懐かしの再会だ
当面の問題や不安はまだ消えないが、時間は十分にあるようで実はない。
百年……気が遠くなるような長い歳月だったが、それでも不可能だったのだ。あまり遊んでいる余裕はないよな。
「では、先ずは半年だ。その間に生贄となる人間を用意しておいてくれ」
生贄という言葉に皆渋い顔をするが、ここで言葉を選んでも仕方あるまい。
「その間に、風見絵里奈と児玉里莉に本格的な講師をしてもらう。二人ともこっちの言葉で生活できるほどだしな」
そう。単なるお勉強ではなかなか身につかなくとも、その言葉だけの世界に放り込まれれば飛躍的に覚える。
しかも俺達は覚える気があれば忘れる事は無い。全部さっきの事だからな。
その分トラウマも消えない訳だが、それは仕方がない。
まあそんな訳で、あの二人なら大丈夫だ。但し――、
「その間、迷宮探索は休止となる。ミーネル、ユンス、ゼルゼナ、それぞれ物資の方はどうだ?」
「ロンダピアザの再建は順調です。まだ郊外は手付かずですが、残念な事にそこが必要になるほどの人間はいませんので」
「軍務庁も問題はありません。こちらの現状は壁の外の対処で手が離せませんし、これまでに集めて頂いた武具や物資で対応できています」
そういや木材なんかはどうしても外だよりだからな。ロンダピアザの中にもそれなりに緑はあるが、あれに手を出すのはまさに最後の手段だ。
「神殿庁も大丈夫です。元々、祭事以外にはあまり関わっておりませんし、召喚者の件に関してはクロノス様に一任してあります」
一任という名の丸投げではあるけどね。
まあ反対は出ないと思っていた。
またまだ戦いの傷跡は深い。ゼルゼナの言うとおり、ロンダピアザの広さに対して現在の人口はかなり少ないんだ。
だから迷宮から回収する物資には余裕があったし、それだけに大勢の召喚を躊躇ってしまっていた事は否定できない。
「ではこの予定で行こう。俺は暫く姿を消すが、迷宮に少し用があるだけだから気にしないでくれ」
「お一人で向かわれるのですか?」
言葉を発したのはミーネルだが、表情は全員同じだ。心配が8、驚きが1、呆れが1といった所だろうか。
「一人で問題は無いよ。というよりも、今の迷宮を見ただろう? 次の大変動まで、他の人間の入場はまあ無理だ。予定外の状況になったら引き返すから問題はない。それにすぐに戻って来るよ。イェルクリオまで日帰りで行けるんだ。その点は信じて欲しい」
「了解です」
「それでは実行は半年後で」
「急ぎ、支度を始めましょう」
「では頼む。これから忙しくなるが、みんな頑張ってくれ」
そう言いつつも、何も心配はしていなかった。
全員優秀なメンバーだし、それぞれの分野の専門家だ。その辺りは、ゼルゼナにマージサウルで手に入れた“裏切り者リスト”の話を聞いた時によく分かった。俺に政治とか駆け引きとかは無理だ。全部任せよう。
その分、自分に出来る事をすればいいんだ。
※ 〇 ※
そして4日後。俺はあるセーフゾーンの中にいた。
黄金で作られたような壁。そして上へと向けて螺旋状に狭まっていく部屋。
美しいが、多分刳り抜いたうんこのような形だな。
そしてその中心には、もう出会うのは3度目となる黒い竜がいた。
「よ、久しぶりだな。とは言っても、いろいろな意味で分からないか」
こちらはいつもの余所行き仕様。認識を微妙に外し、幽霊のようなローブを纏ったような姿にしか見えない。
声も何処から聞こえてくるのか判別しないようになっている。
これではどちらが怪物か分からんな。
「まるで分らぬな。だが人間であることは理解した」
「安心したよ。時々、俺は自分がもう人間ではなくなってしまったような不安に襲われるんでね」
「愚かな事を。人間はどこまで行っても所詮は人間にすぎぬ」
普通だったら馬鹿にされているようなその言葉が、なぜか俺の心には良い言葉の様に響いた。
やばい、ちょっと感動した。そうだよな。俺は何処まで行っても人間なんだ。
そしてやっぱり、この世界の人も地球から来た俺も、多少の違いはあっても人間であることに変わりはないんだよな。
「言いたい事はそれだけか? では――」
「いや、戦うならそれで構わないんだけどさ、せっかく苦労してここまで来たんだからもう少し話をさせてくれよ」
そうなんだよ。かなり精度が高まったとはいえ、ダメなルートを外していくのは口でいうほど簡単な作業じゃない。無数の絡まった糸を、一本一本手繰り寄せては潰していくような感じだ。
そんな訳で、こいつを見つけ出すのに4日もかかったわけだ。
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