これが平和を望んだ結果か
なんか体面だの色々あって大変だとは思うが、まあ向こうにも意地もあれば、周辺国との関係も考えないといけない訳だ。
実際に乗り込んだ時は、本当に召喚者を絶対殺すマン状態だったしな。
それが今や召喚者の力で発展したラーセットとの和平交渉となれば、その準備だけでも大変だったという訳だ。なにせ8年だからな。
「それで今後はどういった形になるんだ?」
「先ずは私が和平へと赴きます」
「おいおい、軍務庁のトップが首都の外に出て交渉か? いくらなんでも下手に出過ぎじゃないのか?」
「ははは、クロノス様にはそう見えますか。ですがまあ、これは慣例のようなものでしてね。実際の立場としては向こうが頭を下げてきたわけですが、対外的には小国のこちらが礼を示さないといけないのです」
「そんなもんかねぇ」
「それが常識なのですよ。ここを誤って大国のように振舞ったら、“ラーセットは力を付けた代償として礼儀を失った国”の汚名を被る事になるでしょう」
そういった事なら仕方がない。
この世界にはこの世界の常識がある。俺が口を出すべき事じゃないだろう。
「それで軍事的な停戦を結んだら、今度は内務庁の出番です。まあこちらは互いに自国の首都は出ずに書類のやり取りのみですから、この件に関してはクロノス様のお手を煩わせる事は無いでしょう」
どこか心に引っ掛かるものがある――が、
「そんな訳で、今回の件は軍務庁が行います。ただ向こうの意向もありますから、クロノス様ら召喚者の方々は暫く周辺には近づかないで頂きたいのです」
「まあ軍務庁の事は軍務庁に任せるよ。その程度の距離なら、護衛もラーセット軍で十分だろう」
「話が早くて助かります。私がいないときに軍務に関係する話がございましたら、副長官のエデナット・アイ・カイとご相談ください」
「そんなに長くなりそうなのか?」
「お互い決める事が多いですからね。3年位は覚悟した方が良さそうです」
「それはまた大変だな。気苦労お察しするよ。だけどラーセットはかなり力を付けたし、実質的には向こうからの和平交渉だ。時間はかかるだろうが、交渉自体はスムーズに進むかもな」
「そうだと良いのですけどね。それでは、私は明日出発いたします。しばらく会えなくなりますが、クロノス様もご壮健で」
「ああ、頑張れよ。戻ったら飲みにでも行こう」
「楽しみにしていますよ」
帰り道、そういえばあいつを簀巻きにするのをすっかり忘れていたな……というか何年前の事だよ。
そんな事を考えながら、復興に沸くラーセットの町を歩きながら帰路についた。
もうあれから随分と人も増えた。今は移民がメインだが、既にベビーラッシュの真っ最中だ。20年後や30年後には、更にドカンと増えるだろう。
瓦礫はすっかり撤去され、空いた土地は公園や畑になっている。
まあ、基本的な食料は高層ビルの上で生産されているので、ここらはまだ道楽に近い。やがてこの辺りも、かつての様に民家や商店、そして新たなビルが建てられることになるのだろう。
もう壁の中はすっかり元通り。それどころか、活気に関してはかつてよりあふれている。
ただあちこちの片隅には、小さな碑石が設置されている。かつての犠牲者の名を刻んだものだ。
これが風化し忘れられるようになるには、まだまだ世代交代するような長い時が必要になるだろうな。
ただこの一件が片付けば、いよいよ表面上とはいえラーセットの危機は去る。まあ対人間に対してだけだがね。
だがそれは大きい。戦争を縛るのは経済だ。互いの国家やその同盟国との交易が増えれば、どの国も迂闊には動けなくなる。
これで遂に外交の懸念も消える。ついに本格的に活動開始だ。
現在も、交易や移民の護衛を兼ねて奴を探している。まあ奴だけでなく、脅威となる怪物全般ではあるが。
ただ、あくまで動いているのは召喚者のチーム。俺は何かあった時の為に、精々数日の活動が限度だった。
けれど、迷宮関連はもう教官組に任せてもいだろう。召喚に関しても、召喚者の減少に応じて神殿庁が教官組と協議して行ってくれればいい。
そして国家間の争いが終結すれば、そちらはもう軍務庁と内務庁の管轄となる。
さすがに半年とかは空けられないし、俺の体がもたない。だけど1か月や2か月といった時間は取れるだろう。
やっとだ……ここまで本当に長かった。
これをさらに拡張して行こう。そうなれば、奴の本体探しに専念できる。
それと並行して、どうやって地球に行ったのかの謎なんかも解明できれば最高だ。
かつて滅ぼされた国なんかも調査しよう。今までやれなかった事は山ほどある。
それに――いや、これはまだまだずっと先の事だな。今はこの路線を続けよう。
そんな俺の元に軍務庁長官ユンス・ウェハ・ロケイスの死が告げられたのは、それから1か月後の事であった。
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