何気ない一言が心に染みたよ
新たな11人の為の歓迎のパーティーが開かれている最中、俺はミーネルと共に召喚の間に居た。
本当なら彼女が先導して皆を会場まで案内するのだが、部下に任せて残ったのだ。
その意図が分からない程に朴念仁ではない。俺は認識阻害を外し、ミーネルと対面した。
「やあ、ミーネル」
「これはクロノス様。今回の召喚、なぜ半分ほどしか召喚されなかったのでしょうか? クロノス様は何かご存知の様でしたが」
責める様子は無い。
本当に分からなくて困っているといった感じだ。
まあ、あんまりストレートには言えないな。
「召喚者の数に上限がある事は分かっていた。ただその数が正確に把握できていなかったんだよ。だから常にどこが限界かを探りながらの召喚だった。それが今回で遂に上限に達してしまったわけだよ」
「そうでしたか。今まで38人でしたから、全部で49人が限界という訳ですね」
「いや、当然だが俺もいるから50人だよ」
「これは失礼しました。どこかクロノス様は特別な存在のような気がしていましたので」
「俺も普通の召喚者の一人だよ。たまたま最初に召喚されただけさ」
「それだけではありません。私は召喚者様方の力の強さはよく分かりませんが、やはりクロノス様は別格に感じます」
「はは、ありがとう」
実際、それは間違っていない。以前に召喚された時は、超スパルタで鍛えられたからな。
結構本気で、あの時の俺は俺が死んだらそれでいいやと思っていたのかもしれない。
それ程に、責任だけが重くのしかかる最低の立場だ。
だけどその一方で、俺なら絶対にギリギリの段階で発動するセーフティを用意する。
それがどんなものなのかは謎だが――というか謎だけに、これから考えないといけないんだけどな。
とはいえ、あの時はセポナやひたちさんがいたからどうにかなった。
それに龍平との戦いでは咲江ちゃんがいなければ完全に消滅していた。
本当に用意していたのかもまた謎だな。
「……それにしても」
「ん?」
「クロノス様が召喚に応じてくださってから、もうじき5年ですね」
「まだそんなものか。忙しすぎて気にもしていなかったよ」
というか、俺にとっては今も召喚された日も変わらない。
それどころか記憶が戻ったからか、初めてこの世界に召喚された日までついさっきの話だ。
「確かに、多くの事がありました。数えきれないほどの悲劇もありましたが、今、ラーセットは大きな飛躍の時を迎えています」
「みんな頑張ってくれているからな。だけどどうしても犠牲は出る。帰還する者もいるだろう。これまでの様に定期で召喚する事はなくなるけど、召喚自体はまだまだずっと続けなくちゃいけない。これからも忙しいぞ」
「ええ。頑張ります」
ああ、この笑顔が眩しい。
まだまだどこか初々しいミーネルを見ると、どうしても未練が湧き出てしまうな。
「あの、クロノス様」
「どうした?」
「私が申し上げるのもおこがましのですが、どうか幸せになってください。これは私だけでなく、全てのラーセットの民がそう思っています」
「……ありがとう」
顔色を読まれてしまったかな。本当に、俺はポーカーフェイスが苦手らしい。
不意にそんな事を言われ、ちょっとだけ涙が出そうになった。
だけど幸せか……俺の幸せは、一体何処にあるのだろう。
改めて考えてみると、そんな事は気にもしていなかった。
かつてはラーセットという国や国民、それにトップであるクロノスやそれに近い連中を憎んでいた。
再びこの世界に呼びだされ、記憶が戻った時には奈々や先輩、それにみんなの命を奪ったこの世界に複雑な感情もあった。
だけどそれ以上に、俺は地球を襲った奴を倒したいと願った。
そうだ、そいつが全ての元凶なんだ。
奴がいなければ、俺はラーセットに呼び出される事は無かった。
俺が呼び出されなければ、新たに召喚者は呼び出されない。当然、高校生の俺たちもな。
そして当たり前だが、地球に奴が現れる事も無い。
だけどそれはもうどうしようもない。過去を見ても、ありえなかった未来を考えても仕方がない。
今出来る事は、世界を滅ぼしたあいつを倒す事だ。
ラーセットの実情を知り、この世界の人々に触れた事で、俺は当時の俺が許せなかった種類の人間になってしまった。
何かの為に、人を犠牲にする人間だ。
もう今更、この国やクロノス……というか俺だけどな。まあその辺に恨みも無い。ただどうしようもなかったんだなという虚無があるだけだ。
だが、この復讐だけは、決して色褪せる事は無い。全ての元凶にして始まり。
出来る事なら、俺や奈々たちが召喚される前に倒してしまいたいものだ。
そして召喚を止めれば、高校生の俺は奈々と幸せになれるのかな……。
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