからな。ついでに、一応は理由くらいは聞いておくよ。余裕があればだけどな」
もう、誰も何も言わなかった。
それが合図となり、会議は終了した。
彼らを帰す。その意味を、風見絵里奈は知っている。だけど何も言わなかった。向こうには児玉里莉もいるのにな。
ここで児玉の助命と引き換えにそれをばらすと脅されたら、俺は従うしかなかったかもしれない。
だけど沈黙している。怒っているからか?
だが違うな。ここまで共に付き合ってきた親友として、彼女の意思を尊重したのだろう。
そして全てが終わったら、彼女は帰る事を選択するのだろうな。或いは共に逝くか……。
辛いが、もうこれ以上は考えても仕方がない。
始まった以上はやるしかない。残る召喚者たちにも動揺が走るだろうが、連中に追随する奴が出る前に片を付けないといけないからな。
「一応、現在連絡がつく召喚者にはロンダピアザの警戒をさせておいてくれ。以前にも他国の特殊部隊が入り込んで、大勢の人間を殺戮した。今回も俺がいない隙にやるかもしれない」
……それどころか、召喚者の一部がやるかもしれないんだがな。
「分かった。全員に伝えておく」
「すまないな。じゃあ行ってくるよ」
そう言い残し、俺は奴らの砦へと飛んだ。
◇ □ ◇
位置はとっくに確認済みだ。
一応どんなアイテムがあるか分からないから約定通り近づかなかったが、だからといって何もしなかったわけじゃあない。
だがどこまで飛ぶ?
……考えるまでも無いな。
素直に砦のど真ん中へと飛び、同時に以前のように全て外した。
砦は一瞬にして崩壊し、生き残りがワラワラと飛び出してくる。
数は500人ほどか。砦に居たほぼ全員だな。さすがに今日の今日だ。警戒は万全だったらしい。
その中には、当然ながら召喚者もいる。
全員を知っている。初めて召喚した時の初々しさ。
迷宮や怪物との戦闘の様子。
次第に召喚者として成長していく姿。
ああ、楽しかった。
死んだら本当に死んでしまう。理不尽な召喚。俺が昔、反吐が出るほど嫌った行為。
だけど本当に、彼らの成長を見るのは楽しかったんだ。
彼らも覚悟はあったに違いない。だけど突然の砦の崩壊は予想外だったのだろう。
今回は火を使っていないが、崩れた砦が巻き上げた土煙と轟音は凄い。
そんな中、どうしようかと不安そうに固まっていた増田昭と日野洋司の心臓を外す。
二人とも荒木幸次郎と同じくプロレス部の部員。ここにきて1か月の9期生。スキルの前では、何の抵抗力も持たない赤ん坊にも等しい。
そして外した心臓二つを、その横に居た荒木幸次郎の前に投げてやった。
「覚悟はしていたんだろう? このクロノスが直々に来てやったんだ。言い訳くらいはしてから逝くがいい」
当然、認識は毎度おなじみ幽霊のような姿だ。
普通の人間ならさぞ恐れるだろうが、彼等にとっては見慣れた姿だ。怖がっているのはリカーン兵くらいなものだな。
ちょっと寂しい。
「やはりそうだったのですね。アンタは我々を騙していたという事だ」
その声は、思っていたのとは逆の方向。俺の真後ろから聞こえてきた。
聞き間違える事は無い。俺は当然、全員の声は知っているからな。
「神明か。悪いが、もはやそんな事はどうでも良いんだよ。だが早々に理由を聞いておけて助かった。後から確認するのも面倒だと思っていたからな」
今日も無事更新です。
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