気持ちは嬉しいけどそれはダメ
彼らの歓待を見届けた後、俺は宿舎へと戻った。
宿舎と言っても高層ビルの上。隣にあるのは召喚庁本部。まあ出勤が楽で助かるよ。
「ただいまー」
「おつとめご苦労様であります」
「おかえりなさいませ」
いつものようにケーシュとロフレが出迎えてくれる。
この世界の平均寿命は短いが、それは食料の供給体制や医療が発達していないといった訳ではない。単純に、世界が死の危険に満ちているからだ。
食糧事情は俺たちの世界とさほど変わらないし、医療は病気に関しては厳しいが怪我に関しては遥かに優れた薬がある。
だから普通に生活している分には、俺たちの世界とあまり変わらない。
そんな訳で、二人ともまだまだ若々しい。
因みにケーシュは30歳。ロフレは32歳になった。
二人とも色気が出てきたし、ロフレの一人称はボクからわたしに変わった。でも俺の中では、出会った時の初々しい二人も混在している。色々と複雑だ。
夕食は3人で取る。よほどの事情が無い限り、それが俺達のルール。
味付けは日本的だが、二人もすっかり慣れ、今ではこちらの方がおいしいと言ってくれる。
スキルのおかげで、嘘ではない事も分かる点が嬉しい。
色々と忙しいし、それぞれが人命や世界の命運に関わる仕事だ。ストレスも大きい。
それでもこうして普通に人間的な生活が出来ているのも、彼女たちのおかげだ。ありがたやだな。
その後は体を洗ってベッドインなのだが、今日はちょっと二人から相談を受けた。
事の初めは、食べ終わってすぐに言ったロフレの提案であった。
「クロノス様、少しお話があります」
「改まってどうしたんだ?」
「実は、養子を取ろうかと思っているのです」
その提案は、普段俺が考えている内容とはあまりにもかけ離れていたため、完全に返答に詰まってしまった。
「ええと、何があったんだい?」
今になって、子供が欲しいと思い始めたのだろうか?
だとしたら、その点は最初にいってある。自分は子孫を残せないから、良い人が出来たら迷わずそちらへ行くようにと。
もし俺との子供の代用として欲しいというのであれば反対だ。それは誰よりも、子供本人が不幸になるだけなのだから。
だが、彼女――とういよりケーシュもだな。彼女たちの考えは、俺の予想を完全に上回っていた。別方向に。
「わたしたちも、もう30を越えました」
「そりゃもちろん知っているよ。誕生日祝いは毎回しているじゃないか」
「はい、それはとても嬉しく思っています。ですが、私たちには使命があります」
「使命?」
「いうまでもない事でありますが――、」
洗い物を終えてケーシュが戻って来た。
「クロノス様のスキルは強すぎて、制御アイテムを壊してしまうほどであります。その力による暴走を止めるのも、私たちの使命であります」
まあ確かにその通りだ。
そのために娼館に通うかと考えていた俺を止めるために、軍務庁長官のユンスが派遣したのが彼女たちという訳だからな。
「ですがそれも、あと何年できるか……」
「そろそろ限界を感じつつあります」
うん、まああの頃は二人とも若かったからこちらも全力モードだったよね。
でも今は俺だけが若いまま。確かにきつくなってきたか。またダークネスさんの幻聴が聞こえてきそうだ。
だけど――、
「その話と養子の話ってどうつながるんだ?」
「わたしたちを大切にして下さって頂けることは嬉しいのですが、同時に満足に務めを果たせない事が心苦しいのです」
「娼館通いなどされたら、ユンス長官の意図が無駄になってしまうのであります」
「でも、新しい子の派遣は断っているのでしょう?」
その件かー……確かに、ユンスから新しい女の子を派遣するかどうかの話は何度も出ている。
でも全部断った。当然だな。もうケーシュとロフレの二人と暮らしているのだ。
多分二人とも文句は言わないだろうが、大昔の後宮みたいな状態になる恐れは十分だ。触らぬ神に祟りなし。
だけどそっちが疎かになっている分、俺のスキルに制限がかかっているのも事実。
俺のスキルは強くなりすぎている。制御アイテムが壊れない程度にセーブしても、精神や肉体に対する負担は相当なものだ。
そんな訳で、ここ数年は無理な行動はかなり控えている。
それはすなわち、俺がすべき作業が予定よりまるで進んでいない事を意味していた。
「このまま負担になってしまうのであれば、せめて後継を育てたいのです。私たちの娘という事であれば、トラブルを気にしないで済むでしょう?」
そこまで見透かされていたのか。
「大丈夫、お任せください。立派に英才教育を施すであります」
……どっちの英才教育だろう。
「先ずは14歳くらいの子を2人ほど養子として引き取ろうと思います。同時に7つくらいの子も二人ほど」
「大丈夫、もう内務庁との話は付いているであります。学業に支障がない限り、特例で認められています」
「うん、ストレートに却下」
当然の様に、えーという顔をする二人。物凄く残念な感情が伝わってくる。
二人とも悩みに悩んだ末に考え、各省庁に確認を取って、こうして話せる所までもう計画は進めていたのだろう。
後は俺がゴーサインを出せば、早速明日からにでもこの計画は始まっていたに違いない。
この二人、元々事務官として働いてもらっているだけあって、そっちの腕は相当だからな。
だけどさ、それって本人の意思は?
ましてやそんなお子様の内から俺の相手をするために育てるとか、あまりにも酷い。
教育関係や人権なんかは俺たちの世界と遜色ない――というか一部では上回っていると今でも思っているが、同時に死がすぐ隣にある世界だ。社会の為の犠牲もまた容認される面を持つ。
召喚するための生贄などがまさにそれだ。
仕方ないとは思うが、それを受け入れるかは別だ。
「気持ちは嬉しく思うが、俺の倫理観から考えるとそれは却下だ。でも気を使ってくれてありがとう。俺の方でも色々考えてみるよ」
そう言って、この話はここでお開きになった。
「神殿庁の子たちは相手したのに……」
とブツブツ言われてしまったが、あれは同意の上だったし。生きるか死ぬかの緊急事態だったからな。
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