当然こういう展開になるよな
外までの壁を外し、一人ずつ、全員を彼らの宿舎へと送り届けた。
「みんなは先に帰っただけだから。少し会えなくなるけど、向こうに戻ればまたみんな生きているから大丈夫。あまり気にするなよ」
そう言って、俺も召喚庁へと戻った。
正直、自分の言葉に反吐が出そうになる。
何が先に帰っただ。戻れば生きているだ!
想いきり壁を殴りたくなるが、物を壊したって仕方がない。
覚悟は決めていたじゃないか。もうやるしかないんだって。これが世界の為なんだって。
だけど、やはり辛い。
もし、正直に話していれば、彼らは死ななかったのだろうか?
考えると馬鹿々々しくなる。
確かに死ななかったさ。だけど、誰も迷宮には潜らなかっただろう。
そして何処かに立てこもり、元の世界へ返せと大騒ぎしただろうな。
ここでどうにかしないと地球が滅ぶといっても、信じて動いてくれるのはほんの僅かだろう。
更に怪物との戦いは怖い。スキルという現実では有り得ない力と、怪我をしてもゲーム的な万能薬で回復するおかげで何とかなっているが、これが本当に命がけとなると一体どれだけの人間が戦ってくれるだろうか?
それに加えて大変動の恐怖を知ってしまった。狭い中で味わう大地震の恐怖は外や家の中とは比較にならない。
こうなるともうダメだろう。絶対に戦ってはくれない。
これに人間と戦う可能性まで加えてしまうと、なんかもう完全にアウトすぎる。
騙してやってもらう以外にどうしろっていうんだ。
分かっているよ、それが正しくない事なんて。高校生の俺、お前が正しいんだ。
お前には俺を殺す権利があるよ。もちろん、全てが終わった後であればの話だけどな。
ただ今回の事で、大きな問題が一つ出た。
歴史が変わることは承知していた。
というより、失敗の連続なのだから変えなきゃいけない。それはわかるんだよ。
だけど、肝心の三浦凪が死んでしまった事は完全に予想外だった。
かつての教官組の一人。その思考や行動から、何か以前のクロノスの事が見えてくると思っていた。
「本当に……まさかだよな……」
マジでどうしようもなくなると、人は天を仰ぐ。
そこにあるのは星と、この世界の月。星座は違うし、月は土星のような輪が掛かっている。
まあ世界は違って環境も違うが、人の力なんて大したこと無いってのは変わらないって事さな。
自分の無力さを自覚しろ。ここからやり直しだ。しっかりしろ、俺。
だけど翌日、更に困った問題が起きた。
峯崎累慈と日黒真央の中学生二人組が、帰りたいと言い出したのだ。
事の起こりは執務室で今回の損害に頭を悩ませている時だった。
幾ら考えても結論なんて出ない三浦凪の事が頭をぐるぐると回る。
報告を聞く限り、長谷の失態が原因だ。もっと緊張感があれば、皆と一緒にセーフゾーンに辿り着いていただろう。
だけどそれを責める資格は俺には無い。そういった物を集めるように依頼したのは俺だし、大変動の恐怖をもっときちんと教えるべきだった。
だけど召喚したこと自体には後悔はない。これは絶対に必要だった事だ。今更それを言っても仕方がない。
ただもっと多くの人間を召喚すべきではなかっただろうか。
よりリーダーシップを持った人や、説得力のある人が一緒に居たら……いや、そうでなくとも、一緒に満足するだけの量を掘る人間がいたらいいだけだ。
いやいや、肉体強化や瞬間移動、そう言ったスキル持ちがいれば、それだけで助かったんだ。
やはり人を増やそう――二人が訪ねてきたのは、そう考えていた時であった。
内容はもうさっきの通り、帰還に関してだ。
「そうか……考えは変わらないのか?」
「はい。元々僕たち図書部の3人は、3人だから一緒にいたんです」
「だから白音がいないなら、もういいかなって思うんです」
「ここで何年過ごしても、日本に帰れば同じ時間だ。もう少しこっちに居ても良いんじゃないか?」
「それは考えない訳じゃなかったです。こっちは怖かったし痛かったけど、何と言うか、凄いワクワク感があったんです」
「あたしたちはみんな図書部で運動は苦手だったけど、スキルを使って、見知らぬ土地を冒険して、怪物と戦って……まるで今まで読んだ冒険小説みたいで、上手く言えないけど、怖かったけど楽しかったんです」
「なら――」
「だけどダメなんです。耳に白音の悲鳴と潰れる音が残っているんです。それが消えなくて……もう怖くて」
思い出したらよほど怖かったのだろう。自分自身をグッと抱きしめる。
そんな彼女の肩を峯崎が抱いて――、
「大丈夫、大丈夫だから。もう帰ろう。そして忘れよう。すみません、クロノスさん。僕たちをこの世界に呼び出す為に、沢山の人が犠牲になった事は聞いています。その人たちの事を考えると……でも」
「いや……いいんだ。こちらこそ、こっちの都合で君達を召喚して、怖い思いまでさせて働かせてしまった。しかもなにも出せないんじゃ、タダ働きだしな」
「いえ、こちらでは本当に皆様に良くしていただきました。それに向こうに帰れば全て忘れて、時間も動いていないんですよね? 僕も怖かったし今でも怖いです。でも、そういう事であれば大丈夫です。今までありがとうございました」
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