あの子が死ぬなんて考えられなかった
因みにだが、いつものように皆の前では微妙に認識を外してある。
今の俺は、不気味なローブを纏った幽霊みたいに見えているわけだ。
それでも即座に反応したのは、実際にこの姿で何度も会っているからだ。
これでも皆が迷宮から戻って来た時の歓迎パーティーには、毎回参加していたんだぞ。
まあそんな事はどうでもいい。それどころじゃないしな。
「そうだ。急な大変動だったからな。それより、他の連中はどうしたんだ? はぐれたのか?」
「それが……う、うええええええっ! ご、ごめんなさい。何も出来なくて! どうしようもなくて!」
もうその様子だけで、状況は分かった。
ここにいるのは一人で最前線を張っていた児玉里莉とコピースキルの風見絵里奈。
それと新たに召喚した中学生の峯崎累慈と日黒真央だけだ。
だけどハッキリと聞かないといけない。憶測で結論なんて出しちゃだめだ。
「長谷と室橋、それに三浦と飯仲はどうしたんだ?」
だが風見はただただ泣くばかりだ。
仕方がない――、
「児玉、説明してくれ」
歯を食いしばり、悔しそうに拳を握りしめていた児玉に声をかけた。
話しかけづらい雰囲気だが、他は泣いていたり茫然自失したりなので仕方がない。
「あ、ああ、クロノス様、いたんですか」
そんな事にも気が付かない程に、頭に血が上っていたのか。
まあ今は存在も薄いけどな。
「一体何があったんだ。落ち着いたらで良い、話してくれ」
児玉は暫く沈黙していたが――、
「もう1週間ほど前かな。凪が危険を感じるって言ったの。知っているでしょ、彼女のスキル」
「当然だ」
何せ彼女は、前の状態では教官組の一員。俺が最も成長を期待していた人間なのだから。
「だからみんなで急いでセーフゾーンを目指したの。大変動っていうのが近いっていたのも聞いていたから、私も嫌な予感しかしなくて」
そうか……この子たちを召喚してから、これが始めての大変動だったな。
「ただ丁度、その時に見たことのない鉱石が沢山見つかっていたのよ。それで長谷先輩が張り切っちゃって」
長谷のスキルは採掘だ。どんな岩盤も、まるで泥のように簡単に掘る事が出来る。
確かにこういう時にしか役に立たないスキルだ。リーダーとして、活躍の場は大切にしたかったんだろう。
「だからちょっとだけ。1日だけ採掘する事に決めたの。でも凪は反対したから、荷物持ち以外は先にセーフゾーンに向かう事にしたのよ」
もうこの時点で大体分かった。だけど、最後まで聞かないわけにはいかないか。
……辛いな。だけど、話さなければならない彼女の方がもっと辛いはずだ。
それに――、
「なぜ凪まで残ったんだ?」
「危険の強弱も感知できる様になっていたから、ギリギリまで付き合うって。本当にもう間に合わないってなったら、絶対に打ち切るからって約束して……」
「……聞こえたんです」
そういってぼそりと呟いたのは、3回目の召喚で呼び出した中学生の一人、日黒真央だ。
一見すると小学生に見える童顔と背の低さだが、あの日召喚された3人の中学生の中では一番大人びて見えた。しっかり者なんだろう。
スキルは確か”聴覚強化”だ。
「急げ急げ、もう間に合わなくなっちゃうぞって。凪先輩の声でした。待ってくれ、少し休ませてくれって王様の声も聞こえました」
王様ってのは100パーセント室橋王だな。
「その直後だったんです。立っていられない程に世界が揺れて、大地震みたいで。その奥に見えたんです。今まで歩いてきた地面がまるで粘土みたいに動いて、捻じれて、くっついて。それに聞こえたんです。一瞬だけど、みんなの悲鳴が!」
そこまで言うと、日黒は頭を押さえて蹲ってしまった。
他に皆の消耗も激しい。肉体というより心がだ。
これ以上、ここに置いていくわけにはいかない。
「状況はわかった。これから全員を地上に戻す。先ずはそこで、ゆっくり休んでくれ」
「……休んでくれなんて言われても」
児玉の気持ちは分かるが、こんな所にいても仕方がない。
一人ずつ地上へ飛ぶ。心を落ち着かせてくれ。
もう彼らは召喚者。俺のスキルで無理矢理飛ばそうとしも不可能だ。少しでも抵抗されたら効果は無い。
だけどある意味幸いで、もうここにいる全員、抵抗するような気力は持ち合わせていなかった。
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