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止めることは出来ないな

 中学生としてはとてもしっかりしている。それに、その瞳にはもう迷いの色は無い。

 ああ……ダメだな。これは説得など出来ない。

 この世界で、俺達は時間の感覚が違う。いきなりこの世界に来てヨルエナの乳を揉んだ事や、初めてひたちさんやセポナを抱いた事。そして咲江(さきえ)ちゃんや先輩、それにミーネルさんたちとの事。全てついさっきの出来事の様だ。

 いや、これだとただのスケベ男だな。ダークネスさんらとの出会いも付け加えておこう。

 そんな訳なので、この世界で負ったトラウマは決して消えない。

 親友の断末魔――そんな思い出を抱えたまま、この世界で彼女が冒険を続ける事は不可能だ。


「分かった。君達を元の世界へ帰そう」


「あ、ありがとうございます」


「忘れちゃうって言われたけど、もし覚えていたら、この事はきっと本に残します」


「ああ、楽しみにしているよ」


 笑顔の陰で、胸がズキズキと痛む。帰すという事の意味を、俺は知っているのだから。


 こうして峯崎累慈(みなさきるいじ)日黒真央(ひぐろまお)は元の世界へ帰すことになった。

 ただ名目上そうだというだけで、実際に帰れなどしない。それは俺が一番よく知っている。帰る方法なんてないんだ。


 じゃあどうするか。そりゃ、殺すしかないだろう。

 ここまで一生懸命ラーセットのために働いてくれた二人。しかも中学生。これで日本に帰れると思って笑顔でこちらを見ている。

 俺は何度地獄に落ちれば済むのだろう……。


 大体、彼等はもう召喚者として成長してしまった。

 いつかの騒いだ男とは違う。俺が彼らの命を外そうとしても、召喚者である彼らは軽々と防ぐ。

 もちろん攻撃系のスキルで召喚者は殺せるが、それはあくまで物体を使っての攻撃や肉体自信を強化したものだ。一応、スキルで発生させた爆発や電気などのエネルギーもそうだな。

 だけどスキル自体は通用しない。即死系や催眠系のスキルは、召喚者には通じないんだ。


「ただ知っていると思うけど、帰る方法がね」


「この体から、魂を抜くんですよね。つまりは殺されなくっちゃ駄目なんですよね」


「か、覚悟は出来ていますから、せめて痛くしないでください」


 いたいけな女の子に『痛くしないで』なんて言われちゃうと、ちょっとドキドキしてしまうな。

 いやいや、落ち着こうな、俺。


 でも待てよ……手段はあったな。それは召喚者がそのスキル自体を受け入れる事だ。

 それを試すしかないだろうな。


「じゃあ――あ、いや待った」


 物凄い怪訝(けげん)な顔をされたがまあちょっと待て。

 一つ試すべき行為があるんじゃないのか?

 だけどこれは人体実験だ。こちらで命を落とせば帰るだけだと説明したので、これからしようとする事は不思議に思うだろう。

 成功するとも限らない。可能性は低い。更に言えば成功しても俺には分からない。

 案外、とんでもない世界に飛ばしてしまうかもしれない。

 だけど――、


「ちょっと待っていてくれ。それとケーシュ」


「はいっ!」


 邪魔にならないように背後で待機していたケーシュが勢いよく立ち上がる。


「倉庫に行って、迷宮産のアイテムを二つ持ってきてくれ」


「畏まりました!」


 勢いよく出ていくケーシュを、二人はポカーンとしながら見送った。

 どうやら気が付いていなかったようだ。まあ気配を断つ訓練は受けている子だしな。

 しかしそうか……この子たちは召喚者として、まだそこまでは育ってなかったか。

 でも今更仕方がない。今のうちに、これからする事を説明しておいた方が良いだろう。


「いいかな?」


「あ、はい。大丈夫です」


「知っているかもしれないけど、自分から帰還を選択した人はいないんだ。まあ無理やり帰って貰った奴はいたけどね」


「……聞いています。本当にごめんなさい」


「いや、責めているわけじゃないんだ」


 また泣き出しそうになってしまった日黒真央(ひぐろまお)を慰めながら、俺はある提案をした。

 もしこれが正しいのなら――、


「君達には、今まで沢山世話になった。だからせめて、特別な方法で送りたい」


「特別な方法……ですか?」


「ああ。保証は出来ないけど、もしかしたら帰った時に何かの役に立つかもしれないからね」


 この子たちを召喚する前は、最初から出来ないと思っていた。

 でも今は、心が出来ると言っている。

 俺はあれから大した成長はしていない。彼らがまだ召喚者として成長しきれていないからだろうか?

 それとも……。

 そんな話をしている内に、ケーシュが二人分のアイテムを持ってきた。


「手ごろな品を持ってきたであります」


 そう言って机の上に置いたのは、両手用の大斧と、両刃の片手剣だった。両方とも美しい装飾が施されてって……おい。


「ぼ、僕達に何をさせようって言うんですか!?」


「わ、私無理です!」


 部屋に二人の悲鳴が響き渡る。

 うん、生粋の兵士であるケーシュに選ばせたのは失敗だった。

 そりゃ適当にって言えば武器を持ってくるよなぁ……。





今日もお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 送還するために器を壊しますって時に「ちょっとアイテム2つ持って来て」って言われたらまあ 兵士「介錯用の武器を持って来ました」 文官「自決用の毒杯を持って来ました」 割とそうなるよねと
[良い点] 心が痛む。だけど、ひょっとすると、何とかなりそう? 次を楽しみにしています。 更新ありがとうございます。
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