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自由に生きたい

 トボトボと還って行く二人を見送ったが、様子からしておそらく彼女たちは帰らないだろう。

 今は全部を話せない。だけどいずれもっと多くの事を話す必要があるだろう。

 場合によっては、他の召喚者を騙す為の共犯になってもらう必要もある。

 辛いな……。





 〇     ※     〇





 自分たちの宿舎へと還りながら、風見絵里奈(かざみえりな)児玉里莉(こだまさとり)はぼんやりと星空を見ながら歩いていた。

 話の内容がショック過ぎて、どう反応して良いのかすら、あの場では分からなかった。

 そんな中、ぼそりと呟いたのは“コピー”の能力者、風見絵里奈(かざみえりな)の方からであった。


「こうやって夜空を見ていると、本当に別の世界だなって感じがするね」


「土星みたいで面白い月だよね。でも、意外とあの星のどれかに太陽があるかも」


「別の世界じゃなくて別の星かぁ。それも面白いかもね」


 そんな他愛のない話をしてみるも、やはり本題は先程の話へと吐いてしまう。


「ねえ、里莉(さとり)。さっきの話、何処まで信じたの?」


「え、何か問題があったの?」


「あったも何も、全部信じられる方がおかしいわ」


「うーん、どうだろう。私が見た限りだと、結構真面目な人だよ。それにあからさまな嘘は感じなかったかな。絵里奈(えりな)が疑い過ぎているんじゃない?」


「確かにそうかもね。でも正直に言うよ。死んだら帰れるって話、あれね、嘘だと思う」


「その根拠は?」


 児玉里莉(こだまさとり)の言葉は呆れたようでもあるが、同時に確信めいたものも秘めていた。

 絵里奈(えりな)が理屈をこね始めたら聞く必要もないだろう。疑い深く、思い込みで語る理屈家だ。屁理屈の王者と言っても良い。

 だがその一方で、勘だと言われると信憑性が跳ねあがる。

 それなりに長い付き合いの中で培った経験だ。


「じゃあさ、あの大変動で巻き込まれたみんなは死んだの?」


「多分ね」


「じゃあ帰ったって言う中学生の子たちはどうなったの? あの二人は殺されたの?」


「あの二人は帰したと思う。クロノス様が自らが行ったって言うのは、間違いなく帰っていると思うよ。でも勘だけどね」


「そっか……なら私たちも、大変動や戦いで死んだら死ぬって事なんだね」


「そうだね……」


 絵里奈(えりな)の勘はただの勘ではない。言葉の流れ、イントネーション、場の空気。そういったものからほぼ無意識に内容の真偽を判断する。いわば生きた嘘発見器だ。

 自分自身も彼女に嘘は通じないと思っているし、彼女のこの秘めたる能力に何度助けられたか分からない。

 スキルという超常現象を目の当たりにしても――いや、したからこそ、今までは『凄いな』程度の認識であった彼女のこの能力が真実味を増す事となった。

 ただ――、


「でもさ、ならこれからどうするの? 帰るつもりはないんでしょ?」


「うん。私は……そのつもり。というより、里莉(さとり)は帰りたいの?」


「難しいな。帰るってのも、正直どこまで信じて良いか分からないしねー」


 絵里奈(えりな)の真偽を悟る力は信じているが、相手が本気で言っていたら判別出来ない。分かるのは、あくまで相手が嘘をついている自覚がある時だけだ。

 そう考えると、結局は何が正しいのかなんて分かりようが無い。


「でも絵里奈(えりな)は帰ると思ってたよ。かなり怖がっていたし、それに戦闘も苦手でしょ」


「スキルが思ったより良くなかったのはショックだったわ……」


 言葉通り、風見絵里奈(かざみえりな)の落ち込みは酷い――が、


「それでもね、私はこういった世界に憧れていたの。普通に学校に行って、勉強して、就職して、その後はどうなるかは分からないけど、多分普通に生きるんだろうなって思っていたの。でもここは違う」


「普通も悪くは無いと思うけどね」


「それは普通の生活に受け入れられている人だけだよ」


 確かに絵里奈(えりな)は学校からも、社会からも孤立気味だ。だけど――、


「たとえしんどくても、普通の生活をしていたらそんな簡単には死なないよ。でもこっちの世界じゃ……」


「それはもう分かってる。みんな死んじゃったし。でもね、私はもっとこの世界で頑張ってみたい。早くに死んじゃうかもしれないけど、同時にこうしている毎日が、今私は生きてここにいるんだって実感させてくれる。迷宮(ダンジョン)での探索も戦いも怖いけど、楽しいの。でもこんな想いも、帰ったら全て忘れちゃう。ここでの楽しかった日々が消えて、また向こうでの何も無い日々が始まる。それだけは嫌。もし帰るのなら、それはこっちの世界の事を忘れない手段を見つけてからだよ」


 それは、今までの付き合いでは一度も見せた事の無い笑顔と決意だった。

 いつもひっそりと陰で生きるようだった絵里奈(えりな)がこんな顔をするんだと驚いた。

 でも、やっぱり人それぞれ得意分野もやりたい事も違う。

 正直言って、彼女はこの世界に不向きな人間だろう。だけど彼女自身は、こっちの世界を選んだ。友人として、その選択を尊重したいと思う。


「それに、今帰っても死ぬだけだよ。地球は滅んじゃうんだから」


「それも真実か―」


「明日改めて話してみよう。それ次第でどうするか決める……かな。里莉(さとり)はどうするの?」


絵里奈(えりな)に付き合うよ。私は一応先輩なんだし。それに絵里奈(えりな)一人じゃなーんにも出来ないでしょ」


「まあ……そうなんだけど」


「少し位は否定しなさいよ」


 こうして、二人は笑いながら宿舎へと帰ったのだった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 気になる2人になりました。 第2部のメイン脇役になるのか期待してしまう。
[一言] コピーちゃん有能ですね心強い! 水中呼吸みたいにコピーも戦闘に使えるよう進化できるといいですね~
[良い点] この二人面白いです。クロノスの悩みが続いていたので、気分転換にもなりました。 特に絵里奈が面白い登場人物になりそう。 更新ありがとうございます。
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